第30話 習志野駐屯地

 出発から約一時間半、俺たちを乗せたトラックは習志野駐屯地へと到着した。


 千葉県船橋市に所在する習志野駐屯地は、陸軍の精鋭部隊と言われる第一空挺団が駐屯する駐屯地である。


 第一空挺団には様々な超人的な逸話があり『狂ってる団』などと揶揄される精強な部隊であり、第六霊能大隊はその麾下の隊の一つだ。


「ここが習志野駐屯地か」


 トラック降りて敷地内を見渡した俺は、ありきたりな第一声を口にした。


 俺たちがトラックから降りると、二人の隊員が出迎えてくれた。一人は人当たりが良さそうな三十代後半の男性。もう一人は真面目そうな三十代前半の女性だ。


「ようこそ習志野駐屯地へ。第六霊能大隊所属、第二中隊長の君島誠きみじままことです」


「同じく第三中隊長の種村沙希たねむらさきです」


 出迎えてくれた二人の中隊長が敬礼するのを見て、俺たちもすぐさま敬礼した。


「わざわざお出迎えしてもらって、すみませんね。第十一霊能大隊の男鹿おがです」


「副官の朝日奈美和あさひなみわです」


「いやぁ、今回は急な合同訓練に応じていただいてありがとうございます」


「いえ、こちらこそ宜しくお願いします。まずは宿舎にご案内します」


 柔和な笑みを浮かべ、君島中隊長は俺たちを宿舎まで先導するのだった。


 君島中隊長を先頭に歩いていると、程なくして大きな建物が見えてきた。


「あれが男性用の宿舎です。女性用の宿舎はこことは別の場所になりますので種村が案内します」


「では女性の方は私の方について来てください」


 男女で宿舎が離れてる為、男性は引き続き君島中隊長に、女性は種村中隊長の後について行く事となった。


 当然のように俺と一緒に君島中隊長の後をついて行く立華に結衣が声を上げた。


「ちょ、ちょっと立華はそっちに行くの?」


「え? 当然だろう、私は煉の聖霊刃なんだから」


「いや、そうなんだけど……」


 納得いかないが反論も出来ず、もどかしげにしている結衣をなだめる様に小嶺が肩を叩く。


「まあまあ、割り切るしかないっすよ。こっちはこっちで女同士仲良くやりましょーよ」


 小嶺は結衣の肩に手を回し、エスコートするかの様に女性陣の方へと誘導するのだった。


「おーい、置いてくぞー」


 すでに先を歩いている男鹿大隊長に呼ばれ、俺たちも遅れて着いていくことにする。


「ん?」


 ふと隣を見ると、そこには男性陣の方へと着いて歩く朱利の姿があった。


「なんだ?」


 俺の視線に気付いた朱利は、ギロリとこちらを睨みつける様に見て言うのだった。


「いや、別に何も……」


 朱利の眼力に気圧され俺は押し黙った。


 本音を言えばどうして朱利が男装してるのかは気になる。しかし、それを本人に聞く勇気は俺に無かった。


「前から気になってたんだが、どうして君は女なのに男の様に振る舞うんだい?」


 朱利の後ろを歩いていた立華がイキナリそんな事を聞いてきた。さすが立華、俺が躊躇して聞けなかった事を平然と聞こうとする。そこにシビれる、憧れる。


「どうだっていいだろ。お前には関係ない」


 朱利は立華の質問に答えるつもりはなく、突き放すようにそう言い放った。


「あっそ。まあ、別にいいけど。ただ、この先も続けていくのは大変なんじゃないかな?一部の人間にはもうバレてるんだし、いっそ女として堂々と振る舞えばいいのに」


「余計なお世話だ」


 そう言い捨てて朱利は俺たちの先を行くように早足で歩き出した。


 険悪な雰囲気なまま歩くこと数分、宿舎にたどり着いた俺たちは、割り当てられた部屋へと荷物を置きに移動する。


 割り当てられた部屋は四人部屋で、2段ベッドが二つ備え付けられていた。ベッドが足りなかったらどうしようかと考えていたが、どうやら俺が床で寝る事にはならなくて安心した。


 男鹿大隊長は俺たちとは別に個室を用意されてるらしく、別の部屋へと案内された。


「えっと……ベッドはどうする?俺はどこでもいいけど」


「私は上がいいな」


 予想通り上段を選んだ立華は早速ベッドによじ登り、大の字で寝そべった。


「じゃあ俺はその下を使うから、そっちのベッドは朱利が好きに使っていいよ」


 俺がそう言うと朱利は「ああ」と一言だけ返事をして、ベッドの脇に荷物を下ろす。


 ──気まずい。


 あの決闘以来、朱利は以前のように突っかかって来なくなったが、それでも同室となると気が重い。ましてや性別を偽ってるとはいえ朱利は女だ。そんな相手と一週間も同じ空間で過ごすとなると、気が休まりそうにない。


「おーい、荷物を置いたら外に集合な」


 男鹿大隊長が廊下から顔をのぞかせ、部屋にいる俺たちに声をかける。


 居心地の悪さを感じていた俺が真っ先に部屋から出ると、立華と朱利が後に続いた。外に出た後、俺たちは第6との訓練に参加するため訓練場へと向かう事となった。


 途中、朝日奈中隊長たち女性陣と合流し、訓練場へと辿り着いた。


「大隊長、第十一霊能大隊の皆さんをお連れしました」


「うん? よーし、一旦休憩!」


 君島中隊長に声を掛けられた男は、隊員に休むよう指示をするとこちらに向き直った。


「ようこそ十一大隊の皆さん!第六霊能大隊、大隊長、櫛引隼人くしびきはやとだ!」

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