第33話 第六大隊の内情
「……疲れた」
合同訓練初日を終え、俺は早くも根を上げそうになる。
今日行われた霊殻強化訓練は、展開した霊殻をひたらすら維持するだけというシンプル内容だった。
側から見たら、ただ聖霊刃を構えて立ってるだけという地味な絵面だが、長時間霊殻を維持するというのは想像以上にキツく、10分もすれば汗だくになるくらい見た目以上にハードな訓練なのだ。
そんな訳で、俺は霊力を消耗し切ってフラフラな状態で宿舎までの帰路を歩いているのだった。正直このままベッドにダイブして爆睡したいのだが、この後、
「情けないっすねぇ。まだ初日だってのにそんな死にそうな顔して」
俺の傍を歩く
「お前、訓練に参加してないくせに」
「いやー残念っすね。呪符の影響がなければあたしも参加したのにー」
俺は、ぬけぬけと思ってもいない事を口にする小嶺を恨めしそうに見る。絶対、参加しなくてラッキーとか思ってるに違いない。
「しかしこれで軽めの訓練内容だっていうんだからな。明日以降どんな訓練が待ってるのやら」
「噂っすけど、普段は展開した霊殻に銃弾や砲弾ぶっ放してるらしいっすよ」
「マジかよ……」
俺は、小嶺の話を聞いて思わず青ざめた。さすが狂ってる団と揶揄される第一空挺団麾下の部隊だ。完全に狂ってる。
「……
「縁起でもない事いわないでくれ」
洒落にならない
そんな会話をしてる間に、男鹿大隊長の部屋の前に到着した。
ノックをし、返事を確認してから部屋に入ると、男鹿大隊長が缶ビールを片手に座っていた。
「おう、早かったな」
「
俺がそう伝えると男鹿大隊長は「そうか」と一言だけ言うと、手に持った缶ビールをゴクゴクと喉を鳴らしながら流し込む。
「ぷはぁー。やっぱ仕事の後の一杯はたまらんな。お前らも飲むか?」
「いらないっすよ。てか、なに当たり前の様に飲んでんすか」
「いいじゃねーか別に。もう勤務時間終わってんだから、固いこと言うなよ」
文句を言う小嶺に反論しながら、男鹿大隊長は二本目のビールを取りに行った。それを見て
「酔えない私からしたら酒の何がそんなにいいのかわからんね」
それを聞いた男鹿大隊長が「え?」と意外そうな顔をする。
「可哀想に、そりゃ人生の半分を損してる様なもんだぞ」
「君は酒で人生を棒に振るわない様に気をつけるんだね」
酒でマウントを取られた立華は、そう皮肉で返した。
程なくしてドアをノックする音が聞こえ、
「んじゃ、全員集まったし始めるか。朝日奈」
「はい」
朝日奈中隊長は何やら資料を取り出した。
「第六について大隊長及び、中隊長三人について調べました」
いつの間に調べたのか、朝日奈中隊長は手元の資料を読み上げる。
「まず
帝都重工といえばこの国でもトップの重工業メーカーだ。櫛引大隊長が訓練校ではなく、一般企業出身なのは意外だった。
「あれ? 男鹿大隊長って櫛引大隊長と同じ隊に所属してたって言ってましたよね」
俺は、ふと疑問に思った事を口にした。
「ん? あぁ、俺は元々第六にいたからな。もう十年ぐらい前だけどな」
「素行不良で脱隊させられたんすか?」
「ちげーよ馬鹿」
男鹿大隊長は憎まれ口を叩く小嶺の頭をチョップした。
「次に中隊長三人についてですが、まず
所謂エリート街道というやつだろうか。あの若さで中隊長を任されるのだから相当優秀なのだろう。そういう意味では朝日奈中隊長も同じではあるが。
「次に
とりわけ優秀というわけではないが、仕事はそつなくこなし隊員達に好かれる。そんな人物のようだ。
「そして最後に
話を聞いていると、櫛引大隊長の言っていた隊員同士の壁というのは、どうやら梶原中隊長が発端の様に思える。
「んー、気になるな」
男鹿大隊長が唸る。
「
朝日奈中隊長が確認するかのように聞く。
「まだ分かんねえけどな、ただ不満ってのは反乱の火種になるもんだからなあ」
「第一中隊は反乱を企ててるという事ですか?」
「というより、先月の訓練校襲撃の反乱軍と繋がりがあるかもな」
なんだか一気にきな臭い話になってきた。
「よし、決めた。明日は第一中隊と訓練を行うぞ」
明日の方針が決まった事で、今日はもうお開きとなった。俺は食事と入浴を済ませると、明日に備えてさっさと寝る事にした。
そういえば
そんな事を考えているうちに、俺の意識は徐々に遠のき朝まで泥の様に眠るのだった。
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