第24話 査問会

 査問会当日、大隊長達の後ろをついていく様に会議室へと続く廊下を俺たちは歩く。


 会議室の前まで着くと、男鹿おが大隊長は俺たちの方に振り向き声を掛ける。


「覚悟はできてるかお前ら?」


 俺たちの意思を確認するその言葉に全員が頷くと、大隊長はドアをノックして入室する。


 大隊長に続いて入室すると、会議室の中にはすでに各隊や部署のトップがテーブルを取り囲むように座っていた。その中には妹尾せのおの姿もあった。


 俺たちが先に着こうとすると、妹尾が声を上げる。


「男鹿君、その三人は何だね?」


 三人というのはモチロン俺と立華りっかそして小嶺こみねの事だ。


「部外者は立ち入り禁止だ。出て行きたまえ」


「彼らは証人です。事前に許可も得てます

が?」


 非難の声を上げる妹尾に男鹿大隊長が反論すると、正面奥のテーブルに座っていた初老の男性が口を開く。


「ああ、私が許可した。何か問題でも?」


「いえ……勝呂かつろ司令が許可したと言うのなら何も」


 司令にそう言われると妹尾は素直に引き下がった。


「それでは全員揃ったようですので、査問会を始めたいと思います。議事進行は私、倉地くらちが務めさせていただきます」


 司令の隣に座る、倉地と名乗る男が査問会の開始を告げる。


「では今回の容疑者である如月紫音きさらぎしのん君を呼びたいと思います」


 倉地のその言葉を受け、ドアの前で待機していた隊員が紫音を連れてくる。


 連れてこられた紫音はテーブルに囲まれる様、中央に立たされた。


「まず初めに今回の経緯を改めて説明させてもらいます」


 倉地はこの場に居る全員に、改めて一連の騒動について説明を始める。


「今月行われた降魔霊器管理局による棚卸しで、霊符の在庫が合わなかったため調べてみたところ、在庫データの改竄が発覚。さらに詳しく調査してみると、在庫データの改竄を行ったのは如月隊員だったとの事です。以上の事から如月隊員を霊符横領の疑いで拘束する事となりました。ここまではよろしいですか皆さん?」


 倉地が皆に確認を取ると、勝呂が司令が口を開いた。


「在庫データは改竄されていたという事だがどうして今回、横領に気付けたのかね?」


 勝呂司令の疑問に、妹尾が席を立って説明した。


「外部の監査員が改竄される前の在庫データを持っていましたので気付くことが出来ました。それまでデータの改竄に気付けなかったのは大変お恥ずかしい話です。今回の件は我々管理局の不徳の致すところ。それにつきましては如何様にも罰を受けたいと思っております」


 妹尾の説明に得心がいったのか、勝呂司令は「なるほど」と頷いた。


「では次に如月君、あなたは霊符を横領し第三者に横流ししたと言うのは事実ですか?」


「……いえ、事実無根です」


 紫音は倉地からの質問を否定で返した。


「妹尾君、彼女はこう言ってますが?」


 倉地の言葉に妹尾は、ふっと笑うように答える。


「彼女は嘘を吐いてます。お手元にある資料をご覧下さい」


 妹尾は事前に配っておいた資料を見るよう促す。


「これは在庫データへのアクセスログですが、ご覧のとおり彼女のIDで頻繁に在庫データへアクセスしているのがわかります」


 全員が資料に目を落としている中、妹尾は続ける。


「彼女は現在、霊符の製作に携わっています。つまり、いつでも霊符を盗み出すことができる環境にあるわけです。彼女は霊符を盗み、在庫データを改竄した。在庫データへのアクセスログはそれを証拠付けるものだと判断します」


「違う! ……私は在庫データになんてアクセスして……ません」


「見苦しいな、現にアクセスログが残ってるんだ。君がいくら否定したところで、これが現実だ」


 妹尾にそう反論されると紫音は何も言えず押し黙ってしまった。


「如月君、何か反論はありますか?」


「…………」


 もはや何を言っても無駄と判断したのか、紫音は下を向いて黙ったままだった。


「では次に証人から話を聞きたいと思います。証人、久坂くさか隊員。前へ」 


 名前を呼ばれた俺は、紫音と入れ替わるように部屋の中央に立つ。全員からの視線が突き刺さりもの凄いプレッシャーを感じる。


「では意見を述べてください」


「はい。まず先ほど妹尾部長の言った事は全て状況証拠にすぎません。私達はこの場においてこの事件の真相を明かしたいと思います」


 俺の発言に会議室全体がざわついた。


「真相……ということは他に犯人がいるという事ですか?」


「はい、順を追って説明します。まず如月さんが霊符を盗んだと言いますが、監視カメラの映像を確認したところ、彼女が霊符の保管倉庫に入った映像は確認できませんでした」


 俺の証言に妹尾が即座に反論する。


「くだらないな。保管倉庫に入っていなくても、彼女は自分で霊符を製作してるんだ。入庫時の引き渡しの際にこっそり抜き取る事だって出来る。そもそもアクセスログが残ってる以上、彼女のへの疑いは消えん」


「引き渡しの際に抜き取るとおっしゃいましたが、それもありえません」


「それは何故ですか?」


 倉地が不思議そうに聞いてきた。


「霊符の製作には霊皮紙という紙が使われる事はご存知かと思います。これは一般には流通していない物です」


 俺の話に皆それがどうしたという顔をする。


「そこで購買課で、この半年間に購入した霊皮紙の数を調べてもらい、プレハブ小屋にある霊符の数と比較したところ、数が一致しました。つまり彼女が製作した霊符は一枚たりともプレハブ小屋から出ていないんです」


 妹尾の表情が僅かに曇ったのを見て、俺はさらに続ける。


「そして彼女のアクセスログですが、これは明らかに捏造されたものです」


「そう言い切る根拠は何だね」


「一月六日のアクセスログインを見てください。記録上ではこの日、如月さんは23時から10分間、在庫データにアクセスしている事になってます。しかし当日、彼女はログインなどしていないんです」


 俺はポケットから預かっていた小嶺の携帯を取り出し、フォルダから一枚の画像を表示してから勝呂司令のテーブルの上に携帯を置く。


「これは?」


 勝呂が手に取った携帯には小嶺と紫音のツーショット写真が映っていた。


「その日、うちの隊員である小嶺と撮った写真です。日付と時間、撮影場所も確認できるはずです」


 携帯の写真には一月六日の23時2分という時刻と、撮影地が駅前のカラオケ店である事が表示されていた。


「年始早々から残業してる紫音ちゃんが可哀想だったんで、気晴らしに遊びに誘ったんすよ。その写真はその時に撮ったものっすね」


 小嶺がその場にいる全員に写真を撮影した経緯を説明した。


「このように彼女にはアリバイがあります。駐屯地にいなかった彼女のアクセスログが残ってるのは誰かがアクセスログを捏造した証拠です」


「つまり、犯人は他にいて如月がさんに罪をなすりつけようとしたという事です」


「では、その犯人とは誰なんですか?」


 倉地に問われ、俺は深呼吸する。


「霊符を盗みアクセスログを偽造した犯人。それは……妹尾部長あなたです」


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