第17話

「雨音?」


急に後ろから声をかけられ、肩が跳ねる。


「あ、おかえり。女の子たちは?」

「知らない。怒ってどこかに行った。」


いつもと何ら変わらぬ表情で、答えられ苦笑する。


「そ、そっか。じゃあ帰ろっか。」

「うん。ありがとう教科書。ちょっと待ってて。」


怒ったということは断ったということなのだろう。嬉しい気持ちもあるが、最初に紏柚に話しかけていたあの女の子のことを思うと少し切ない。


「雨音。」

「んー?」

「いい名前。」

「ありがとう。」


お礼を言うと、彼はふふっと満足そうに笑う。

きっとまたあの漫画のキャラクターと同じような言い方をするからとか言われそうだ。

機嫌のよさそうな紏柚は、彼にしては珍しく、素早い動きで私の隣に立った。


「雨音…?」

「あ、ごめん。どうした?」

「あの、…いや、なんでもない。雨やんだみたいだし、帰ろ。」


ついーぼーっとしてしまっていた私に紏柚は少し不満そうな顔をしたが、いつもの柔らかい笑顔を浮かべて私の手を引く。

何故かこの手の中に誰にでもない罪悪感が渦巻いているような気がして、心地が悪かった。

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思いは金魚鉢の中 花詞 @kasi_888

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