第2話 出会い

 卒業試験から一月後、早朝にはまだ寒さが残る三月。卒業試験を合格した生徒たちへ聖霊刃を渡す為の授与式が行われていた


 授与式当日、俺は校舎の屋上に居た。


 見上げた空は雲一つなく、清々しいまでの晴天だった。しかし俺の心はそんな空とは正反対に暗く沈んでいた。


「はぁ、こんな筈じゃなかったのに」


 期待に胸を膨らませ入学した当時、俺は周りより霊力が高かった事から期待の新人と呼ばれていた。そんな風に周りから期待や羨望を受け、俺は自分の理想とする奏霊士になれると疑っていなかった。


 だが現実は甘くなかった。俺には聖霊刃の適性がなかったのだ。


 普通は霊力のある者なら聖霊刃を発動させられるのだが、俺は入学してからこれまで一度も聖霊刃を発動させる事が出来なかった。最後の望みを賭けて挑んだ卒業試験も無残な結果に終わってしまった。


「はぁ」


 再び深い溜息をつき、ふと正門に目をやると数人のグループが入ってくるのが見えた。


「だれだろう?」


 入ってきたグループの一人は、遠目でも女性とわかった。


 小柄な女性、少女だろうか? 何故か俺はその少女から目が離せなかった。すると突然少女がこちら見た。


 ──まさか俺の視線に気付いた?


 こちらとは100メートル近く離れているのに、何故か少女と目が合ったような気がした。その瞬間、俺の体に電流が走ったかのような衝撃に襲われた。




「ねえ博士、何でこんなとこに来たの?」


 正門を歩くグループの一人である少女がそう呟いた。


「今日は授与式があるから顔出しついでに適合者がいないか見ておこうと思ってな」


 博士と呼ばれたボサボサの白髪に、手入れなどされていないであろう口髭を生やした白衣の老人男性がそう答えた。


「冗談でしょ? 何人生徒がいると思ってるのさ。日が暮れちゃうよ」


「なんだ、用事でもあるのか?」


「別にないけどさ、早く帰ってゴロゴロしたいんだよ」


「まったく……いいから付き合え」


「えー、でもさぁまだ新兵にもなってない卒業生でしょ?適合出来たとしても直ぐに干からびちゃうと思うけどなぁ」


「試してみなきゃわからんだろ?思わぬ掘り出し物が見つかるかもしれんしな」


「あっそ、問題起きても私は知らないからね」


 少女がつまらなそうに歩いていると、ふと視線を感じ一瞬足を止め視線を感じた方角を見る。視線の主は屋上に居る生徒と思わしき少年だった。


「へえ」


「どうした?」


「なんでもない。それより早く終わらせて帰ろう」


 先程までの退屈そうな足取りとは打って変わり、少女は笑みを浮かべ軽快に歩き出した。




 屋上にいた俺は、担任の相馬そうま教官に呼ばれ応接室にいる。


久坂くさか、お前はこれからどうするつもりだ?


「どう・・・・・・と言われましても」


 問われて俺は戸惑った。俺にもどうしていいかわからない。


「特例措置の事は知っているか?」


「え? あ、はい」


 特例措置とは、試験には落ちたが成績優秀な者や、非凡な能力を有した物にのみ在籍期間を一年延長出来る措置の事だ。


「お前の場合、申請すれば特例措置が降りて残る事も出来るだろう。だがどうするか決めるのはお前だ」


 残れると聞いて俺は正直ほっとした。だが同時に、残ってどうする?という思いもあった。


 卒業試験に落ちた落ちこぼれの烙印を背負って一年残ったしても、来年卒業出来る見込みはない。むしろ余計に惨めな思いをするだけなのではないか。そんな後ろ向きな考えばかりが浮かんできた。


「まあ、今すぐ答えを出す必要はない。よく考えてから決めるんだな」


 そう言って教官は、応接室から出て行った。


 俺はしばらく俯いたまま席を立てないでいた。


 バンッ! と突然、応接室の扉が勢いよく開かれた。教官が何か言い忘れた事があって戻ってきたのかと思い、俺は扉の方を見た。


「あ、いた」


 扉の前に立つのは、先ほど正門を歩いていた短パン姿に狩衣かりぎぬを模したパーカーの様な服を着た小柄でスレンダーな少女だった。


「やっと見つけたよ」


 そう言って、少女はこちらに向かってきた。


「君、私のパートナーにならないか?」


「は?」


 唐突な少女の発言に俺は思わず間抜けな声を出してしまった。

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