第32話 訓練の幕開け
不意を突き、完全に入ったと思われた
「いい攻撃だ。だが、その程度じゃ俺の霊殻は破れないぞ」
霊殻の硬度は奏霊士の霊力や技量によって変わる。不意を突いた聖霊刃の一撃でヒビ一つ入らないとは、櫛引大隊長の霊殻は相当な硬さだ。
「クソッ!」
朱利は後ろに飛び、一度距離を取ると聖霊刃に込める霊力を研ぎ澄まし再び斬りかかる。
「ハァ!」
気合いと共に振り下ろされた一撃は、霊殻を斬り裂き櫛引大隊長へと迫る。
「おっと」
しかし櫛引大隊長は焦ることなく、朱利の鋭い一撃を難なく躱した。
「凄いな、もう対応して霊殻を突破するとは」
驚嘆の声を上げる櫛引大隊長に、朱利は手を休めることなく尚も攻撃を続ける。
『おい、見てないでキミも参加しろ!』
思わず見入っていた俺に、
「わ、わかってるよ」
俺は地面を蹴るのと同時に立華を振り上げ、間合いに入った瞬間に上段からの一撃を繰り出す。
俺の放った一撃は、櫛引大隊長の聖霊刃によってあっさり防がれる。
「流石は原初の一振りか、食らったらヤバそうだ」
櫛引大隊長は俺の攻撃を器用に受け流し、体勢が崩れたところに強烈な蹴りを入れ俺を吹き飛ばす。
「ぐはぁ!」
受け身を取れず、背中を地面に打ち付けた俺は衝撃で肺の中の空気を吐き出し呻き声を上げる。
「……うぅ」
内臓の痛みに耐え、立ち上がろうとする俺と入れ替わる様に
「うわぁ!」
ようやく立ち上がった俺は、投げ飛ばされた結衣に押しつぶされる形で再び地面へと転がった。
「ごめん、煉」
「痛てて……」
『何をやってるんだ!一人ずつ掛かっても駄目だ。三人で同時に斬り掛かるんだよ!』
「わかってるって」
「え、なに?」
立華に返事する俺を結衣がキョトンした顔で見る。
「あぁ、そっか。結衣には聞こえてないのか。それより結衣、三人で同時に仕掛けるんだ」
「わかった」
立華に言われた通り三人で同時に攻撃を仕掛けるべく、俺と結衣は同時に動いた。
「いいね、そう来なくっちゃ」
楽しそうに笑みを浮かべる櫛引大隊長を囲むように、三方向から攻撃を仕掛けたが、巧みな体捌きと受け太刀によっていなされてしまう。
「邪魔だ久坂!」
「わ、悪い」
攻撃の軌道に割り込んでしまった俺に、朱利が声を荒らげる。やはり急造な連携では足並みが揃わず、お互いの攻撃のタイミングが合わない。
それでも俺たちは、手を休める事なく攻撃を続ける。
『足を狙うんだ』
立華に言われるまま俺は櫛引大隊長の足を狙い、刃を横薙ぎに振り払う。
しかし、俺の放った一撃を櫛引大隊長は大きくジャンプして躱した。
しめた。と俺は内心ほくそ笑んだ。空中では自由に動けない。俺と同様、チャンスと見た他の二人も空中の櫛引大隊長を狙い攻撃を仕掛けた。
完全に捉えた。そう思った瞬間、櫛引大隊長の体は俺たちの斬撃から逃れる様に空中を蹴って移動した。
「なっ!?」
驚くのも束の間、櫛引大隊長は一瞬にして着地し、無防備になった俺たちを横一閃の斬撃で薙ぎ払った。
「よーし、そこまで!」
「まだやれますよ!」
納得いかないのか、朱利が男鹿大隊長に試合の継続を訴える。
「ぶっ倒れるまでやる気か?この後まだ訓練も残ってるんだぞ。それに、これ以上やっても結果は同じだ」
「くっ!」
無情にも告げられた言葉に、朱利は歯を食いしばるようして悔しがった。
「いやー最後のは危なかった。三人とも中々いい線いってたぞ」
飄々とそう語る櫛引大隊長の顔には汗一つ浮かんでいない。
「……あの、最後のアレは何だったんですか?」
「アレとは?」
俺の質問に櫛引大隊長が小首をかしげる。
「空中で移動したでしょ? アレは一体……どうやったんですか?」
「ああ、アレか。あれは……」
「
櫛引大隊長の言葉を遮るように朱利が答えた。
「正解。よく知ってるな」
「……いえ。見たのは初めてですが」
「ウチは第一空挺部隊麾下の隊だからな。こういった技術も必要なんだ。キミ達も訓練すれば出来るようになるはずだ」
なるほど、確かに降下作戦など空からの任務を担う部隊では空中で動ける術は必須かもしれない。出来ればこの訓練期間内に自分も会得したいものだ。
「さっきの試合でキミ達チームの課題もわかったはずだ。是非ともこの合同訓練で何か一つでも得てくれれば幸いだ。さあ、休憩は終わりだ。訓練に戻るぞ!」
櫛引大隊長の掛け声と共に、隊員達が訓練へと戻る。
「よーし、じゃあ俺たちも訓練に参加するぞ。櫛引ぃ何すりゃいいんだ」
「うん、今日は合同訓練初日だからな、軽めのメニューにしておいたぞ」
櫛引大隊長は腰に手を当て訓練内容の説明をする。
「題して、霊殻強化訓練だ!」
こうして、潜入調査を兼ねた地獄の訓練初日が幕を開けたのだった。
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