第2話 過去

 僕は女友達が少なく、女性との関わりはあまりないが、過去に一度付き合ったことはある。


 高校一年の時は今とは異なり、高校生になったのだから彼女が欲しいと思っていた。そんなときに成瀬と出会った。彼女は同じクラスで性格も僕と似ていた。いや、そう思っていただけかもしれないけど。


 彼女とは、学校の行事や席が隣になることも多かったりで話す機会が多く、僕はだんだんと彼女に惹かれていった。そのときに一ノ瀬から成瀬も僕のことが好きだということを聞いた。


「両思いであるとわかっているのに告白しないやつなんかいない」と一ノ瀬に背中を押され、人生初の告白をすることを決心した。


「確定なのに緊張する意味ないだろ」と一ノ瀬は言っていたが、人の気持ちなんてどんな些細なことで変化するかわからない。


 そして週末のデートに誘うためにメッセージを送った。直接誘う勇気はない。


【急にごめん。日曜、空いてる?】


【え、空いてるけど、、」


【どっか遊びにいかない?】


【いいよ!】

【あとさ、もしかして私の気持ちってバレてたりする??】


 私の気持ち??頭に中は一瞬にしてクエスチョンマークで埋め尽くされた。


 急いでスマホに画面を指で滑らし、一ノ瀬に電話をかけた。


「あ、もしもし」


「成瀬さんに私の気持ちってバレてる?って聞かれたんだけど、これってどういうこと?」


「は?お前のこと好きってことだろ」


「それだけだったら切るぞ」


好き??僕にことが??一ノ瀬の言っていた通りなのか?


気づいたら電話は切れていた。既読つけたままだったことを思い出し、トーク画面に戻る。


【多分僕も同じなんで日曜に言わせてください】


ピロン

【はい!】


 そしてある週末、成瀬をデートに誘い、告白した。告白のタイミングは一ノ瀬と相談して決めていた。


 しかし、いざ直接言おうと思うと緊張してしまい、こんなことを言ってしまった。


「えっと、今言ってもいいですか?」


「え、うん」


「好きです、付き合ってください」


 告白のときに言う言葉なんてこれしか知らない。シンプルかつ無駄な言葉を含まない、最適なセリフ。


「はい、お願いします」


 OKのときの返事もこれしか知らない。


 こうして僕と成瀬は付き合うことになった。一ノ瀬が言った通り確定だったのかもしれない。


 僕にとって成瀬は初めての彼女で付き合ったら何をしたらいいのか、どう接すればいいのか、右も左も最初はわからなかった。

 

 しかし、成瀬はこれでまでにも付き合ったことがあるらしく僕は彼女に合わせながら付き合っていった。一緒に映画を見たり、水族館に行ったり、ときには電話をしたり、充実した日々を過ごした。


 学校内では特に隠すことなく、過ごした。自分から公言しなくとも付き合っている噂なんて次の日には広まる。


「成瀬と付き合ったんだって?」

「おめでとう」

「どこが好きなの?」などなど


 一ノ瀬以外の友人からもいじられたり、質問攻めにあって大変だった。でも3日後には熱りも冷め、茶々を入れてくるやつもいなくなった。


 しかし、付き合って1ヶ月ぐらいまでは成瀬はメッセージの返信が早かったものの、それからは1日経っても返信がないことなんてしょっちゅうだった。

 

 もう好きじゃなくなったのか、と思うこともよくあった。でも普段話す分にはそんなことは感じられなかった。それからもこれまで通り何事もなく、過ごした。


 ピロン

【今度話したいことがあるんだけど、いつ電話できる?】


 成瀬と付き合い始めて半年が経った頃だった。このときも成瀬からの返信が遅いことは多く、嫌な予感しかしなかった。


【今週末なら】


 この電話をする日までずっと頭の中で成瀬からのメッセージが反芻していた。別れ話ではないことをひたすらに祈った。


 そして週末。

 鳴り止まない鼓動。滲む手汗。全て総合して緊張につながる。


「もう好きなのか分からなくなちゃって、別れたい」


「でも僕は好きなんだけど、」


 静寂なのか沈黙なのか分からない時間が流れていることを体感する。


「でも、ごめん」


「わかった、、」


 たった3分半の電話。こんなにも精神的にも体力的にも疲労が感じられた電話は初だ。


 傷を負ったのは内面だけじゃなかった。


 泣いた。一滴も残らず、枯れるまで泣いた。


 外から見てもわかるほど僕の精神状態は酷かったに違いない。

 

 自分の何が駄目だったのか全く分からなかった。かと言って本人に聞く勇気もなかった。


 こうして僕の春はたった3分半に電話で終わってしまった。



「え?!成瀬さんと別れた?」


「うん、もう好きじゃなくなった的な」


「マジか。まあドンマイ」


 一ノ瀬は笑うことも馬鹿にすることもなく、話を親身になって聞いてくれた。


 成瀬がそばにいなくなっても僕の生活が大きく変わることはなく、別れたとしても世界は回っている。

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