釣り師、釣るか死ぬかの海路一直線


 お手製ルアーに食いついた何かは外洋に逃げるつもりなのか、王都の湾からどんどんと遠ざかっていく。

 恐ろしいスピードで海上を驀進する小舟。

 その船上で釣り竿にしがみつく一人と一匹。


 俺は策も何もなく、ただやみくもに魔導弾を撃ち込んだ。

 らないと死ぬ。

 魔量が尽きるまで撃つしかない!!


 手元から魔力を注ぎ込んで撃つと、前方で何かが跳ねる。

 それを果てしなく繰り返しているうちに、俺は前方の向こう側に岸が見えることに気付いた。


「うぇ!? 島か!? ちょヤバくね!?」


『ニャニャニャニャ――――!!(早く本気を出すのです――――!!)』


「本気出してるからなぁっ!?」


 もふもふファイティングチェアーの容赦ない言葉に叫びながらも魔導弾を撃ち込む。

 心なしか、糸が引かれる勢いは落ちている気がする。

 時々張った糸が緩むのは、動きが止まりかける時があるからだろう。

 そんな風に速度を落としてきてはいるものの、食いついた何かはまっすぐに進んだ。

 つり針と船の距離が段々縮まってきている。

 徐々に大きくなっていく島影。


 まさか突っ込まないだろうな!?

 わかってるよな!? 避けるよな!?


 死にかけて判断ができないのかもしれない。

 とどめを刺せるか、間に合わずに島に突っ込むか、時間との闘いになってきた――――!!


 魔導弾を撃つ。撃つ。撃つ。撃つ! 撃つ!! ――――これで、どうだ!!!!


『ニャァァァァァ――――――――!!!!(岸にぶつかりますぅぅぅぅぅ――――!!!!』


 魔導弾の手応えがなくなった。

 一瞬後、糸を引っ張っていた濃灰色の巨体がぷかりと水面に浮かんだ。

 だが、勢いよく進んでいた船がそんな急に止まれる訳もなく――――――――。


「あ!!!!」


 ドンッ!


 衝撃とともに小船は巨体にぶつかり、俺とシロと船は空を飛んだ。

 そして目前にあった岸に叩きつけられた。


「……うっ……いっ…………」


 痛ぇぇぇぇぇ…………! 全身あちこち痛ぇ!!

 涙目で周りを見れば、シロはちゃんと着地したらしい。普通に四つ足で立っている。

 魔法鞄などの俺の荷物も散らばっているが、無事なようだ

 船は木端微塵だった。


 やっちゃったぞ……これ、弁償するのにいくらかかるんだ…………。


 あぐらで座り込んで体のあちこちを確認しながら、無残な姿となった船にため息をつく。

 俺自身は運のいいことに擦り傷と打ち身ばかりで、骨折などはしていないようだった。


『ニャニャニャ~(こういう時はポーションを飲むといいのです~)』


「……シロ、よくわかってるな……。俺はとっさに思いつかなかったぞ」


『(ギルドのお姉さんのお話をちゃんと聞いているから知っているのです。早く飲んで回復して、わたしにも魔力をよこすのです~)』


 お、おう……。

 心なしか疲れているようなシロに急かされ、ミスティ湖に行く前に買った下級ポーションを魔法鞄から取り出して飲んだ。

 怪我はあっという間に治った。

 異世界の薬はすごいな……。


 打ち上げられたのは港らしく、船を繋ぎとめるビットが岸壁から立っている。

 だが船の影はひとつもない。

 ここも魔素大暴風の影響からか誰もいないが、遠くから走ってくる人影はあった。


「おおーい!! すごい音だったが大丈夫かぁ!?」


 心配して見に来てくれた人のようだ。

 近寄ってくるよく焼けた男の姿は、どことなくハッサムさんに似ている。向こうはスキンヘッドにヒゲで、こっちのおっちゃんはモヒカンにヒゲだ。

 海の男ってみんなあんな感じなのか。


「おお!? まだちっさい少年じゃんか? 船ごと打ち上げちまったのか! 怪我はないのか?」


「ああ。ポーション飲んだし、大丈夫だ」


「そうかそうか! 船はアレだが、命あってのモノダネだからな! ――――って、この巨体なんじゃぁ!?!?!?!?」


「すごいのに引っ張られてここまで来たんだ」


 改めて見れば、岸壁のすぐ近くにアナコンダのみたいなものがぷかぷかと浮いていて、転がっていた釣り竿から続く糸がその口の中に続いていた。

 船が飛んだ時にあれも引っ張ってきてしまったようだ。


 大きさでいえば、ミスティ湖のスワンプサーペントの方がもっと大きい。あれを見た時もアナコンダと思ったけど、これよりもっと大きいし長かった。本当に田舎の空にたなびく鯉のぼりみたいな大きさだったし。


 でも手応えは段違いでこっちの方がすごかったのだ。

 男はしゃがみこむと、近くのアナコンダ似の濃灰を確認した。

 大きさこそテレビで見たようなどでかいアナコンダだが、ぎざぎざと生えている鱗が堅そうだし、サーペントにはなかったものがある。

 足だ。

 前足と後ろ足。手と後ろ足か?

 足ってなんだよ……。サーペントじゃないってことかよ……。


「死ぬかと思うくらい大変だったんだが……。それ、一体なんなんだ…………?」


「あ~これはなぁ…………」


 見ていた男は振り向いて困ったような顔をした。


「ガルフドラゴンの幼体だ。そらぁ死にそうになって当然だわな」






 ##### ##### #####


 あとがき


 いつも応援ありがとうございます!

 今回の話の海域は↓の地図でなんとなく確認できます。


 ~レイザンブール国の地図~

 https://kakuyomu.jp/users/kusudama/news/16816452221454969468


 湾の中にある島が、ぶつかった島です。王都よりも大きい島になります。

 気になる方は見てみてくださいね!



 ◎ノーミィ更新します!

 近々、書籍化が予定されているノーミィ更新します! さらに続きます!

 続きをを読もうかなと思う方、ブックマークはそのままで!

 未読で気になる方は、今からブックマーク登録をどうぞ!


 魔導細工師ノーミィの異世界クラフト生活

 ~前世知識とチートなアイテムで、魔王城をどんどん快適にします!~

 https://kakuyomu.jp/works/16817330647491169472


 詳しくは近況ノートをどうぞ

 https://kakuyomu.jp/users/kusudama/news/16817330663462552550



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る