第38話 最終日

 合同訓練最終日。


 厳しい訓練期間も気付けばあっという間に終わり、長い様で短く濃密な時間だった。


 最終日は打ち上げとしてバーベキューが開かれる事となった。ちなみに発案者は男鹿おが大隊長らしい。


「みんな訓練お疲れ!」


 隊員達の前に立って挨拶をするのは櫛引くしびき大隊長だ。当初は発案者の男鹿大隊長が挨拶する予定だったが、やらかしを危惧してか朝日奈あさひな中隊長に止められ、他隊に恥を晒したくないという理由から皆も賛同した。


「今日は合同訓練の最終日という事で、互いの隊の交流会も兼ねて打ち上げの場を設けた。今日は無礼講だ!みんな好きなだけ飲んで食って騒いでくれ!」


 櫛引大隊長の言葉に隊員達が一斉に「うおおー!」という声を上げる。


「うおおー!!」


 男鹿大隊長が、他の隊員に混じって歓喜の雄叫びを上げている。あんたは少し自重しろよ。


「いやーでもホント疲れたよね。パラシュート無しで降下訓練させられた時は死ぬかと思ったよ」


 訓練を振り返り、そう語る結衣ゆいに俺も相槌を打つ。


「本当にな」


 訓練後半はまさに命懸けと言っても過言ではなかった。先程、結衣が言った降下訓練もそうだが、まさか最終日の訓練で本当に砲弾までぶっ放されるとは思わなかった。一瞬でも霊殻れいかくを緩めれば死に繋がる危険な訓練内容だった。


「まあ、お陰で霊力の扱いは相当上達したと思うよ」


 危険で過酷な訓練ではあったが、霊力の扱いや霊殻の硬度は間違いなく上がっていた。拙いながらも連携も取れるようになってきた。朝日奈中隊長が言っていたように、確実に強くなったと言えるだろう。


「よーう、お前ら。飲んでるか?」


 ビールを片手に、既に顔を赤くした男鹿大隊長がやって来た。


「飲んでるわけないでしょ、俺たち未成年なんだし。ていうか大隊長飲み過ぎないでくださいね」


 俺は大隊長に釘を刺した。というのも、今回打ち上げを行った理由は他にある。


 みんなが騒いでる中、頃合いを見計らって抜け出し、梶原かじわら中隊長の部屋に忍び込むという計画だ。その際、自然に抜け出すため泥酔した男鹿大隊長を部屋に運ぶフリをする事になっている。


「だいじょーぶ、だいじょーぶ。分かってるって」


「本当かなぁ」





 一時間後、そろそろ頃合いかと男鹿大隊長の方を見ると、いい感じにへべれけになっている姿が確認できた。


「男鹿大隊長、飲み過ぎですよ。部屋に戻りましょう」


 俺は男鹿大隊長の元に行き、そう促した。


立華りっか、手を貸してくれ」


 俺が呼ぶと立華は「やれやれ」といった様子でこちらに来る。


「ほら、立てますか大隊長?」


 俺と立華は男鹿大隊長に肩を貸し、支えるようにして立たせ、そのまま引きずるようにして人目の無い所まで移動した。


「おい、そろそろ自分で歩いてくれないか。まさか本当に泥酔していないだろうね?」


 立華が確認するように問い掛けると、男鹿大隊長は自分の足でしっかりと立った。


「よかった、本気で酔ってるんじゃないかと心配しましたよ」


「バカ言ってんじゃねえよ、敵を騙すにはまず味方からってな。行くぞ」


 そう言って歩き出した男鹿大隊長だったが、しっかり酔っていて千鳥足だった。


「はぁ……」


 俺と立華は額に手を当て、ため息をつくのだった。

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