第二章 異世界商人デビュー
釣り師、将来を考える
国軍からスワンプサーペントの礼金が入り、俺は小金持ちになった。
住むところをどうにかするか。
釣り師を極めるべく釣りに投資するか。
はたまた、これを元手に何か増やす方法を考えるか――――。
いや、博打はイカン。人生、堅実が一番だ。
◇
「――――んで、船を買おうってか?」
「釣り師って時点ですでに博打打ちだね。コータス少年」
「そうなのか?!」
「そりゃま、そうだろ。冒険者よりは危険が少ない仕事が選べる分、儲かるか儲からないかは博打だぜ?」
釣りギルドのハッサムさんとマリリーヌさんはそう言って笑った。
異世界で釣り師だの魔法だの冒険者だのが普通になっていたから、すっかり感覚がおかしくなっていたけど、そうだよな。
「君はまだ若いんだから、いろいろやってみるといいよ。釣りはその中の一つくらいでいなさいな」
「釣りで魔法のスキル上げて、魔法ギルドの職員になった奴もいるんだぜ」
「釣りで魔法のスキルを上げてって、どうやるんだ?」
「釣りしていれば勝手に上がるぜ。糸垂らしていれば魔力を使う。これだけなら上りはあまりないが、
なるほど。釣りで魔法スキルも上がるのか。
魔法スキルはこの世界ではすごく重要なのは、転生してからの数日の間でわかった。
[転移]が困らないくらいまで上げたい。
それならしばらくは釣りしがてら魔法スキルを上げて、なんか将来を考えればいいか。
将来って言われても、異世界の将来なんてピンとこないが……。
「だから釣りは知らずに魔力が減っていることが多いんだぜ。魔力切れには気を付けろよ。釣り師は魔力切れで動けなくなったところを、釣った魔獣に襲われて死ぬことが多いからな。ポーションはここでも売っているからちゃんと用意しておくんだぜ?」
「わかった」
魔力の減りは時々確認していたけれど、そんなに減っていることがなかった。
スワンプサーペントを釣っても1割も減ってなかったしな。あんな大きくて釣り上げるのが大変だったわりに、使った魔力はたいしたことがなかった。
それならまだシロに吸われた時の方が、抜けた感じがあったな……。
ということは、今くらいの感じで使えば、魔力切れになるってことはないってことだ。
([
◇ステータス◇===============
【名前】コータス・ハリエウス 【年齢】12
【種族】人 【状態】正常
【職業】釣り師
【称号】なし(申し子)
【賞罰】なし
◇アビリティ◇===============
【生命】2500/2500
【魔量】47101/47600
【筋力】64 【知力】80
【敏捷】67 【器用】92
【スキル】
体術 55 剣術 33 魔法 70
料理 92 調合 58 釣り 100
【特殊スキル】
鑑定[食物]21 調教[神使]100
申し子の言語辞典 申し子の鞄 四大元素の種
シルフィードの羽根 シルフィードの指
サラマンダーのしっぽ
ウンディーネの祝福
【口座残高】5531208レト
スキルは結構上がった。成長しているのがわかる。
スワンプドラゴンはスキル100のスキルマスターになってから釣れるようになると聞いていた。オタマジャクシを釣っている間に釣りが100になっていたってことだ。
釣りのスキルマスターになったというのに、釣りたい食べたい普通の魚が釣れないとはなかなか皮肉な話だよ。
「――――まぁ、あれだ。元手があって釣りを極めたいと思うなら、船を買うのはありだ。お試しに小さいのを貸すぜ?」
ハッサムさんが大変いい顔で笑った。
船で海釣り…………。
魅惑の言葉に勝てるわけもなく。
俺は小さい船をお試しで借りてみることにした。
◇
魔法がある世界の船はやはりおかしな仕様で、進む方向や速さを指定して動かすのだ。
「“船よ、ゆっくり前に進め”」
オールで漕ぐようなシンプルな見た目の船が、ゆっくりと進み始めた。
「おお! 進んだ!」
『ニャニャ~ン(船はいいものです~)」
船はゆっくりと滑るように進み、岸が徐々に離れていった。
縁に手をかけて海を見ているシロはご機嫌のようだ。
俺ももちろんご機嫌だ。
船はあまり揺れず、なかなか快適。テントも快適だし、これも何か特殊な加工がされているんだろうなと思う。
これで糸を垂らせばトローリングできるな。
俺は気軽に竿を振ってキャストした。
船が動いて釣り糸も動くから餌のように見える……はず。だが、魔力で勝手に糸が伸び縮みするのだからあまり意味はないかもしれない。
気分だけでもトローリングと思っている瞬間にも、あたりがあった。
すぐに釣れた。次から次へと釣れた。大量に釣れた。
魔魚が大漁、なんか小さいスワンプサーペントみたいなのも釣れたのだが――――普通の魚は釣れなかった。
普通の新鮮な魚が食いたいだけなんだがなぁ…………。
釣りのスキルマスターをもってしても釣れないとは、普通の魚の方が絶対に難易度高いよな。
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