第35話 集団戦闘
合同訓練二日目。今日行われるのは、分隊ごとに分かれての戦闘訓練だ。
「では各員、隊を組んでください」
通常、分隊は二十人程度で編成されるのだが、奏霊士の数は少ないため半分の十人で一分隊とする事となっている。
俺たち十一大隊は、俺と
さらに今回の訓練は、より実践に近い形で行うという事なので天倫術師の参加も認められている。その為、今回は
「さて、訓練を始める前に今回初めて訓練に参加する十一大隊の方々の為に、改めてルールの説明をします」
梶原中隊長が隊員達の前に出て、これから行われるのは訓練にについての説明を始めた。
「まず、これから皆さんに腕章を回しますので受け取ったら腕に付けてください」
その言葉通り、腕章が皆に配られ全員が言われた通り腕章を腕に付けた。
「その腕章は、装着者が受けるダメージを肩代わりしてくれますが、一定のダメージを負うと破れる様に出来ています。腕章が破れた者は戦闘不能と見做し、次の試合まで戦闘には参加できません」
俺は自分の腕に付けた腕章を見て「へぇ」と呟いた。おそらく何らかの術式が込められているのだろう。
「一試合の制限時間は三十分。勝敗は全員の腕章が破れるか、制限時間が過ぎた時点での残った隊員の数で決まります。残った隊員の数が同じだった場合は引き分けとします。試合は総当たりで、最下位にはペナルティーが課せられますので頑張ってくださいね」
梶原中隊長が和やかに説明を終え、ペナルティーがある事を告げると隊員達から「げぇー」と言った声が上がった。余程ペナルティーが嫌なのだろうか。
そうして始まった分隊毎の総当たり戦。俺たちの初戦の相手は第八分隊。奏霊士九人に天倫術師が一人の編成の隊だ。
ちなみに天倫術師は奏霊士以上に数が少ない為、第六大隊全体でも数えるほどしか存在しない。第八分隊はその数少ない天倫術師が編成された珍しい隊だった。
一方、こちらの人数は向こうの半分。穴埋めに朝日奈中隊長が入っているとはいえ数の上では不利だ。
「頑張るっすよーみんなー」
訓練場の隅で、ゲッソリとした男鹿大隊長と共に見学している
「まずは術師を潰すぞ」
開始前に、朝日奈中隊長が指示をした。天倫術師は主にサポート役だが、放っておく厄介だ。朝日奈中隊長の言うように、まずは術師から狙うのが定石だろう。
「始め!」
戦闘開始の合図と共に俺達は術師を潰す為、前へ出る。
しかし、当然相手側も術師を狙われるのは想定している為、こちらの行手を遮る様に前衛が前に出る。
相手に阻まれ足を止めていると、敵の術師が詠唱を始めた。
『聖令を
詠唱が終わる前に術師を止めなければならないが、前衛に阻まれて前に進む事が出来ない。
『汝、七天を覆いし漆黒の天帝』
「ちっ!」
詠唱が中盤に差し掛かり、焦りと苛立ちから朱利が舌打ちをする。
『
──駄目だ間に合わない。
術師の詠唱が終わると、敵の前衛は術に巻き込まれない様、即座に後方へと飛び退いた。
『
敵の術が発動し、黒い雷撃が俺達を襲う。
誰もが終わりだと思ったその瞬間、背後から紫音の声が聞こえた。
『
その直後、俺達の周りを青白い障壁が包み込み、直撃すると思われた黒い雷撃を防いだ。
「何だと?」
敵の術師が目を見開いて驚いている。
紫音の機転によって何とか救われたが、危機はまだ去っていない。敵が紫音を排除しようと動き出した。
俺たちは紫音を守る為、向かってくる敵を止めようと試みたが止めきれず、防御を突破した1人が紫音に迫る。
さらに敵の術師が再び術の詠唱に入った。
──まずい。
俺は朝日奈中隊長の方を横目で見るが、彼女も5人を1人で相手している為、カバーに入れる余裕はなさそうだった。
──防御も攻撃も圧倒的に手が足りない。
敵が紫音に斬り掛かり、今度こそ終わりだと俺は思った。
突如、紫音の袖口から大量の霊符が波濤の様に飛び出し、敵の体を覆い尽くす。
「何ぃ!?」
膨大な量の霊符が、敵の全身を覆い尽くす様に貼り付き、相手は自由を奪われ地面に這いつくばる。
「……燃えろ」
紫音が言葉を発すると、敵の全身を覆っていた霊符が一斉に燃え上がった。
「うあぁー!」
敵は炎に包まれ悲鳴を上げるが、即座に炎は消える。どうやら腕章が炎のダメージを肩代わりしてくれた様だが、一定以上のダメージを受けた為、腕章は燃え尽きた。
さらに紫音は前方の敵に向けて手をかざす。
「みんな……下がって」
紫音に言われて俺達は下がった。
「裁け天帝、雷天穿」
紫音が命ずるかの様に発した直後、無数の黒撃が敵を激しく撃ちつけた。
「「「ぐあぁー!」」」
先程、相手の術師が放ったのと同じ術を唱え、詠唱中の術師ごとまとめて敵を沈黙させた。
「凄っ」
紫音の術を見て、結衣が驚嘆の声を上げる。
「そこまでですね』
第八分隊全員の腕章が破損したのを確認し、梶原中隊長が試合の終了を告げた。
「ほとんど紫音1人で片付けちゃったな」
「……別に、大した事ない」
俺の称賛の言葉に、紫音はやや照れた様にそう答える。
「流石、実戦経験があるだけに落ち着いたものだったね」
いつの間にか人型に戻っていた立華も紫音を称賛する。確かに実戦慣れしているのもあるだろうが、それ以上に注目するべきは彼女の天倫術だ。
「お見事でした。流石は無詠の魔女と呼ばれるだけの事はありますね」
梶原中隊長が拍手をしながら、こちらに近づいて来た。
「無詠の魔女?」
「おや、ご存知ないですか?彼女の戦場での二つ名ですよ」
俺の疑問の声に、梶原中隊長が説明をする。
「天倫術の弱点である詠唱を必要とせず、戦場を蹂躙する事からついた名前が無詠の魔女」
そう笑顔で話す梶原中隊長の言葉を紫音が否定する。
「……無詠唱じゃなくて……略式詠唱。それと……その名前で呼ばれるのは好きじゃない……です」
「おや、これは失礼しました。しかし、第十一霊能大隊は数こそ少ないものの有望な人材がいて羨ましいですね」
梶原中隊長はそう言うと俺の方を向き、射抜く様な目でこちらを見つめてきた。
「久坂君、でしたね。あなた、このままじゃ宝の持ち腐れですよ」
「……え?」
表情こそ笑顔ではあるものの、その目は笑っておらず、とても冷たいものを感じた。
「そろそろ次の試合が始まりますね。それでは」
そう言って、何事もなかったかの様に梶原中隊長は去っていった。
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