第14話 原初の一振り
俺と
デスクには理事長代理の相馬教官が、ソファーには小嶺と柊博士が横並びに座り、俺と立華が二人と向かい合うように座っている。
「まず先日の
そう言うと、相馬教官は俺に向かって頭を下げた。
「え? いえ……教官のせいじゃないですよ。不用意に街に出た俺のせいです」
「いや、外出を禁止しなかったのはこちらだ。まさかあんなにも早く行動を起こすとは思っていなかった私のミスだ」
「その口振りだと、狙われる事自体は想定していたって事だよね?護衛役も呼んでいたようだし」
俺の隣に座る
「その通りだ。理由は君も分かるだろう立華」
「まあね」
立華はそう言って目を伏せ、ソファの背もたれに背中を預ける。
狙われた理由、八尋がなぜあんな凶行に及んだのか俺自身も考えていた。教官と立華の話を聞いてその答えが見えてきた。
「立華が特異な聖霊刃だからですか?」
俺が確認するように聞くと、教官は「そうだ」と短く返事をした。
「なら、八尋はこの間の学校を襲撃した奴らと関わりがあるって事ですか?」
「おそらなくな。先日のおまえと
「あのー、ちょっといいすか?」
そう言って手を上げて質問したのは、小嶺だった。
「立華ちゃんが普通の聖霊刃とは違うってのは聞いてるんすが、潜伏していた人間が正体明かすリスクを冒してまで奪おうとする程なんですかね」
それを聞いた立華が、少しむっとしたような表情を見せる。
「リスクを冒すだけの価値はある。何故なら彼女は原初の一振りだからだ」
「……原初の一振り」
ゴクリ、という生唾を飲み込む音が聞こえそうな小嶺の真剣な表情に、室内が緊張感で覆われていく。
「ってなんでしたっけ?」
その一言で、室内に張り巡らされた緊張感は一瞬で崩壊した。
「お前、それでよく奏霊士を名乗れたもんだな」
柊博士が小嶺を見て呆れたように呟いた。
「えーみんな知ってるんすか?知らないのあたしだけっすか?」
そう言って、彼女はキョロキョロと周りの人間の顔を見回す。俺は素知らぬ顔でスルーしようと思ったが、運悪く小嶺と目が合ってしまった。
小嶺は、じーっと俺を見て、知ってるなら説明してくれと目で訴えて掛けてくる。
「え、えーと……」
俺は小嶺の無言の圧力に耐えきれず、なんとか誤魔化そうとしたが言葉に詰まる。
「はぁ……相馬くん。どうやらもう少し座学に力を入れた方がよさそうだな」
「検討しておきます」
柊所長の言葉に、教官はデスクに視線を落とし申し訳なさそうに答えた。
「そもそも聖霊刃が造られるキッカケとなったのは1922年のワシントン軍縮条約にある。この条約の締結により、日本は海軍力を制限される事となった」
不勉強な俺と小嶺に説明するためか、まるで講義でもするかのように教官が滔々と語り始めた。
「そこで日本は、新たな戦力を求めてあらゆる可能性を模索し、魔術や呪術といった科学以外の方面にもアプローチした。そうして一つの伝承に辿り着いた。いわく、長い年月を経て、刀身に精霊が宿った刀は一振りで山を切り、海を裂き、天変地異すら起こすと。それが原初の一振り、多くの聖霊刃の雛形となった刀、その総称だ」
「へえー立華ちゃん超凄いんすね」
小嶺の賞賛の声に、立華はドヤ顔で腕組みをしている。
「そう言うわけで、立華と久坂は非常に狙われやすい立場にある。そこで信頼のある隊に二人を預けようと思っていてな、その道中の護衛にと隊員の朝霧を呼んだのだが」
教官はそこで言葉を区切り、小嶺に視線を向け不満そうな表情を見せる。
「いやぁ、面目ないっす」
向けられた視線の意味を汲み取った小嶺は、申し訳なさそうに頭をぽりぽりと掻いた。
「ここの警備ではいつまでも匿える保証もない。代わりの護衛を手配したいが、都合よく手の空いてる者がいなくてな。かといって護衛もなしに送り出すわけにもいかないし……どうしたものか」
教官は顔の前で手を組むと、俯きがちにため息をついた。
「お前さんの力が戻れば問題ないんだがな」
柊博士は小嶺に対し、何とか出来ないのかという含みを持たせ話しかける。
「自力じゃ解けそうにないっすね。なんか解呪の道具とか無いんすか?」
「あいにく専門外でな。研究所で調べれば何とかなるかもしれんが、ここではな」
どうにも八方塞がりというわけだ。何かいいアイデアはないかと思案に暮れていると、何かを思い出したかのように立華が口を開いた。
「そういえば小嶺、君は私たちに接触した時に霊力を隠していたね。あれはどうやったんだい?」
「あー、アレっすか? アレは知り合いにもらった
「ふむ、それはまだ残っているか?」
「二、三枚くらいなら残ってたと思うっすけど」
立華は何か思いついたのか、あごに手を当てニヤリと笑みを浮かべる。
「どうする気だ立華?」
俺が問いかけると、立華はその場の全員に自らの案を説明した。
「なるほど、それならいけるかも知れないな」
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