釣り師、釣り師のロマンに目覚める


 まずは鱗。そして、肉と骨とが分けられる。


「逆鱗さえ取ってしまえば、腹から切る方が楽だぞ。少しだけ柔らかいからな」


 腹開きってやつだな。鰻だと関西の方の開き方だ。江戸の武士が腹切りとかけて縁起が悪いって嫌ったんだよな。


「背の方が硬いんだな」


「そうだな。陸のドラゴンだと背と腹がまったく違う皮質なんだがな、海のは皮はそんなに変わらん。代わりに鱗の大きさが違うんだぞ」


 ガルフドラゴンはシダーさんの見事な包丁さばきで解体された。


「幼体だったじゃんな? 爪やらツノやら全部小さくてなぁ、あまり高く買い取れないわ。すまんな。全部持って帰るのもいいかもしれないぞ」


 一応買い取り価格を聞いてみると、頭部が6万レト、爪が片手分で5万レト、ツノが3万レト、鱗が全部で8万レト、肉が1万レト、骨が8千レト、28万8千レトだそうだ。


 ……十分、高いだろ……。


 さらにお腹の中にあった魔石、宝石はその中に含まれていないと。

 めちゃくちゃ高い仕事になったぞ!?


「――魔石はドラゴンの腹の中で生成されるんだよな? 宝石も?」


「魔石はドラゴンの魔力でできているのもあれば、魔石を食って腹の中に残っているものもあるな。宝石もそれだ。――――宝石がたくさん出た個体は、ねぐらの近くに昔の難破船が沈んでいる――――なんて言われてるな」


「え!! もしかしてすごいお宝が出たりするのか!? ロマンだな!!」


 俄然がぜん気持ちが盛り上がる!! 宝箱とか釣っちゃったりして!?


「わかってるじゃん! 一昔前の大観光時代のブツはすげぇぞ! これぞ釣り師の醍醐味よ!! ちょっとの苦労なんてなんてことないじゃん!?」


 いや、またあんなに苦労するのはちょっと……。あれで幼体だからな……。


 そして解体料。

 ガルフドラゴンは1万レトだけど、幼体だから3千レトでいいと言われた。

 ガルフ(湾)ドラゴンだから、元々オーシャンドラゴンより小さくて、解体料は安めなんだそうだ。

 ありがたく3千レトだけ払って、素材は全部持って帰ることにした。


「――――ところで、シダーさん。さっきの『マサムネ』って、包丁の名前なのか?」


 気になったことを聞いてみる。

 マサムネって正宗か? 異世界に、あの有名な刀工が……?


「ああ、片刃の包丁をそう呼ぶんだぞ。マサムネって聞き慣れない言葉じゃん? 光の申し子が付けた名だからだぞ。光の申し子といえば石鹸が有名だがな、解体する者の間ではやっぱマサムネだな。皮を薄く外すのに必需品なんだぞ」


 ――――申し子!! 神様が言っていた! 俺のように、神様が異世界から連れて来た人たちのことだ!!


 なるほど、こっちの人たちは光の申し子って呼ぶんだな。なんか神々しいな。

 光の申し子という言葉を普通に知っている前提で話されたということは、異世界転移してきた人の存在は大っぴらにされているのか。


 もちろん知っているみたいな顔であいづちを打っておく。

 神様が何人もこの世界に送っているみたいなことを言っていたけど、本当らしい。


 石鹸を作って広めた人と、片刃の刃物を広めた人がいるようだ。どっちも日本語だし日本人だろう。正宗ではないのだろうけどな。


 有名な人だけでふたりも出てきたってことは、水面下にはもっと何人もいるのかもしれない。

 いつか会えることもあるだろうか。

 それは少しだけ楽しみなような気がした。






 当然といえば当然なのだが、マデラス島は遠くに見えていた時は小さそうだったのに、上陸してみればかなり大きい島だった。

 シダーさんが王都より大きいと言っていたな。

 かなり離れているが、王領の一部で、温暖な気候でリゾート地として有名なのだとか。

 せっかくだし港から出て街の中心へ行ってみることにした。


 途中は土産物店らしき建物やマーケットになりそうなテントはあるものの、開いてないしやっていない。

 本土の方だって、市場のあたりの活気はまだないんだ。こっちにだって魔素大暴風とやらの影響が残っているだろうな。


『ニャ!!(魚が回ってます!!)』


 見れば干した魚がぐるぐる回される機械が置いてあった。

 開きになった小ぶりのホッケに似た魚が、回る傘のようなものの縁にかけられ、回転で広がるスカートのようになっている。


 日本でも漁港付近で見かけたなぁ。こっちの世界のは魔石で回ってるのか?

 回転魚干し機をよく猫が眺めていたっけ。

 神獣も熱いまなざしを送っている。

 シロ、だめだぞ。あれは売り物になるんだからな。

 じーっとそっちを見ているシロの喉元を掻いて気をそらすそうとしたが、全然それない。


「……見るだけだぞ?」


『ニャ』


 近くでシロに見させていると、通りがかったマダムに笑われた。


「まったく猫はそれが好きだよねぇ」


『ニャ~(好きです~)』


「あ、これ、おねえさんとこの魚? ごめん! 触らせないようにするから!」


「おねえさんって、あんた小さいのに女たぶらかしだね!」


 ハハハッ! と日に焼けた元気なマダムが笑った。

 王都から来たと言うと、観光客がこの辺にいるのは数か月ぶりだと言われた。

 ただ、そろそろ国の安全宣言が出そうだから、そしたら人も戻って来るだろうとかそんな話も聞いた。

 たしかに国軍でも出港式があるっていっていた。安全宣言の後だろうし、そしたら各地の港に一般の船も戻ってくるのかもしれない。


「最近お客さんも来ないでさみしかったからねぇ。ちょっとわけてやろうかねぇ」


 マダムはさっと建物の中に入ると、紙を持って来て干物をのっけて包んでくれた。

 お礼になるかはわからないが、俺はマリネ挟みパンを手渡した。


「あんたが作ったのかい! ありがたくいただくよ! そのうちこのあたりの店も開くだろうから、また遊びにおいで」


「ああ、また来るよ。魚、ありがとう!」


『ニャ~!(ありがとうです~!)』


 こんな風にわらしべ長者――というかマリネ挟みパン長者――となり、店は全然やってないというのに土産物をたくさん持って、俺は夕日に染まる王都レイザンの港へと戻って思い出した。


 ――――あ。シリィの様子を見にいくのを忘れてた…………。






 ##### あとがき #####



 ドラゴンの解体をしっかり描写しよう!

 と初めははりきって細かくしっかり書いたのだけど、なかなかR指定になりそうなアレだったので、あっさりに書き直していたら遅くなりました……。

 私は調理師免許を持ってるので、わりと耐性あったりするんですが、耐性ないとアレですよね……。反省します……。(;'∀')



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