釣り師、調教した(?)
「ねぇ、コータス少年。そのカゴの中、猫?」
マリリーヌさんに言われて、はっと我に返った。
カゴの中の猫はもぞもぞと動いて、目を覚ましたようだった。
「うん、さっき拾ったんだ」
『ニャ~ニャ~(ちがいます~。下僕にしたです~)』
「名前はもう付けた?」
『ニャニャ~(名前はシルクスイート・ロイヤルパルファムです~)』
「うん、名前はシロ」
『シャー!!』
「……なんか怒ってるわね~?」
「おお、猫か! 俺も撫でていいか?」
『シャーッ!!』
「ちょっと、アンタ。もっと怒ってるじゃないのさ」
「腹減ってんのか? ガハハハハ」
シロはシャーシャー言っていたくせに、マリリーヌさんに撫でられるとおとなしくなってゴロニャゴロニャしている。
なかなか現金な猫だ。
「――――この子、真っ白だね……。神獣なのかい?」
『ニャ~(そうです~)』
「……うぇ?! 神獣?」
「真っ白の動物は神の遣いって言われてるね」
たしかに神様から遣わされたって言ってた。
神様から遣わされた普通の白猫だと思ってたけど――――神獣?
「そうだぜ。こんな白い猫は見たことないな。コータスはずいぶん腕のいい魔獣使いなんだな?」
「――――いや、勝手になついてきただけで、俺は何も……」
「[
([
◇ステータス◇===============
【名前】コータス・ハリエウス 【年齢】12
【種族】人 【状態】正常
【職業】なし
【称号】なし(申し子)
【賞罰】なし
◇アビリティ◇===============
【生命】2479/2500
【魔量】46127/47600
【筋力】59 【知力】79
【敏捷】65 【器用】91
【スキル】
体術 53 剣術 33 魔法 62
料理 91 調合 57 釣り 98
【特殊スキル】
鑑定[食物]18 調教[神使]100
申し子の言語辞典 申し子の鞄 四大元素の種
シルフィードの羽根 シルフィードの指
サラマンダーのしっぽ
ウンディーネの祝福
【口座残高】3520742レト
――――――――?!
いろいろとなんか増えてる!!!!
と、とりあえず、調教のところは数字入っているな……。
「――――調教に数字がある……」
「ってことは、コータス少年が調教した神獣ってことだね」
『ニャ~』
そ、そうなのか。
そういえば申し子の護衛って言ってたか。
[
「ま、神獣ならどこでも連れて入れるからな。堂々と連れて行けばいいぜ」
ペット不可の場所も連れていけるなら、悪用される心配がなくていいかもしれない。
せっかくギルドに来たことだしと、俺はさっき釣った魚を見てもらうことにした。
まずは毒ガレイ(仮)。
「おお? 魔平魚じゃねーか! もうちょっと沖へ出ないと釣れないんだぜ。運がよかったな!」
今は流通数が少ないとかで、買取価格1000レト。二匹で2000レト。
これだけで昨日買った山盛りの肉が10皿分だぞ……。
次にアンコウみたいな魚を出す。
「黒胴か! こっちはさらに沖じゃねーと釣れないはずなんだが……よっぽど潮がおかしくなってんのか……」
身は美味で、肝が薬にもなるとかで、3000レトで買い取るって……。
怖くなってきた……。
最後に出したひょろひょろしたやつは、100レトだった。
「海子蛇は、皮が細工に使われるんだぜ。――――いや、それにしても、次は何出されるのかって、ヒヤヒヤしたぜ!」
結局、釣ったやつは全部売った。
せっかく初めて釣ったやつだし食べたいと思わないこともなかったけど、目先のもうけに目がくらんだ。
肉パーティにするか!
魚はそのうち魔魚じゃないのが釣れたら食べればいい。
リュイデが来た時に出せるように、食材を多く買っておこうか。
俺はシロを入れたカゴを持って、昨日行った市場へ向かった。
◇
市場へシロを連れて行ったところ、大モテでたくさんおまけをもらった。
神獣様、神獣様ってみんなありがたがってた。
神獣というか、やっぱりまねき猫なんじゃないかと思う。
「シロ! 食材大量だぞ。さすが神獣だな!」
『(シロじゃないです~。シルクスイート・ロイヤルパルファムです~。神獣はえらいのです~)』
ちょっと偉そうにしているのも、幸福のまねき猫だと思えば大変かわいく見える。
それにしても、香辛料が全く売ってないのには困った。
コショウがないと、やっぱり物足りないし、他にもニンニクやショウガなんかも割と必需品だ。
あと調味料も少ない。
醤油がないのは仕方がないとしても、ソースにケチャップにマヨネーズなどなどがなんにも売ってなかった。
ま、とりあえずは、マヨネーズは作っておこうと思う。
異世界転生の料理チートの花形だもんな。日本でマヨネーズ作ったことがあってよかったよ。
あとは長ネギっぽいものはみつけたので、これで香りを付けることにする。
「シロは魔力を食べるんだったか? 鶏肉はいらない? ネギは猫にはまずいか……」
『ニャ~(ねぎま大好きです~)』
食うんだな!
日が落ち急激に暗くなってきた夜空の下、魔ランタンを灯す。
テントの前に折りたたみの椅子とテーブルを出し、その上に魔コンロを置いて晩飯の支度を始めた。
まずはマヨネーズ。ボウルに入れた卵黄とワインビネガーと塩少々を泡だて器でよく混ぜて、ポクラナッツ油を様子見ながら足していく。もったりしてきたらできあがり。
混ぜるのだけ筋力がいるけど、簡単で美味くて最高だよな。マヨ。
あとは鶏モモ肉と野菜を適当に切って、油をひいたスキレットで焼いていく。
塩と刻んだネギにワインビネガーをちょっと振った、なんちゃって塩ダレを作ったので、それでいただくとする。
「ほい、シロ」
『ニャニャ~』
シロの辞書には猫舌という言葉はないらしい。
出してすぐにあぐあぐと食べ始めた。
『(おいしいです~おいしいです~~~肉はジューシーでネギとのあいしょうがいいです~~~)』
なかなかのグルメ。
俺もぱくりと一口。
皮は香ばしくかつトロリとして、身はシロが言う通り柔らかジューシー。ネギダレがさっぱりして、箸が、いやフォークがすすむ。
作りたてのマヨも付けて食べてみても、美味い。
今度、市場に行ったら、柑橘を買ってきてもいいかもしれない。
ウマウマと一人と一匹は夢中で食べていたので、気付かなかった。
近づいてくる影があったことを。
「――――いい匂いだよぅ……。おなかすいたよぅ……」
――――ん? また猫か?
気軽にくるりと振り向いた俺が見たのは、情けない顔をした獣耳の少女だった。
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