第6話 修羅場

「暇だ」


 そう呟いたのは、ベッドで大の字に寝そべり、天井を見上げている立華りっかだ。


 外出禁止令で部屋に籠って二日目、立華は早くも根をあげた様だ。


「大体この部屋は物が無さすぎるんだよ。ゲームはおろか漫画すらないじゃないか」 


「必要最低限の物しか置かない事にしてるんだよ」


 俺がそう答えると立華は、うへぇという表情を見せた。


「ストイック過ぎるよ。君は修行僧か?」


「誰が修行僧だ。そもそもゲームや漫画は持ち込み禁止だ。……まぁ携帯にゲームや漫画をこっそり入れてる奴はいるけど」


「まるで監獄だな、私にとっては地獄の様な環境だ」


 立華はうんざりした口調でそう言うと、ベッドに突っ伏した。


「自分の端末でゲームでもやればいいだろ。さっきまでやってたじゃないか?」


「今日の日課分の周回は終わってしまったからやる事がないんだよ、かと言って新しいゲームをやろうという気分でもないしなぁ」


 要するに飽きたらしい。ちなみに立華は、いわゆる廃課金勢というやつらしく、ガチャを引きまくってるのを横目で見た事がある。その金は一体どこから出ているのだろうかと、ふと疑問に思ったのだが深く考えない事にした。


 ピロン! と俺の携帯が鳴った。誰かからメッセージが届いた様だ。


 俺は携帯を取り出し、メッセージを確認する。送り主はクラスメイトの伊計八尋いけいやひろだった。


【今日暇なら、訓練場に行かないか?】


「訓練場か」


 俺がそう呟くと、立華が反応した。


「どうした?」


「友達が暇なら訓練場に行かないかって」


「ちょうどいい、暇だし行こうじゃないか」


 狭い室内で、暇を持て余していた立華は乗り気だった。


 俺は、八尋に【了解】と送り、制服に着替える事にした。


 クローゼットから制服を出し着替えていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。


 八尋だろうか?それにしては随分早い様な気がする。


 気を利かせた立華が、着替えている俺に代わって応対しようとドアに近づく。


「立華! ちょっと待った」


 この場で立華と一緒にいるのを第三者に見られるのは不味い、そう思って静止したが立華は気にする素振りもなくドアを開けた。


 ドアを開けた先に立っていたのは結衣ゆいだった。


「え? あなた前に医務室にいた……なんで?」


 予期せぬ人物が目の前に現れ、困惑している結衣。


「なんでって、そりゃ一緒に住んでるからだよ」


 立華のその一言で、一瞬にしてその場が空気が凍りついたのを感じた。


「……一緒に住んでる?どう言うこと?れん


 瞳の奥に怒気をはらんだ冷たい目で見られ、一気に俺の顔から血の気が引いていった。終わった。


 ピロンと携帯が鳴り、八尋からのメッセージが届いた。


【結衣も誘ってたんだけど、煉から返事が来る前にそっち向かったからよろしく】


 そう言う事は、もっと早く教えて欲しかった。俺は心の中で八尋を恨んだ。

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