ゴミ山のヘカトンケイル

 仏教の悪魔「阿修羅」というか、異形がケンジのこたつ机に片足を乗せて鎮座している。


 顔も3つあり、すべて違った種類のボールだった。目はビーズで、口はお菓子の空き箱で作ったキザ歯でできている。体中にビーズを撒き散らし、目のようになっていた。脚は空き缶、足首から先は弁当の空箱である。体を包むお菓子の袋は袈裟? いや、マントか。ギンギラギンに光って、悪魔の威厳が際立つ。


「ヘカトン、ケイル?」


 その悪魔は、背中から無数に腕が生えていた。それは、木くずをボンドで固めたものだ。どの腕も、中指をおっ立てている。


「その声は、タクヤか? よく来たな!」


 ケンジが、ヘカトンケイルの後ろからニョキッと顔を出す。


「おれのもやっと完成したぞ。いまさ、ボンドが乾くのを待ってるんだ。見ろよ。『サマー・ウォーズ』の「ラブマシーン」を参考にしたんだぜ?」

「というか……まんま、ラブマシーンだな」


 やられた。タクヤはフィギュアを落としそうになる。



「ごめんなケンジ。遊んでやれなくて」


 なんて情けないのだろう。

 自分のことばかりに気を取られて、相手がどれだけ退屈していたか気がついてやれなかった。

 その怨念が、ケンジにこれを作らせたのかもしれない。


 ケンジの仏像からは、そんな気持ちを思い起こさせるだけの気迫があった。


「うおー、やっぱすげえ。こういうのを、神は細部に宿るっていうんだろうな。おれなんか雑でさー」


 一方、ケンジはタクヤの木製フィギュアを大事に扱う。


「いや、お前のフィギュアができるの、待ち遠しかったんだけど、邪魔したら悪いと思ってなー。ちょうどいい感じに暇つぶしできたわー」


 これが暇つぶしだと?


 タクヤは、ケンジの超絶恐ろしい才能に嫉妬した。しかし、すぐに思いとどまる。


「これさ、並べたら圧巻だな」

「ホントだ」


 孤独に戦う美少女と、この世界すべてのゴミみたいな心が集合体になったバケモノとの戦いに見えた。


 環境破壊をテーマにした芸術性と、ただの二次創作とも思わせる危うさを併せ持つ。


「これさ、発表するとき向かい合わせで並べさせてもらおうぜ」

「そうだな!」


 こんなすごいやつと友達になれて、よかった。


「……あ、しまった! これじゃ運べねえ!」


 突然、ケンジが頭を抱える。持っていくことを想定していないサイズに作ってしまっていた。


「ボクのお父さんに頼んで、軽トラックを出してもらう。それに積んでいこう」


 こんな芸術品、ケンジの家だけに置いておくなんてできない。

 絶対に、世間へ彫り出さないと。


 始業式当日は軽トラックに乗せて、無事展示に間に合った。





 数日後、二人の小学生が校長に呼ばれた。




 一人は、ロングスカートにメガネを掛けた優等生少女である。

 もう一人は、ピッグテールにノースリーブと短パンのギャルだ。

 

 田辺たなべ 咲夜さくやさん、妙顕寺みょうけんじ いつきさん。

 両名の作品は『女子の作品にしてはセンシティブ過ぎる』と保護者からクレームが来ました。よって、展示不可とします。


 田辺咲夜タクヤ妙顕寺いつきケンジの作品は、体育館で展示できないことに。


 保護者からの物言いが付いたと、校長から聞かされる。厳密には、浜辺で拾ったゴミを部品にしたことが原因だった。ケンジによると、アダルトグッズと知らずに拾ってきたらしい。


「この作品、お互いをモデルにしたでしょ?」


 校長の言うとおりだ。

 本作の女体像は、それぞれをモチーフにしていた。

 しかも、両者とも裸同然で。

 示し合わせたわけじゃない。サプライズのために、そうなってしまったのだ。 


「フフフ」

「ニヒヒ!」


 小学校なんかに、二人の感性を理解できるわけがない。

 そう思えると、なんだか笑えた。



 

 一〇年後、二人はネットでカリスマ女性造形師としてプロデビューを果たす。


 コンビ名はもちろん、「タクヤとケンジ」だ。

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一本造りの木製美少女フィギュアと、ゴミ溜めの悪魔 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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