釣り師、試験


 まずは話を聞きにレイザン管理局に来た。

 ハッサムさんに聞いたところ、先日来ていたのが領民課の人たちだったということで、そちらへ繋いでもらったのだ。

 訪ねてきてくれていた人は領民課の課長さんだった。

 俺とカゴで寝ているシロをにこやかに迎えてくれた。


「――コータスくん、よく来てくれたね。また勉学の道に戻ることに決めたんだね?」


「機会をもらえるのなら、やってみようかと思って。でも本当に俺が行ってもいいのか?」


「もちろんだとも。実は上の方からぜひにと推薦もきていてね」


「上の方?」


「詳しくは言えないが、君のような突出した才能を持った子には、もっといろいろなことを学んでほしいと思う大人も多いということだよ」


 どういう立ち位置の人たちの考えかはわからなかったが、大人がそう考えるのはわかる。俺だってそう思うもんな。選択肢は多い方がいいって。


「それでだね、試験の方を受けてもらいたいんだ」


 試験!?

 すぐに入れるものかと思っていたのに!

 今さら入試――いや、編入試験か……。何をやらされるんだ。っていうか、数学以外にこっちの世界で通用する教科がないぞ!

 俺の顔色が変わったのに気付いたのか、課長は言葉を続けた。


「ああ、心配しなくていい。編入する学年を決めるのに、学力が知りたいだけだよ。君の年なら4年生が多いのだが、学力によっては3年に編入した方が辛くないだろうという話になってね」


「ああ、そういう……。配慮してもらえるのであれば、それは助かる。俺、記憶がなくなってから生活はできているんだが、何を忘れてしまったのかもわからないから……」


「……そうか、大変だったね。学院にはいろいろな子がいるから、君がとりたてて目立つことはないと思うよ。大いに楽しんで学んでくれたらいい。それでね、学校の再開に合わせて編入という形がいいと私は思うんだよ。試験を早く受ければそれでいけるんだがどうだろう? 」


「……わかった。それでお願いします」


 何か引っかかったような気がするが、俺は頭を下げた。

 課長はにやりとした。


「やはり君は本当は敬語を使えるんだね。そんな気がしていたよ。ちゃんとしているもんなぁ。まぁそれもあって心配しないで推薦できたんだ。試験は明後日の予定でいてくれていいよ。何か聞きたいことはあるかい?」


 こういう時はやはり敬語を使いたいよな。

 世話になるとか頼む時とか。

 それで正解なら、今後は使い分けていこう。

 計算して子どもを装っているところはあるけれども、今はよくわからないふりをして曖昧に笑っておく。


「教科書を……。その、持ち物に教科書がなくて。せめて少しでも勉強したいんだけど……」


「実力が知りたいから勉強はしなくてもいいけれどもね。だがまぁ不安になるのもわかるから町の学校で使っている教科書はあげよう」


 帰りに手渡してもらった教科書は、語学、他国語学、数学、国史学、魔法学の5冊。

 これらが試験で出る5教科ということだった。


 そのうちの語学、他国語学はなんの問題もなかった。こんな異世界人がなんの問題もないのがおかしいんだけど、日本語を操るのと同じくらいにこの国の言葉も他国の言葉もわかった。


