第5話 自室へ
医務室を出ると、廊下で白衣を着た若い男性保健師の先生とすれ違った。
「あれ? もう体調はいいのかい?」
「はい。もう大丈夫なんで部屋に戻ります」
「そうか。あぁ、しばらくは外出禁止だから施設外には出ないように。あと現場検証もまだ終わってないから、あまり施設内をうろつかないようにね」
「わかりました」
そう返事をして、俺は医務室を後にした。
「自室に戻るのか?」
俺と同じく、医務室を出た立華が聞いてきた。
「ああ。そういえば部屋は無事なのかな、無くなってたらどうしよう」
「部屋は別館の寮なんだろ?襲撃があったのは本館だけだよ。寮と訓練所は無事だそうだ」
立華のその言葉を聞いて、少し安堵した。
「そっか、ならよかった。それより腹が減ったから何か食べたいけど、この様子じゃ食堂は使えそうにないな」
「寮には食堂は無いのか?」
「残念ながらね」
以前は寮にも食堂は存在したらしいが、訓練をサボって引きこもる生徒がいた為、寮から出なければ食事が取れないようになってしまったらしい。当然、食糧の持ち込みも禁止だ。
「みんな食事はどうしてるんだ? 戻って聞いてくるか」
「そういえば外の広場で炊き出しの様なものをやっていたな」
「なるほど、じゃあ部屋へ帰る前に寄って行くか」
そう言って俺は、広場の方へと向かった。
校舎から出ると既に日が傾いていた。
「もう夕方か、半日寝てたんだな」
「何言ってるんだ、君は倒れてから丸一日以上寝てたんだよ」
「丸一日以上? どうりで腹が減るわけだ」
「私の霊力も肩代わりしてるから余計にそう感じるだろうね」
広場で食事を終えて、寮の自室に戻った俺は一つの問題を抱えていた。
「あの……立華さん?ここ僕の部屋なんですが」
「知ってるよ」
そう、立華が俺の部屋まで付いてきたのだ。流石に男子寮に女子の姿をした立華を連れ込むわけにはいかない、俺がそう説明しても立華は納得しない。
「私には部屋がないんだから仕方ないだろう。それとも野宿しろと?」
「いやいや、だからって同じ部屋はまずいって。そうだ、結衣に頼んで同じ部屋に泊めてもらおう」
「いや、いいよ。さっき、からかっちゃったし一緒の部屋は居心地悪いよ」
なんて事してくれたんだ。
「いや、でも男女が同じ部屋ってのは……抜き打ちで部屋のチェックもあるし」
「こんな状況下だ、何かあった時にお互いそばに居ないと身を守れないだろ?誰か来たら人化を解いて刀の姿になるから問題ないだろ?」
これ以上、話し合っても彼女を説得出来ないと諦め、部屋に入れる事にした。
部屋は八畳のワンルーム、家具は備え付けのベッドと机、本棚しかない簡素な部屋だ。
正直ここに二人は少々狭い。
「へえー結構キレイにしてるんだね。てっきり散らかってるのかと思ったよ」
「俺、部屋散らかしてるイメージか?」
「いや、部屋に入れるのを嫌がってたからさ」
別にそういう理由で部屋に入れたくなかった訳ではないんだが。
「まあ適当に座ってくれ、おもてなしは出来ないけど」
「お構いなくー」
そう言って立華は、俺のベッドの上で寝転びながらスマホをいじり始めた。くつろぎすぎだろ。
「はあ、まったく」
俺は床に座り、読みかけの本を読む事にした。
それから数時間後、俺はシャワー浴び、そろそろ寝ようかと思っていたら立華がこちらを見て。
「私はベッドで寝るから、君は床で寝ていいよ」
いや、床で寝ていいよってどんな気遣いだよ。
「そこは普通、部屋の主である俺が、自分は床で寝るから君はベッドを使っていいよって言う流れじゃないか?」
「どっちみち、君は床で寝る事になるんだから同じだろ?それとも一緒に寝るかい?」
「床でいいです」
俺はクローゼットから予備の布団を出し、床に敷いて寝る事にした。
「そういえば、立華って睡眠は必要なのか?医務室では寝てたみたいだけど」
「別に寝なくても大丈夫なんだが、特にやる事もない時は普通に寝るよ。退屈な時間は長く感じるからね。それに今みたいに霊力がない時は、寝てた方が省エネになるからね」
「ふーん」
「それと食事もとるよ、霊子に分解して取り込む事ができるんだけど、これは趣味みたいなものだね。美味しいもの食べるのは好きなんだ」
「なんていうか、つくづく規格外な聖霊刃なんだな立華って」
「まあ、私は特別だからな」
「そんな特別なやつが、どうして俺なんかを選んだんだ?」
「どうしてか・・・・・・そうだな、まあ一言で直感かな?ビビッと来たってやつ?」
「なんだそりゃ?」
「半分は本当さ。君、正門から入ってきた私を屋上から見てただろ?」
気付いていたのか、目が合った様な気がしたが、気のせいじゃなかった様だ。
「なんか霊力の大きい奴に見られてるなーと思って君の存在に気付いたんだよ、同時に君の霊質にもね」
「霊質?」
「そう、君は他の人間とは霊力の質が違うんだよ。上手く表現は出来ないんだけど、波長というか何というか」
霊質が違う、そんな事を言われたのは初めてだ。それがどう言うものなのか分からないが、ひょっとして聖霊刀を扱えなかったのはそれが原因なんだろうか。
「そういえば、私も君に聞きたいことがある」
「え?なんだよ」
「君はどうして奏霊士になりたいんだ?」
「何でそんな事が気になるんだよ?」
「単なる好奇心だよ、聞けば君は聖霊刃を一度も起動させられなくて、そのせいで周りからも白い目で見られていたそうじゃないか。そんな状況でも諦めずに奏霊士を目指した理由は何だい?」
「理由、か……」
俺は天井を仰ぎ、自問するかの様にそう呟い
た。
「別に大した理由じゃないさ、小さい頃に奏霊士に命を助けられた事があって憧れてるってだけだ。俺も誰かの命を救える様な人間になりたいって」
「ふぅん。その人は今はどうしてるんだい?」
「さあ、小さい頃に助けられて以来会ってないからな」
俺は部屋の照明を消して、布団をかぶる。
「もう寝るぞ」
「あぁ、おやすみ」
そう言って、その後はお互い一言も発する事なく眠りについた。
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