釣り師、店主になる 3
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大変お待たせしました!!
遅くなってごめんなさい!
前回のあらすじ
・氷の薔薇(バラ肉と混ざらないよう漢字にします!)こと国軍の高嶺の花セレーナが店の保証人になった
・怒涛の勢いで店舗開店準備、狐っ子シリィがピンクと黄色のとんでも制服を用意
・さあ開店! ←いまここ
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市場が開店した。
俺の店『おいしい港屋』の初日が始まった。
ちなみに店名はシリィが付けた。
“港のコータスのテントに行けばおいしいものが食べられるから、おいしいは港にある気がするんだ!”
などと言われたら、他の名前を推すことはできなかった。
俺としては『暁の海蛇』とか『皇帝の鱒』とかもっとかっこいい名前を考えていたのだが……。名前を挙げた時、シリィにかわいそうな目で見られた。解せない。
まぁ、スイートラブリーな制服に海蛇や皇帝の気配はかけらもないから、よかったような気もする。
売るのはサンドイッチと、肉パンことお好み焼きだ。とりあえず2品のみ。
サンドイッチは市場内ベーカリーのパンを買って使うことになっている。
ベーカーリーで売り子をしている奥さんは、今のところ温かく迎えてくれているから、商売敵ではないことをアピールしたい。
肉、卵、野菜や小麦粉も全部この市場内で買って使う。
唯一、魚だけは自分で調達したものを使う予定だ。
一応、釣り師だし。
余らせるのも嫌だなと思って少ししか作らなかったけど、出来たてをそのまましまっておける保管庫があるんだから、多く作ってもよかったよな。
ぽつぽつと入ってくるお客さんは、通りすがりにガラスの保管庫を見てくれている。
買い物の後に買ってくれるとうれしいところだ。
シリィはやる気満々でカウンター前に立っている。
「そんな最初から飛ばさなくていいぞ。お客さん来るまで座ってていいから」
「コータスっておチビちゃんのくせに本当におっちゃんくさいよね! 座ってても落ち着かないの! お姉ちゃん来てくれるって言ってたし」
リュイデと変わらないし小さくないからな!
やる気に溢れた狐っ子とは逆に、本日の看板猫はお休みらしくシロは店の奥のカゴの中で丸まっている。
シリィがあまりに元気で付き合いきれないのかもしれない。
シリィの姉であるナミルも買いに来るならもう少し作っておくか。
販売カウンターのうしろにある調理台でキャベツを千切りにし、作り置きしてある生地と混ぜた。
お客さんから見えるところに置いた魔石コンロ。フライパンをよく熱して油を入れ、豚肉を広げる。
ジュワーといい音がしているところに生地も流し入れていく。カリッとした食感が楽しめるように、生地は薄め。
いい音とともに香ばしいにおいが漂う。
「焼いているだけでもおいしそう……」
シリィの言葉に目線を上げると、通路から見ている人もいる。
作るところもショーのようなものだよな。
タンッと肉パンをはね上げてひっくり返した。
「「「おお――――‼」」」『ニャ~~~~』
シリィと店の外で見ていた人たちから声が上がった。いつの間にか起き上がっていたシロも歓声――歓鳴き声? を上げている。
いやぁ、どうもどうも。
思わず笑って手を振ると、拍手まで沸き上がった。
少し火力を落とし、中までしっかり火を通したらフライ返しで半分に切って、俺特製マヨネーズをとろりと塗った。ソースがないからその分多めに。
マヨ面を内側にして重ね、くるりと紙に巻く。熱い!
「はい、肉パンひとつ出来たぞ」
皿に載せるやいなや、カウンターの向こうから「それ、ひとつちょうだい!」と声がかかった。
立ち上がりは順調。
いくつか肉パンを焼いて、その後はサンドイッチ。
この世界にはサンドイッチという名前はないから
シリィもリュイデも、今までこういう形状のものに特に名前が付いてなかったと言うんだよな。
チキンを挟んだパンというように、何かを挟んだパンと呼んでいたらしい。
売るのに不便なので挟みパンという名前にした。そのまんま。
こちらに挟むのは魚のマリネだ。
普通の魚が釣れなくて困り果て、俺はとうとう網に手を出したのだ……。釣り師たる者、網で魚を獲るなど何たる屈辱。
釣りギルドのハッサムさんから屈辱にまみれた網を買い、パッと投げ放った網にかかった魚の多かったことよ――! 魔魚じゃない普通の魚! 美味い! 網バンザイ!
その中で、売り物にならない小さいものを捌き、その刺身をワインビネガーベースのマリネ液に漬け込んだものがこちら。
正直、コショウがあればもっと美味いのにと思うのだが、ないものは仕方がないよな……。
ベーカリーで買ってきた丸い黒パンに包丁を入れて、上下二つに分けた。
室温に戻したバターをしっかり塗って、液が沁み込まないようコーティング。
よく水気を切った青菜と白身魚のマリネを載せ、マヨネーズを少しかけて挟み込めば『おいしい港屋』特製・新鮮魚の挟みパンの出来上がり。
お客さん、こっちも美味いよ!
この辺りの人たちは生魚を食べる習慣がないらしいから、保管庫には「生の魚を使っています。試しにおひとついかがですか?」というポップを張り付けている。
売れるといいんだが。
順調に肉パンが売れる中、冒険者のナミルがギルドへ行く前にパーティのメンバーと寄ってくれた。獣人ばっかりの男女5人混合パーディで、耳はそれぞれフサフサだし、しっぽもそれぞれフサッフサだ。
みんながそれぞれ肉パンを買い、空きスペースの休憩所で食べているのが見える。
何回か食べているナミルはニカッとうれしそうにかぶりつき、その他のメンバーはちょっとおそるおそる口を付けた。
「う、ウマっ!! 何これ?! 肉が入ってる!」
「――ウマぁい~~! 肉ウマい! カリッとする~!」
「カリカリパンだぁ! 本当にあの少年が作ったの? すごい!」
「中のソースはトロっとしているぞ。卵の味がする。ウマいぞ!」
「そうだろ! コータスの作るものは美味いんだ!」
上がった声がこちらまで聞こえ、シリィと俺は目を見合わせてニヤリとした。
メンバーたちもこちらを見て、親指を立てる。
目立つ獣人たちが食べて盛大に宣伝してくれたおかげで、通る人たちも買ってくれた。
そしてナミルとパーティメンバーたちは、全員肉パンを3つずつ買ってギルドに向かった。
……足りてよかった!!!!
慌てて肉パンを追加で焼いた。
怒涛のごとく焼きまくっているうちに昼になり、シリィに休憩させる間はカウンターに立ち。なかなか忙しいな……。
この時間になると、昼休憩の市場内の人たちが買いに来てくれた。
ぼちぼち相手をしながら、ふと違和感を感じて視線を動かす。
離れたところにある柱の横を通る人が、みなすごい驚いた顔をしているのだ。
――柱の影に隠し切れない神々しいオーラがあるぞ……。
隠れてこちらをうかがっているけど、全然隠れてない。
知られたくないということだろうから気付いていないフリはするけど、通る人たちのリアクションで、どうしたって目がいってしまう。
アイスブルーの髪が、柱の影からさらりとひと房こぼれ落ちた。
心配して見に来てくれたんだろうな……。
でも、ちゃんとやれるし大丈夫だぞ。異世界産だけど中身おっちゃんだし。
俺は気持ちを込めて、肉パンを買ってくれたお客さんに「ありがとうございました!」と言った。
いつもより少し大きな声が出たと思う。
離れた柱の裏にも届くといいのだが。
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