第26話 入隊
四月になり、入隊式を迎えることになった。
着替え終えた俺が部屋から出ると、廊下で待っていた立華がオレの姿を見て「ほう」と、感嘆する。
「なかなか似合ってるじゃないか」
「そ、そうかな? 自分じゃなんか変な感じするんだけど」
「ふふ。出会った頃は頼りなかったが、随分と立派になったじゃないか」
立華は、まるで成長した我が子でも見るかのように感慨深げに語っていた。
「そろそろ行かないと」
新人は入隊式で入場行進があるため集まるよう言われている。俺はその旨を立華に伝えると彼女は小さく頷いた。
「あぁ。私は
「わかってる」
俺はそう返事し、集合場所へと向かった。
その後、入隊式は行進曲に合わせた新人入隊員の入場行進から始まり、国歌斉唱、勝呂司令からの祝辞と訓戒、音楽隊による激励の演奏など、つつがなく終わった。
入隊式を終えた俺は、隊舎のソファーに身を投げるようにして腰を沈めた。
「はあー。なんか疲れた」
「やれやれ、戻ってくるなり情けないね」
気の抜けた俺を見て立華が呆れるように言う。
「なんだあ、緊張でもしてたのか?」
ソファーで脱力してる俺に
「いや……なんて言うか、この間の授与式での事があったから今回も何か起こるんじゃないかって気を張ってたもので」
「あんなのはそうそう無えよ。しかもここは軍事施設だしな。下手に手は出さないだろ」
「大隊長、そう言うのフラグって言うんすよ」
「え? 嘘、いまの無し」
小嶺に指摘されて大隊長が即座に否定するが、そのノリはまるで学生が休み時間にする雑談の様だ。
そんな二人のやりとりを見ていたら真面目に考えているのが馬鹿らしく思えてきてしまう。
「そろそろだな」
大隊長が腕時計をチラリと見てそう呟いた。
「何がそろそろなんですか?」
「
「え?ウチに新人が来るんすか?」
小嶺が鼻息を荒くして食いついた。
「ああ、それと如月も今日が着任日だ。まとめて朝日奈が連れてくる事になってる」
入隊時の隊員は自分を含めてたったの五人だったから、新しく隊員が入ってくれるのは俺としても素直に嬉しい事だ。
しばらくすると、コンコンとドアを叩く音がした。
「お、来たか。入れ」
大隊長が返事をすると、ドアを開けて朝日奈中隊長が入ってきた。その後ろに紫音が続き、さらにその後ろから見知った顔の二人が入ってきた。
「あれ?
中隊長が連れてきた二人のうち一人は
「まさかお前と同じ隊とはな」
そう悪態をついたのはもう一人の入隊員、
「……知り合い?」
「同じ訓練校だったんで」
紫音に聞かれ俺はそう答えた。
「あれ? 新人は二人だけっすか」
小嶺はもっと多くの隊員が入隊してくるものだと思っていたのか、少し残念そうだった。
「なんだよ文句あるのか? この短期間で四人も隊員増えただろーが」
大隊長は不満そうな小嶺を
その後、お互いの自己紹介が終わると、大隊長は布状の袋に包まれた棒状の物を手に結衣と朱利の前に立つ。
「正式な入隊を終えたわけだし、お前達に渡す物がある」
そう言って、大隊長は手に持っていた物を袋から取り出す。中から出てきたのは二振りの刀だった。
「これって、聖霊刃ですか?」
「そうだ。本来なら授与式で渡されるはずだった聖霊刃は盗まれちまったからな」
大隊長は手にした聖霊刃を二人に手渡す。
「よし、そんじゃ早速起動してみろ」
「ここで、ですか?」
手渡されてすぐに起動するよう言われて、朱利が少し戸惑ったように聞く。
「おう、ただし危ねえからぶん回すなよ」
大隊長に促され、朱利と結衣は渡された聖霊刃に霊力を込める。
「……あれ? 特に変化がないような?」
「こっちもだ、訓練では起動したら形状が変化したのに……」
二人は渡された聖霊刃に違和感を覚え、戸惑った。
「訓練校にあった聖霊刃は扱いやすいよう造られた、いわば初心者用の聖霊刃だったからな。今お前たちが手にしてるのは正式な聖霊刃だ。コイツを扱えるようになって初めて一人前の奏霊士ってわけだ」
「どうしたら上手く扱えるようになるんですか?」
結衣が大隊長に問いかける。
「聖霊刃ってのは一振りごとに性質が違う、全く同じ聖霊刃ってのは無いんだよ。まずは自分の聖霊刃の事を良く知る事だ」
大隊長の説明にイマイチ腑に落ちないのか、結衣と朱利は困ったようにお互いの顔を見合っている。
「よくわかんねえって顔だな。まあとりあえず自分の聖霊刃の名前を知るところからだな」
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