第4話 苦悩

 一ノ瀬が桃瀬に告白するの夜、桃瀬から電話がきた。

 

 緊張で手汗が滲む。何か嫌な予感がする。


「もしもし」


「あ、もしもし。ごめんね急に」


「いや全然大丈夫だけど」


、、、、


「あのさ、綾瀬くん、一ノ瀬くんと仲良いよね?」


「まあ」


「明日さ、一ノ瀬くんと遊びに行くことになって」


「それで一ノ瀬くんにカラオケ行こって言われて。初めて遊びに行くのにカラオケはちょっと怖くて、、」


 確かに一ノ瀬は恋愛経験が豊富で恋愛のことになると自分のペースで物事を進めてしまい、周りが見えなくなってしまうことがある。それに僕も彼女の立場であったなら初めて遊びに行く相手と2人でカラオケは抵抗がある。


「じゃあ、他の場所言ってみたら?」


「言ったんだけど、なんかやっぱりカラオケには行きたいみたい、、」


困ったな。僕が一ノ瀬と取り合ってさりげなく他の場所を提案してみるか。


「ちょっと待っててもらっていい?」


「え、うん」


僕は急いで指で携帯の画面を滑らし、一ノ瀬にメッセージを送った。一ノ瀬は夜行性だからこの時間は基本起きているはず。


【そういえば、明日ってどこ行くことにしたの?】


ピロン

【カラオケとどっか景色が綺麗なとこ行こうかなって感じだけど、なんで綾瀬がそんなこと聞くん?】


【いや、別にどこで告白するのかなって気になっただけ】

【それと初めて遊ぶのにカラオケってちょっとお互い気まずくなったりしない?】

【もし、桃瀬さんが歌苦手とかだったらさ、、】


【あー、確かにそうかも】

【そこまで考えてなかったわ。あざす】


よしこれで大丈夫だろう。我ながら何事もなく、解決できた。


「もしもし」


「ね!もしかして何かしてくれたの?」


「一ノ瀬くんからやっぱりカラオケはやめようってきた!」


「それは良かった。ちょっと一ノ瀬と話しただけだよ」


「ほんとありがとう!ごめんね、こんな夜遅くに。」


「いえいえ、じゃあまた」


 はぁ、緊張した。まだ心臓がバクバクと鳴り止まない。自分が思っていたより悪いことじゃなくて良かったと安堵する。

 

 桃瀬は一ノ瀬の告白になんと答えるのだろう。2人が付き合ったら僕は素直応援できるだろうか。告白のことばかり考えながら眠りについた。

 

 朝、目が覚めてから一日中一ノ瀬と桃瀬のデートがどうなっているのか頭から離れず過ごした。夜になっても一ノ瀬からも桃瀬からも連絡は来なかった。まあ、桃瀬さんが僕にわざわざ報告することもないか。僕たちは最近少し話すようになったただの友達でしかない。



 翌日、学校に行っても桃瀬と一ノ瀬に変わった様子はなく、いつも通りだった。昼休みになっても一ノ瀬から告白のことを話しにくることはなかった。僕にとっては気が気じゃなかったので直接聞いてみることにした。


「一ノ瀬、昨日どうだったの?」


遠回しに言う余裕もなく、ストレートに聞いた。


「え、ああ、ダメだった」


「そっか、、」


内心ほっとしている自分がいる。最低だ。


「綾瀬は、好きなやつとかいないの?なんかおればっかじゃん」


「うん、いないかな」


「それ嘘だろ、桃瀬さん好きなんじゃない?」


「は?そんなわけ、、」


「いつも女子の話とか一切しないお前がこんなに桃瀬さんとおれのことを聞いてくるなんておかしい」


「いやいや、そもそもそんな話さないし」


「はぁ、あっそ」


 僕が桃瀬のことを??そんなわけないだろ。たとえ好きになったとしても人の気持ちなんてすぐに変わってしまうんだ。またあんな悲しい思いはしたくない。


 それから一ノ瀬とはちょっと気まずくなったものの、気づけばいつも通りの彼に戻り、月日も流れていった。高校2年の二学期も終了し、三学期を迎えようとしていた。



ピロン

「今暇だったりする?」


 ようやく三学期も迎え、一ノ瀬ともこれまで通り仲良く過ごし、何事もない平和な毎日が過ぎていく中で時々桃瀬からメッセージが届く。大体は彼女の愚痴や相談を受けていた。僕自身、人の愚痴を聞くことが苦ではないので聞いているという感じだ。やはり、彼女はコミュ力が高かったり、人との距離を詰めることがうまい。そして話すことが好きで学校でも友達といるときは大概桃瀬が話を振り、会話の中心にいるところをよく見かける。


「うん」


「また聞いて欲しいことあるんだけど、電話しない?」


「いいけど」


「あ、全然課題とかしながら受け流してくれていいから」


そう言って彼女はいつも愚痴を話し始める。多分返答が欲しいのではなく、話すのが好きで吐露する場所が欲しいのだろう。なので僕はお言葉に甘えて彼女の話を一種のBGMと思い、課題を進めている。

 

「でさ、どう思う?」


「え、何?」


「だから瀬川くんに今度遊ぼって言われたんだよね」


「ああ、そうなんだ」

 受け流していいって言ったじゃないか。


「まあ、いんじゃない?」


「んー、ちょっと悩み中なんだよねー」


瀬川は隣のクラスの僕と一ノ瀬の友達だ。彼とは、去年同じクラスで会ったら普通に話す友達の1人で僕を通して一ノ瀬とも仲良くなった。


「あんまり話したことなくてさ」


「どんな人なの?」


「んー、普通にいいやつ?かな」


「綾瀬くんが言うなら間違いないね」


「ん?どういうこと?」


「いや、綾瀬くんっていつも人を観察してるっていうか、私からみたらそんな感じだよ」


「そうかな?そんなつもりはないんだけど」


「まあいいや、じゃあ遊んでみようかな」


 なぜか胸のあたりがモヤモヤする。こういう異性に対してモヤモヤすることは嫉妬であるということを良く映画やアニメでは表現されているが、これも嫉妬なのか?


「じゃ、またねー。今日もありがとう!」


そう言って 30分ほどで通話は終了。


 はぁ、瀬川と遊びに行くのかな。そのことばかり頭では考え続け、今夜は中々寝付けなかった。最近はどうも桃瀬のことばかりで悩んでばかりだ。一刻も早く解決しなければならない


 無理矢理にでも目を瞑る。気づけば深い夢の中に意識は迷い込んでいるのだった。

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