釣り師、やっぱり海がいい


 毎日ものすごい美人がなかなかの量を買っていくものだから、挟みパンに興味を持つ人が増えじわじわと売れるようになってきた。

 セレーナさん、優しく美人なだけじゃなく福の神だった。

 俺とシリィは開店前にガンガンと作る。

 魚を捌きマリネを作るのとマヨネーズ制作は俺がやり、肉パン制作はシリィがやる。


「シリィはキャベツ切るのが早くなったな」


「家でも作ってるんだ。早く一人前になりたいから」


 作業台に向かう真剣な顔は、一人前に働く者の顔だ。そこに子どもだからという甘えはない。

 偉いもんだな。

 俺も大きなボウルに向かう。中身大人もがんばらんとな。


 今日は新商品を売り出す。

 その名も『卵ソース』。

 まぁようするにマヨネーズ。問い合わせが多く評判がいいからこれだけ単品で売ることにしたのだ。

 決してセレーナさんを喜ばそうとしてのことではない。他の人からもこれだけ食べたいと言われたからだ。


 まずは卵に「[清浄アクリーン]」と魔法をかけ、いつもよりも数多く割り、黄身だけをボウルへ入れていく。

 白身は魔法鞄に入れておくけど、そのうち何かに使っていかないとたまっていく一方だぞ。

 それとワインビネガーと塩を分量通りに入れる。試作の末にたどり着いた黄金の分量だ。それを泡だて器でよく混ぜていく。[強化]の魔法を腕に使うといいとパン屋の奥さんに教えてもらったので、最近はとても楽になった。

 混ざったらポクラナッツ油を少しずつ混ぜて乳化させていく。もったりとしてきたらできあがり。

 しっかりと[清浄]をかけたビンに詰めていくつか用意した。


「――よしできた」


「もうコータスの仕事終わった?」


「ああ。マリネはできたし、マヨネーズも売る用塗る用作ったぞ」


「じゃ、もう店にいなくて大丈夫だよ。釣りしてきていいよ!」


 そう言ってニカッと笑うので、店は任せることにした。

 ゆくゆくはシリィが店長で俺がオーナーでお金の心配なく働いてもらうか、もしくはシリィにオーナー権を譲ってもいいと思っていた。

 想定より時期はかなり早いが、予定通りだ。


 少し心配だが。いや、ものすごく心配だが。

 最初のころは慌てていろいろやらかしていたけど、最近は計算ミスもなく客捌きも早い。多分大丈夫のはず――……。


 ――後でこっそり覗きにこよう。


 俺は、はからずもセレーナさんの気持ちを知ったような気がした。



 ◇



 シュッと振った竿が糸を放ち、釣り晶が水面に落ちていった。

 せっかく船を借りているというのになかなかじっくりと釣ることができなかったのだ。

 シロもごきげんでしっぽをゆらゆらさせながら水面を覗き込んでいる。

 もう日もだいぶ上っているしそんなに釣れないかもしれないけれども、ずっと続く青色を見ながらゆったり過ごすのは必要な時間だ。

 ゆるゆると進んでいく船に揺られながら、この世界の釣りのことなど考える。


 この世界ではおかしいくらいに魔魚とやらが釣れるわけだが、何がそうしているのか。

 竿? いつも魔力を通して手入れをしている糸? それとも釣り晶とかいう針のかわりに付いているやつ?

 あの釣り晶というものは少し怪しい気もする。普通、あんな水晶のようなもので魚なんか釣れないだろ。

 ってことは、あれを普通のルアーに変えたら、普通に釣りが楽しめるのだろうか。


 さっそく試してみることにする。

 釣り晶は金具で糸と繋がっていたので、カンを開いて外した。

 代わりに、魔法鞄の中に入っていたネジを取り出し、カンにはめ込む。少し開いているけど魔力を通せば外れないだろう。これを重りにして――――。


『ニャ~(それ魔銀です~)』


「魔銀? へぇ、そういう銀の種類なのか」


 そういえば前にちらっと聞いたような気もする。異世界には前世なかったものがやっぱり多いんだな。

 赤ラペシュの皮を巻きつけて(中身はシロが食べた)魔力を込めながら形を作るとエビに見えなくもないルアーができた。

 まぁたいがいエビは加熱してから赤くなるものなんだがな。


「とりあえず使ってみるか」


 キャストすると、すごい勢いで糸が伸びていった。

 嫌な予感しかしない。

 気軽に試してみたことを後悔してももう遅いってやつだ――――!!


『ニャ! ニャ~!(わたしが! かぶりつきたかったです~!)』


 シロがなんか抗議しているけどそれどころじゃなかった。

 魔力で糸を巻き上げようとするより早く、ものすごい力で引っ張られた。


 何かが食いついた?! 腕を持っていかれそうになる――――!!


 と同時に、がばっと体と竿に加勢する力が加わった。

 俺と同じくらいの大きさのモフモフが、しっぽを竿に巻き付け俺の体に絡みついていた。前足は俺の体にしがみつき、後ろ足は船の縁で踏ん張っている。


『(海に落っこちちゃいます~~~~!!)』


「シロ――――――――?!」


 大きくなったシロは俺もろとも魔力で船に固定しているらしい。

 結果、船ごと猛スピードで引っ張られた。

 落ちないようにするのはシロに任せて、俺は糸の先の何かをどうにかするべきか。


 竿のリールもどきを掴み魔力を思いっきり込めた。


 ドンッ!!


 遥か遠くで何かが跳ねた。

 海面が盛り上がって覗いた小山のようなモノ。

 全体は見えない。

 威力が足りなかったのか、上がりきらないほど大きいのか。はたまたどちらもなのか。


 なんだかわからないが、エライものがかかってしまった――――!!!!


 だが、やるしかない。

 俺は竿を握る手にさらに力をこめ、前方を睨みつけた。







 ##### ##### #####


 次話 9/10更新予定!

 同時にお知らせもありますので、よろしくお願いします!('ω')ノ


(9/10更新予定と言っていたのに9/3に更新しました……。でもノーミィ更新予定のお知らせは9/10なのです……(;'∀')アハハ)



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