第7話 訓練場
訓練場に向かう道中、俺は
一方、
気不味い空気の中、歩くこと数分。目的地である訓練場が見えてくる。
訓練場の入り口前に立っていた
合流した八尋は、険悪な空気を感じたのか、何かあった? と聞いてきたが結衣が、「別に」と不機嫌そうに答えた為、八尋もそれ以上は
「えっと、そっちの人は?」
八尋は立華を見てそう聞いてきた。そういえば八尋は立華とは面識がなかったな。
「彼女は立華、技術研究所の人だよ」
「立華だ、よろしく」
「よろしく立華、僕は
立華が手を差し出して挨拶をすると、八尋もその手を握り返し気さくにあいさつをする。
「ところで君と
と、握手を終えた八尋が当然の疑問を口にした。
「まあ、平たく言えばパートナーだね」
「パートナー? それはどういう事かな?」
「それ、私も気になるんだけど!」
立華の返答に対して八尋は首を傾げ、食いつくように結衣が割って入ってきた。
「そ、それより、早く中に入らないか?」
立華がまた可笑しな事を言い出す前に、俺は話を逸らしながら訓練場の中に入るよう誘導する。
「露骨に話を逸らさないでよ、やっぱり怪しいんだけど」
「あ、怪しくないって」
「なら素直に話してよね。なんか隠してるでしょ?」
「そ、それは……」
何か上手い言い訳はないかと頭をフル回転させてみたものの、都合よく思い浮かぶはずもなく、いっそ二人には打ち明けてしまおうかと逡巡していると背後から声をかけられた。
「いつまでも入り口の前ではしゃいでるんだ。邪魔なんだが?」
やや怒気を含んだ声の主に対して、俺は咄嗟に謝った。
「あぁ、ごめん」
俺がそう言って振り返ると、声の主は露骨に嫌そうな顔で舌打ちをした。
「落第生が女連れとはいいご身分だな」
あぁ面倒な奴に絡まれたなと、俺は内心げんなりした。
「そういえば久坂、お前卒業試験に落ちたのに学校に残らせて貰えるらしいな。羨ましいな、親が偉いと色々と便宜を図ってもらえて」
「朱利、煉は特例措置で残れるんだ。学校側が煉の可能性を考慮した上での決定だ、彼の親は関係ないよ」
「どーだか。少なくともボクが学校側の人間なら落ちこぼれの生徒なんて残そうとは思わないけどな」
俺は朱利の言う事を反論もできず、ただ黙って聞いていた。万年ドベの俺が学校側の配慮で残してもらえるなんて、何らかの力が働いていると疑われても仕方がない。
「八尋、お前も友達ならハッキリ言ってやるべきだ。才能が無いから諦めて現実を見ろってな」
「さっきから聞いていれば好き放題言ってくれるじゃないか」
八尋の辛辣な物言いに我慢がならなかったのか、立華が割ってはいってきた。
「煉は少なくとも君なんかよりよっぽど強い男だよ」
「なんだと?」
腕を組んだ尊大な態度でそう言い放つ立華を、朱利は睨み返す。
「おいっ! 立華」
「煉! 君も君だ。何故言い返さない、悔しく無いのか」
俺は慌てて立華を止めようとすると、彼女はこちらを振り向き、俺に人差し指をビシッと差して叱責する。
「いや、だって……俺が落ちこぼれなのは間違ってないし」
「それは過去の話だ、今の君はもう違うだろ」
「はっ、ボクが久坂より弱いって?ふざけた事を言うじゃないか」
「ふざけてなんかいないさ、なんなら試してみればいい」
「そこまで言うなら試させてもらおうじゃないか。ちょうどここは訓練場だ、やり合うには都合がいい」
「ちょっと待ってくれよ、俺はやるなんて一言も……」
朱利と立華の二人だけで話がどんどん進んでいく事に対して、俺は待ったをかけた。
「煉、ここで引いたら君はこの先もずっと見下され、馬鹿にされ続けるぞ。このまま一生卑屈な人生を送る気か?それでいいのか?」
立華の言葉は俺の胸に突き刺さった。今まで俺はずっと逃げてきた。自分に力がないからと言い訳ばかりして、立ち向かう事すら放棄していた。
「心配するな、君は私が認めた男だ。自信を持て」
俺は変われるのだろうか? いや、変わりたい!変えなきゃいけないんだ!俺を助けてくれた、あの人に恥じない生き方をする為に。
「無理に受ける必要はないぞ煉」
「そうだよ、怪我じゃ済まないかもしれないんだよ」
八尋と結衣が俺を心配して止めようとしてくれている。だけど、俺の心はもう決まっていた。
「朱利、その勝負受けるよ」
「ちょっと煉」
「大丈夫だ結衣、絶対勝って見せるから」
俺の態度が気に入らなかったのか、朱利の顔にイラつきが見えた。
「まさか本気でボクに勝てると思ってるのか?」
馬鹿にするなと言わんばかりの朱利に対して、立華が反論する。
「君は負けないと思ってるのか?」
「当たり前だ。もし負ける事があれば鼻からラーメンでも啜ってやる」
「ほう、なら啜って貰おうじゃないか。それも激辛のやつをね」
自分が負けるなど微塵にも思っていない朱利に対して、立華は楽しそうにペナルティを提案した。
当事者である俺を置いて、バチバチとやり合う朱利と立華。
こうして俺は、朱利との決闘に臨む事となった。
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