第31話 余興
大きな声で名乗りを上げる
「君たちが十一大隊に新しく入った隊員の
「誰がろくでなしだ。爽やかに言えば何でも許されると思ってんじゃねえぞ。ったく」
櫛引大隊長にろくでなし呼ばわりされた
「あの……二人はお知り合いなんです」
やけにフランクに話す二人に、大隊長同士だからという理由以上のものを感じた俺は質問をした。
「もともと同じ隊にいたんだよ。まだ俺らが新米だった頃の話だけどな」
「へえー、どんな感じだったんですか二人の若い頃って」
興味本位に結衣がそう質問する。
「そうだなあ。男鹿はギャンブルと酒が好きで、よく俺に金の無心をしてたな。あと訓練もたまにサボって殴られてたりしたっけ?」
「なんだ、今と変わらないっすね」
「成長してないと言うべきだね」
「……クズ」
懐かしむように語る櫛引大隊長の話を聞いた女性陣の辛辣な言葉に、男鹿大隊長が心なしか傷ついているように見えた。
「いいんだよっ俺の事は!それよりお前のとこの副官はどこ行ったんだよ?」
話を逸らすように、男鹿大隊長はこの場に姿が見えない第六の副官について聞いた。
「
「なんだよ、合同訓練だってのに別行動かよ」
「まあ、ウチも色々あってなあ。第一中隊の面子は訓練校上がりで、正規兵っていう意識が強くてな。中途入隊組とは壁があるんだよ」
櫛引大隊長が言うには、一部の隊員達の中で訓練校を卒業した者のみが正規の奏霊士であり、外部から中途で入隊した者は正規のルートを辿っていない
「オイオイ、そんなんで大丈夫なのかよ?」
「まあ何とか上手くやってるさ。ところで」
突然、櫛引大隊長がこちらを振り向き立華の顔を見る。
「君が
「そうだけど何かな?」
「いや何。人の形をして意思を持って、しかもコミニュケーションまで取れる聖霊刃なんて初めてだからね」
櫛引大隊長は、まるで新しいオモチャを目の前にした子供の様にキラキラした目で立華を見る。
「しかも聞けばキミは原初の一振りだというじゃないか。久坂君!」
「え?あ、はい」
「どうだろう、俺と立ち合ってみないか?」
唐突な櫛引大隊長の申し出に周囲もざわついた。
「櫛引大隊長!」
傍にいた種村中隊長が諌めるように声を上げた。
「いいじゃないか、単なる余興だよ。大丈夫ケガはさせないから」
種村中隊長は最早止められないと諦めたのか「はぁ」と溜め息をついた。
「よーし! それじゃいっちょやろうか!」
櫛引大隊長は両拳をガンッと打ち付けて、完全にやる気満々だ。
「暑苦しい奴だろ? 昔からあいつがいると気温が上昇するって言われててな。まぁ無理に受ける必要はないぞ」
俺に気をつかってくれたのか、男鹿大隊長はそう助言してくれた。
「いえ、せっかくの申し出なんで受けようと思います」
「そうか、わかった。無理してケガだけはすんなよ」
俺は頷いて前に出ると、後ろから朱利が声を上げた。
「櫛引大隊長、もし宜しければボクとも立ち合ってはもらえませんか?」
急な申し出にも関わらず、櫛引大隊長は嫌な顔一つせず「いいぞ」と二つ返事をすると、結衣に声を掛ける。
「そこのキミ」
「え、私ですか?」
「この際だ、キミも参加するといい」
櫛引大隊長の鶴の一声で、十一大隊の新人全員が立ち合いに参加する事となった。
「うぅ……私、別に参加するつもりなかったのに」
半ば強引に参加させられる事となった結衣は、ゲンナリした様子で不平を漏らしていた。
「よし! それじゃあ始めようか」
やる気に満ちた櫛引大隊長の周りに、いつの間にか休憩していた隊員たちが集まり出した。
「誰から来てもいいぞ。いや、面倒だな全員まとめて相手しよう。一太刀でも入れられたら君たちの勝ちでいいぞ」
挑発とも取れるその発言に、立華が不適な笑みを浮かべている。
「舐められたものだね」
そう言うと立華は聖霊刃へと姿を変え、俺の右手へと収まる。
『さあ行け煉!鼻っ柱をへし折ってやれ』
「……まったく」
立華にせっつかれながら俺が構えると、その横を聖霊刃を抜いた朱利が駆け抜ける。
朱利は一気に櫛引大隊長の懐に飛び込むと、まだ構えてもいない相手に容赦なく斬りつける。
完全な不意打ち。意表を突かれた櫛引大隊長は躱す事も出来ず斬られた……はずだった。
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