釣り師、釣っちゃった


 俺が釣ったのはガルフドラゴンというものの幼体らしい。

 抱えているシロにも魔力をごっそり持っていかれている気配を感じながら、言われた言葉を反芻はんすうした。


 ――――ガルフ、ドラゴン?


「…………俺、ドラゴン釣っちゃったってことか!?」


 モヒカンにヒゲの男はぷかぷか浮かぶ巨体をたぐり寄せると、口の中からなんちゃってルアーを取り外した。


「おう、そういうことになるじゃん。――なんだこりゃ? 釣り晶はどうしたんだよ?」


「ちょっと試しに違うものを付けてみたんだ。疑似餌のつもりだったんだが」


「疑似餌、か。面白いこと考えるじゃんよ。それでガルフドラゴンが釣れる――――ってことはないわなぁ…………。なぁ、これ、ちょっと預からせてくれねぇ? ドラゴン研究のため調べさせてくれ」


「ああ、いいぞ。っていうか、赤ラペシュの皮となんかの部品だから、返さなくていい」


 男は「ありがたい」と腰に付けた魔法鞄にルアーをしまってから、ガルフドラゴンの体に触った。


「それにしたって、こんな小さい子がドラゴンかよ。末恐ろしいじゃんな。まぁガルフはドラゴンの中では下位種だけどよ――見てみろ、これが逆鱗だ。ドラゴンにしかない部位なんだわ」


 ガルフドラゴンの喉元を見せ、そこにあったひと際大きい一枚の鱗を逆に曲げて引っ張りって外した。


「ほらよ。討伐記念だ。強運のお守りになるって言われてるぞ」


「逆鱗って討伐証明――とかではないのか?」


「あー……たしかに大きい魔獣や魔物だと討伐証明が必要なんだけどよ。少年、とりあえずステータス画面見てみろ?」


「[状況ステータス]」


 ◇ステータス◇===============

【名前】コータス・ハリエウス 【年齢】12

【種族】人 【状態】正常

【職業】釣り師

【称号】ドラゴンキラー(申し子)

【賞罰】なし

 ◇アビリティ◇===============

【生命】2480/2500

【魔量】13549/47600

【筋力】71 【知力】80

【敏捷】68 【器用】93

【スキル】

 体術 57 剣術 34 魔法 74

 料理 95 調合 62 釣り 100

【特殊スキル】

 鑑定[食物]24 調教[神使]100

 申し子の言語辞典 申し子の鞄 四大元素の種

 シルフィードの羽根 シルフィードの指

 サラマンダーのしっぽ

 ウンディーネの祝福

【口座残高】5498832レト



「見たけど――――ああああああっ!? 称号、ドラゴンキラーって…………!?」


「そうか、やっぱりそうなるのかよ。噂には聞いていたけど、ドラゴンってのはやっぱすげーじゃんな。下位種だろうが幼体だろうが、ドラゴンはドラゴンってことだ。ドラゴンの魔力が強大なせいなのか独特な魔力を持っているのか、仕留めるとその場で本人の身分証明晶に記録されてしまうんだわ。だからドラゴンの討伐証明はいらないわけよ」


「マジか…………」


「基本的にはステータスを他の者が知ることはないんだが……ドラゴンキラーだけは別でよ。有事の際には呼び出しがかかる」


 なんだそれ!? 戦いはおろか生活するのだってまだ怪しいのに!? 有事ってなんだよ!? 呼び出しって何させるんだよ!? 何もできないぞ!?!?


「いやいやいやいや、無理だ! 称号を取り消してくれ! 今回はたまたま偶然だったんだ!!」


「偶然でもなかなかソロでは倒せねーよ。普通は釣り師と魔法使いのパーティとかで討伐するじゃんな?」


「下級で幼体だって言ってたよな!?」


「下級で幼体でもだ。倒したなら最上級冒険者並みだぞ」


 ただ魔力量でタコ殴りにしただけだというのに!!

 というか、そうか。釣り師と魔法使いのパーティというのが、海ではバランスがいいということなんだな。覚えておこう。


「解体はどうする? ウチで請け負うか? 俺はここの釣りギルドのギルマスだ。海のドラゴンを捌くのは王領一だぞ」


 まぁ、王領に釣りギルドは二つしかないんだがな! ハハハ! と、男は豪快に笑った。

 ここマデラス島の釣りギルドのギルドマスターの名前はシダー・ラカントさんといった。ハッサムさんの弟だった。どうりで既視感があるよな。ハッサムさん元気にしてるだろうか……。

 一気にいろんな情報が入ってきて頭が飽和状態の俺は、現実逃避気味にハッサムさんのスキンヘッドに思いをはせたのだった。




 ◇




[強化]を使ったシダーさんはガルフドラゴンをくるくるとまとめると、肩に担ぎあげて歩き出した。

 俺はシロを抱えたままその背中についていった。


「どのドラゴンもこんな小さければ楽じゃんな」


「そ、そうだな…………」


「うちの兄貴を知ってるってことは、コータスは王都の港から来たってことか?」


「来たっていうか、連れて来られたっていうか」


「それじゃ親が心配してるかもしれねぇな」


「あ、いや、親はいないから大丈夫だ」


 シダーさんは後ろから見てもはっきりと肩が下がり、しょぼーんという雰囲気を出した。

 優しくて繊細な海の男が多いんだな。俺はこっそりと苦笑した。


「そうか……。コータス、苦労してるじゃん……。困ったら俺でも兄貴でも頼ればいいぞ。今はどこの港も人がいないから、コータスみたいな将来楽しみな少年がいるなんて兄貴がうらやましいじゃんな。たまにはこっちにも遊びに来いよ」


「ああ。あとで[位置記憶]していくわ」


 少し歩くと、町側に建っていたギルドの建物へとたどり着いた。

 明るいベージュで砂っぽい質感の建物は、どことなく南国のリゾートっぽい雰囲気がある。

 無人の受付を通り過ぎて奥の部屋に招き入れられると、解体部屋のようだった。

 その真ん中にある道具類が載った大きな作業台に、ガルフドラゴンが載せられた。


「今は他に仕事がないんだわ。すぐにとりかかって1、2刻でさばけるぞ」


 そしてシダーさんが作業台の上で手にしたのは、刃渡り60cmはありそうなマグロ切りだった!

 いや、多分マグロ切りではないんだろうけど、マグロの解体ショーで使われるあの長い包丁そのものだ!


「おおおお!!!! すげぇ!!!! 片刃なのか!?」


「コータス、わかってるじゃんよ!」


 西洋剣って両刃だし、俺が使っている包丁も両刃だ。

 こんな異世界にも日本刀みたいな片刃のものがあるんだな!?

 刺身切りやすそうだぞ!! 俄然がぜん盛り上がる!!!!

 ニヤリとしたシダーさんは、明かりを受けた刃をひるがえした。


「俺の“マサムネ”の華麗なさばきをじーっくり見てくれよ?」


 長い刃がきらりと輝いた。







##### あとがき #####


魔導細工師ノーミィの異世界クラフト生活

~前世知識とチートなアイテムで、魔王城をどんどん快適にします!~


11月10日 発売です!


すごい素敵なカバーイラストも公開されています!!

詳しくは近況ノートにて!

https://kakuyomu.jp/users/kusudama/news/16817330663855309189



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