 数学も全く問題ない。

 が、国史学はやばい。まったく知らないことばかりだ。

 そりゃそうだ。ここで暮らしたのはまだ少しの期間だけで、コータスの記憶も残ってないんだもんよ。


 魔法学ももちろん知らないことばかりだが、そんなに難しいことは載っていない。

 魔法のなりたちだとか、簡単な魔法陣の書き方だとか、そんなだ。

 問題は国史学ひとつだけ。


 学力を知りたいだけだと言われたが、やるからにはしっかり準備して臨みたいよな。

 俺は国史学ひとつに絞って、試験の勉強を始めたのだった。



 ◇



 マヨネーズとマリネは作って店に持っていき、釣り(漁)もしてはいたけれども、結構な時間を勉強に割いて、2日が過ぎた。


 試験の当日。

 レイザン管理局から馬車に乗せられて辿り着いたのは城だった。

 いや、学校だ。城にしか見えないが。


「……うわ、でかいぞ……!?」


『ニャ~(大きいお城です~)』


 カゴから身を乗り出したシロもそう言うほど。

 そうだよな。誰が見ても神獣が見てもお城だよな。


 堀と高い城壁に囲まれ、中に石造りの城塞のような建物がそびえている。

 後ろの方には尖塔が見え、魔法使いの塔だとなんの根拠もなく思った。

 脇には刈り込まれたトピアリーが植えられた道を馬車はゆき、建物に着いた。


 すごい。

 異世界の学校ってこんなか。

 こんなすごいところでリュイデは勉強しているのか。

 シリィは住んでいた町の寺子屋的な学校へ通っていたと聞いた。多分、コータスもそう。


 それらに比べたら全然違うだろう。

 中だって天井は高いし、シャンデリアっぽいものがぶら下がっているし、床は大理石っぽい。

 見るからに学べる内容がまったく違うのだろうと、思わせた。


 案内してくれた人の話では、今は休校中で生徒はいないが教師は再開の準備で来ているのだそうだ。


 お城のような建物の入り口からほど近い部屋で試験を受けた。

 カゴの中のシロもいっしょだ。神獣は特別だということで、どこでも行けるし、ずっといっしょにいていいらしい。

 神獣の知識をカンニングできちゃうぞと思ったが、シロの知識も基本的に日本のものだからあんまり役に立たなさそうだ。


 試験は、数学はまったく問題なく。魔法学も案外いけた。

 計算外だったのは語学だ。


 俺は日本のテストのように、“それが指すものを答えよ”とかそういう問題が出るのだろうと思っていたら、“こういう時に使う言葉を述べよ”みたいな問題が多かったのだ。

 多分、こちらの世界のことわざ的なものを聞かれていた。

 “思い切って何かをする時に使う言葉を書きなさい”って問題、清水の舞台から飛び降りるって書きたかったぞ……。

 ちゃんと語学も勉強しておくべきだった……。


 逆に他国語学は簡単だった。

 国史学も勉強した分できたと思う。


 試験監督をしてくれた壮年の男は、途中に挟んだ昼食の休憩の時もいっしょに食べてなんやかんやと話しかけてきた。


「神獣を見るのは初めてだが、普通のパンを食べるんだな」


『ニャ~ニャ~(肉も魚も食べます~甘味も大歓迎です~)』


「話がわかっているみたいじゃないか。かわいいなぁ!」


 みたいじゃなく、わかってるんです。

 シロがいると場が和むのは間違いない。


 昼食は大変美味しかった。

 黒パンにサラダにチキンブイヨンスープに牛肉のステーキ、そして焼き菓子と紅茶が付いた。

 コショウなどの香辛料が使われてないからシンプルな味だけれども、こちらの世界に来てから一番豪華な昼食だった。


 すべての試験の後、試験監督は言った。


「――以上で、の編入試験は終了だ。よくがんばったな。クラスなどは編入当日に知らせることになる。多分、再開は2週間後くらいだろう。一か月はかからないと思うから、準備しておくように。もし寮だけでも先に入りたかったら管理局に連絡してくれ。都合をつけよう」


 ――――ん? 王立、学院…………?


 リュイデが行っているのは領立学園だったよな。聞き間違えたか……?


「こ、ここは、領立学園では……?」


「ああ、領立学園だと思ったのか! ここはレイザンブール王家が設立し運営している、国で唯一にして最高の学びを受けられる学校“王立オレオール学院”だ。君のようなドラゴンキラーなんて突出した個性の子はここじゃないと教えられないだろう!」


 ハハハハ! と豪快な笑い声が高い天井へ吸い込まれていく。


 …………マジか…………。

 なんか、大変な学校に入ることになってしまったぞ…………!!


 俺はシロが入ったカゴを抱えてしばし呆然とするしかなかった――――。






 ### あとがき ###


 過去の話の一部を修正しています!

 町の学校は2年と書いていましたが、確認のために設定を読み返したところ3年でした……。なので3年に直しています。すみません!!

 学校にはだいたい10歳になる年の1月に入学するので、10歳で1年生、11歳で2年生、12歳で3年生となり卒業です。

 コータスはこの年の終わりのころに13歳になります。


 ギフト・★・♡・フォローありがとうございます!!

 いつも応援感謝です!

 次回も週末の11/12あたりに更新予定です~



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