第39話 梶原の部屋

 打ち上げ会場から抜け出した俺たちは、梶原かじわら中隊長の部屋に忍び込む為、宿舎へと向かった。


 宿舎には当然第六以外の隊員もいる為、梶原中隊長の部屋に忍び込むには周囲にも気を配らなければならない。


「ここだな」


 梶原中隊長の部屋の前まで来ると、男鹿おが大隊長はおもむろにドアノブを回す。しかし、当たり前だが部屋には鍵が掛かっていたのでドアが開く事はない。


「どうするんですか?」


 まさか壊す訳にはいかないだろうし、どうするのか見守っていると、男鹿大隊長はポケットからピッキングツールを取り出した。


「ここの鍵はディスクシリンダーだからな、コイツで簡単に開けられる。誰か来ないか見張っててくれ」


 そう言って男鹿大隊長は、慣れた手つきで鍵穴にピッキングツールを差し込み、器用にソレを操るとドアの鍵はあっさりと開いた。


「ほらな」


 男鹿大隊長はこちらを振り向き、得意げな顔をした。


「どこで覚えたんですか? そんな技術」


「悪用してないだろうね?」


 俺と立華りっかは、やや呆れた様子でそう呟いた。


「何でそんな不審者を見る様な目なんだよ。ここは称賛するシーンだろうが」


 せっかく鍵を開けたのにドン引きされた男鹿大隊長は不満の声を上げる。


「日頃の行いだろうね」


「ぐぅ……」


 立華にド正論をかまされて、男鹿大隊長は悔しそうに唸る。


「それより大隊長、早く済ませましょうよ」


 ドアの前で凹んでいる男鹿大隊長を促し、俺は部屋へと入る。


 部屋の中はモノトーンを基調とした落ち着きのある雰囲気で、住んでる者の几帳面さを伺わせるかの様に、机の上や本棚は綺麗に整頓されており、ベッドに至ってはシーツにシワ一つ見られない。


「ずいぶん綺麗な部屋ですね……なんて言うか、生活感がないと言うか」


 それが部屋に入って俺が抱いた第一印象だった。まるでホテルの一室の様だ。


 ──これは下手に部屋を探ったらバレてしまいそうだな。


 俺のそんな心配を他所に、男鹿大隊長は豪快に机の中を漁っていく。


「ちょっと大隊長、もっと丁寧にやらないと」


「んなチンタラやってたら梶原が帰ってくるかもしれないだろ」


 確かにその通りだが、痕跡を残さないようもう少し丁寧に捜索してほしい。


「おい煉、凄いぞこのマットレス。私たちの部屋のやつより上等だ」


 振り向くと、そこには優雅にベッドへ横たわる立華の姿があった。


「馬鹿、何やってんだよ!シーツにシワが出来るだろ」


 俺は慌てて立華をベッドから降ろすと、シーツのシワを必死で伸ばした。


「……まったく」


 不満を口にしながら俺がベッドメイキングをしていると、後ろで男鹿大隊長が何かを見つけた様だった。


「ん? これは……」


「どうかしましたか?」


 振り向いてそう聞くと、男鹿大隊長は冊子の様な物を手にしていた。


「何ですかそれ?」


「わからん」


 男鹿大隊長は手に持った冊子をおもむろにペラペラとめくると、何やら数字が羅列されていた。


「……帳簿みたいだな」


「何の帳簿ですかね?」


「んーわからんが、とりあえず写真を撮っておくか」


 そう言って男鹿大隊長は、ポケットから携帯を取り出して写真を撮ろうとしたその時、部屋の入り口から何者かに声をかけられた。


「何か見つかりましたか?」


 声の方を振り向くと、そこにはいつに間にか部屋に入って来ていた梶原中隊長が立っていた。

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