第3話 勉強会
ピロン
机で課題をしていると隣で携帯が揺れた。
【ねね!日本史のレポート終わった?】
【まだだけど】
【じゃあ、もーしよかったら一緒にやらない?】
【1人じゃあんまり捗らなくて、、」
桃瀬は返信がものすごく早い。いつも5分以内には返信がくる。
これはデートに含まれるのだろうか。一瞬一ノ瀬の顔がよぎるものの、ただ勉強するだけの誘いを断るのも申し訳ない。
【別にいいけど】
それから日時や集合場所などのやりとりを終え、来週の日曜日に決まった。
「綾瀬〜、来週の日曜空いてる?」
昼休み、1人机で本を読んでいたら一ノ瀬が机の上に座ってきた。
「あと何人か集めてカラオケ行こうと思ってるんだけど」
「あー、ごめん。日曜はちょっと予定が、、」
「おいおい、俺に黙ってデートかよ」
「いや、そういうのじゃないって」
いいから、いいから、と言って一ノ瀬は僕の話に聞き耳を立てず、茶化すだけ茶化して自分の席に戻ってしまった。
まあ、いっか。また今度言えば。
日曜日。
「あ、やっほー」
「どうも」
桃瀬は駅の改札のすぐそばに立っていた。当たり前だけど、いつもの制服姿とは異なり、シンプルだがお洒落な服装だった。
「ここから図書館までどのくらいなの?」
「5分くらいかな」
僕は特別コミュ力が高いというわけではなく、むしろ低い方だ。しかし、彼女は思った通りコミュ力が高く、2人きりだとあるあるな沈黙で気まずい空気が流れることは一切なく、図書館まで何かしら会話が続いた。
「綾瀬くんは何が好きなの?」
「んー、本と音楽かな」
「私も本好き!あと私はアイドルが好きかな」
「へー、どんな本読むの?」
「ミステリーとか恋愛ものとかなんでも読むよ」
こんな調子で会話は弾み、自分もコミュ力が高くなったのではと錯覚するほど、話しやすかった。
「綾瀬くんはテスト勉強もう始めてる?」
「うん、一応」
「真面目だなー。頭良さそうだよね」
「そんなことないよ。徹夜とかあんまり好きじゃないだけ」
それからお互いの勉強方法や学校内の話題などを話しながら課題を進めていった。そんなときに僕の苦手な話題がやってきた。
「綾瀬君は、好きな人とかいないの?」
「いないかな」
「そっかー、じゃあ彼女いたことある?」
「まあ、、」
「わお。恋愛とか興味ないのかと思ってたからびっくり」
「私の知ってる人?」
「さあ、どうだろ」
「ふーん」
桃瀬は恋愛の話をしているときは終始ニヤニヤしていた。やっぱり女子って恋バナが好きなのか。
それからもお互いのことや学校のことダラダラと話しながらペンを走らせた。
桃瀬は夕方からバイトがあるらしく、15時に解散となった。
「今日はありがとう!次は勉強なしで遊びに行こうよ」
「うん、いいよ」
このときは一ノ瀬のことは一切考えずに答えてしまった。桃瀬はすごい。こんな簡単に異性を誘うなんて僕には一生できない。
「じゃあ、バイト頑張って」
「また明日学校でね」
そう言って桃瀬と僕は背を向けて帰路についた。
桃瀬と解散してからもなぜか彼女のことを考えていた。桃瀬は僕にないものをたくさん持っている且つ性格も正反対、そんな彼女に興味が湧いている自分がいたのかもしれない。
ピロン
【今日はありがとう!楽しかった!】
家に帰るなり、携帯が鳴った。桃瀬はこんなところまで気が回り律儀だ。
【こちらこそ、楽しかった】
桃瀬は転入生にも関わらず、既に構築されていたあらゆるグループの人たちと仲良くしている姿を良く見かけ、今日を通して人気がある理由が大体わかった。彼女には誰もが気軽に話せるようなオーラがあり、周りが良く見えているのだ。男子とも女子同等に接し、男子からの人気も得ている。そんな桃瀬と冴えない僕が一緒に勉強をし、次の約束までしてると知ったら皆どんな反応をするのだろうか。批判を浴びるだろうか。
翌日学校に行っても桃瀬と勉強をしたことを知られている様子はなく、いつも通りの学校だった。
「あ、おはよう」
「おはよう」
気づけば、僕はこの毎日の挨拶を楽しみにしていた。必ず朝この時間にロッカーに行けば、桃瀬と話すことができる。
学校では僕らの噂が流れていることはなかったが、僕にはもうひとつ悩みがある。それは、桃瀬と出かけたことを一ノ瀬に言うべきか、という問題だ。一ノ瀬の話や桃瀬への態度から一ノ瀬が桃瀬が好きということは一目瞭然だった。
「あ、一ノ瀬、」
「ごめん、綾瀬おれ次移動教室なんだわ」
幾度か声をかけてみるが、そのときは丁度タイミングが悪かったり、話せるチャンスがあるときに限ってなぜか言葉が詰まり、なかなか言い出せずに月曜日が終わってしまった。
次の日。今日こそはと意気込んで学校に登校するなり、お目当ての一ノ瀬が話しかけてきた。
「おれ次の週末、桃瀬とデートするわ」
え、こんなこと言われたら一緒に勉強したなんて言えるわけがない。
「そうなんだ。良かったじゃん」
「それでさ、もう告白しようと思ってるんだよね」
「、、まじ?」
「まじまじ」
僕にこの告白を止める権利はない。でも心の中では、してほしくないという気持ちが強く芽生えている。
「へー、がんばれ」
ポーカーフェイスは僕の得意分野だ。きっと顔には何も出てないはずだ。
「おう、頑張るわ」
「じゃあまた、結果報告する」
当然桃瀬と2人で勉強とはいえ、出かけたことは言えずに苦悩の日々が過ぎていった。家でも学校でも常に桃瀬のことを考えていた。
そして一ノ瀬が告白する前日の夜。
ピロン
「ね、今電話できたりする?」
もうそろそろ寝ようかと思っていたとき、一通のメッセージが届いた。
桃瀬からだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます