第27話 聖霊刃の名

「名前……ですか?」


「そうだ。聖霊刃には一振りごとに名前がある。今お前たちが霊力を込めて起動した事で確認できるはずだ。どれ、貸してみろ」


「え? ……あ、はい」


 結衣ゆいは一度、聖霊刃を鞘に収めてから大隊長に手渡した。


 結衣から聖霊刃を受け取った大隊長は、いつの間にか手に持っていた目釘抜きを使い、刀身を柄から抜き取った。


「ここを見ろ。さっき起動した時に浮かび上がったお前の聖霊刃の名前だ」


 大隊長が刀身のなかごを指差すとそこには菊理という文字が刻まれていた。


「きくり……って読むのか?」


 俺が茎に刻まれた文字を読むと結衣が首を横に振った。


「違う……くくり。この子の名前は菊理くくりだよ」


「この子って、聖霊刃は刀だろ?」


 聖霊刃をこの子と呼ぶ結衣に対して、朱利しゅりは馬鹿馬鹿しいという感じで吐き捨てる。


「そう思うか?」


「当たり前でしょ。まさか生きてるなんて言いませんよね?」


 大隊長の問いかけに朱利は即答した。そんな朱利を立華が何やら不満そうな顔で見ている。彼女からしたら自分の存在を否定されたようで気に入らないのだろう。


「聖霊刃は単なる武器じゃねえ。一つ一つが意思を持ってるんだよ」


 大隊長は朱利の聖霊刃を先程と同じ様に目釘を抜き、茎を露わにする。


「お前たちが聖霊刃に霊力込めると聖霊刃はそれに応えて名を教える。言ってみりゃ、お互いの自己紹介みたいなモンだな」


 そう言って大隊長は柄から抜いた茎を朱利の方に向ける。


「……蒼麟そうりん


 朱利が茎に刻まれた文字を名前を呼ぶようにゆっくりと読み上げると、呼応するかのように刀身から淡い光が発せられた。


「まるで名前を呼ばれて返事してるみたいだな。どうだ? 信じる気になったか?」


「ま、まあ認識は改めなからばいけないようですね」


 朱利は自分の考えが間違っていたのを認め、気恥ずかしそうにそう答えた。


「あの、気になったんですけど、他人の聖霊刃って使う事は出来るんですか?」


 俺はふと気になった事を大隊長に聞いてみた。


「基本的に聖霊刃は最初に起動した奴を主として認識するからなあ。まあでも、さっきも言ったが聖霊刃は一振りごとに性質が異なるから相性次第で使える場合もあるかもな」


「じゃあもし使用者が亡くなった場合はどうなるんですか?今の話だと、次の使用者の手に渡っても使えない事がほとんどなんじゃ?」


 少し不謹慎な話かもしれないが、俺は思い切って聞いてみた。


「んー、そういやどうなるんだろな……朝日奈あさひなお前知ってるか?」


「私も知りません。ただ、使用者が不在になった聖霊刃は降霊部が回収するそうです。噂では初期化したり、鋳潰して造り直してるなんて話もありますが」


 なんだかそれは酷い様に思えるんだが、それは俺が立華のような存在を知ってるからそう思うだけなんだろうか。


「まあとにかく、聖霊刃は単なる武器じゃなくお互い信頼するパートナーだと思う事だ」


 大隊長はそう言って、組み直した聖霊刃を二人に手渡すのだった。


「と、まあ聖霊刃の話はこの辺にして訓練の話をするぞ」


 訓練と聞いて俺を含む新人三人の間にやや緊張が走る。


「明日から習志野の駐屯地に行って、第六霊能大隊との一週間の合同訓練を行う」


「習志野……千葉ですか?」


 訓練と聞いて当然この駐屯地内で行われると思ったいた為、いささか俺は戸惑った。朱利も同じ事を思っていたのか、今回の合同訓練の趣旨を質問した。


「なぜわざわざ習志野まで行くんですか?合同訓練ならこの駐屯地にいる第四と行えばいいのでは?」


「今回合同訓練を行う第六の隊員の多くは訓練校を出ていない、外部からのスカウト組や志願で入って来た中途採用組だ」


 奏霊士になる道は二通りある。一つは俺たちの様に訓練校に入り卒業する事。もう一つは、成人してから霊力を発現した人間がスカウトされるパターンと自ら望んで入隊を申し出るパターンだ。どちらも即戦力を求められる為、厳しい入隊試験を突破しなければならない。


「訓練校しか経験のないお前たちにはいい訓練相手になると思ってな、今回こちらから合同訓練を申し出たわけだ」


 なるほど、訓練過程を経ていない中途採用組は訓練校出とは違い泥臭く実践的な戦いをすると聞く。そういった戦い方を俺たちに学ばせようという事か。


「と言うのは表向きの話な」


「……は?」


 予想を裏切る大隊長の言葉に思わずマヌケな声を出してしまった。


「表向きは合同訓練、だが本来の目的は第六の調査だ」

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