第5話 告白

 深夜2時くらいだろうか。夢を拒むかのように目が覚めた。夢の中でも桃瀬のことばかり考えている自分がいて、瀬川と並んで歩く桃瀬の顔が浮かんでいる。正夢なんてものになってしまったら僕はどうするのだろうか。


「お、綾瀬おはよう」


「おはよう一ノ瀬」


「なんか今日眠そうだな」


「うん、ちょっと眠れなくて」


 昨日はあれから目が覚めて寝ようともっても寝ることができず、結局寝ずに登校している。それからこの日は、運悪く桃瀬と話すタイミングがなく、最後の授業が終了してしまった。


「綾瀬ちょっといい?」


最後の授業が終わり、帰りの支度をしていると一ノ瀬が僕の席まで来た。


「いいけど、どうした?」


もう放課後であるからか教室には僕たち2人以外には誰もおらず、静まりかえっている。


「綾瀬さ、やっぱり桃瀬さんのこと好きだろ?」


「最近の綾瀬見てたらわかるんよ」


確かに最近の僕は桃瀬さんのことばかり考えて、悩んで、瀬川とのことも不安でしかない。


でも、、


「好きなるのがそんなに怖いのか?お前は過去に一回フラれただけだろ」


「は?初恋で両思いであれだけ好きだったのに半年で別れを言われたんだぞ」

「女子に慣れている一ノ瀬にはわからんだろうけどさ」


「それは手の一つも繋げないお前に愛想尽かしたんだろ成瀬は」

「裏で言ってたぜ、あいつ。半年になっても何もしてくれないって」


、、、言われてみれば僕は成瀬に何してあげれてなかった。そもそも初めて彼女ができてどうすれば良いのか何もわからず、手を繋ぐという行為ですら頭の中にはなかった。僕は何一つ努力せずに人の気持ちなんてすぐに変わると断定してフラれた原因に背を向けていただけ。


「最後に聞くけど、桃瀬さんのこと好きなんだろ?」


「、、、うん、好きだよ」


「じゃあ行くしかないだろ。瀬川に取られても知らねーぞ」

「さっき下駄箱に行くの見たから」


「ごめん、ありがとう」


なんで一ノ瀬が瀬川のこと知ってるんだろう。今はそんなことどうでもいいか。でも何て伝えたらいいのだろうか。いや、思ったことをそのまま伝えよう。


「桃瀬さん!」


「ん?あれどうしたの綾瀬くん」


「あの、、瀬川とはどうなったの?」


「え?瀬川くん?ああ、遊びに行くって話?」


「うん」


「断ったよ」


「そっか、、」


中々言葉が出ない。たった一言「好き」と言うだけなのに。


「ん?なんかあった?」


「えっと、桃瀬さん」

緊張で心臓が今にも破裂しそうだ。でも言わなくてはならない。いつまでも過去を引きずるなんて情けない。



「好きです、僕と付き合ってください」


そうだ。僕はまだこの言葉しか知らない。


「先言われちゃったな」


「え?」


「私もね、そろそろ言おうと思ってたんだよね」

「だから私でよければお願いします!」


「こ、こちらこそ」


「私結構アピールしてたんだけどなー、遅いよ綾瀬くん」


「ごめん」


「まあ、いいよ。付き合えたんだし」

「仲良くやっていこうね」


「うん」


この人とならずっと一緒にいたい、とそう思ったと同時に一ノ瀬の顔が頭をよぎった。あれほど怒った一ノ瀬を見たのは初めてだった。ちゃんとお礼をしなくてはならない。


「あ、ちょっと教室戻らなきゃだから」


「そっか、じゃあまた明日ね」


ピロン

【良かったな、桃瀬さん送ってやれよ】


【見てたの?ありがとう一ノ瀬】



「桃瀬さんちょっと待って」


「あれ、教室行くんじゃなかったの」


「いやもう大丈夫」


「じゃあ一緒に帰ろっか」


「うん、」


一歩進むために。

「あの、手繋いでもいいですか?」


「なんで敬語なの?」


「いやなんとなく」


「じゃあ付き合ったんだし、恋人繋ぎにしようよ」


「どうやってやるの?」


「え、うそでしょ!?仕方ないから教えてあげるよ」


 僕にはまだまだ分からないことだらけだけど、この人ともっとたくさんのことを知って、笑って、遊んで、泣いて、悩んで、ずっと隣にいたい。そう強く思う。


 高校生の青春は一度きりなのだから一歩一歩大切に進んでいきたい。

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一度きりの青春 たなか。 @h-shironeko

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