第16話

「綾瀬くん、ちょっといいかな?廊下に来てくれると嬉しい。階段の踊り場でもいいし。」


今日は雨が降っていて、早めに帰ろうと帰り支度をしている時に女の子たち3人組が紏柚に声をかけた。


「…眠いから、ごめん。」


彼は女の子たちに目もくれず教科書類を揃える手だけを止めて答える。


「時間はそんなに取らせないから!」

「そうそう。ほんとにすぐだから!」


気だるそうな紏柚の言葉を聞いて、残りの2人が食い下がる。

続けて、"篠原さんと一緒に帰るなら待っててもらえばいいじゃん。"と急に指をさされ戸惑う。

返事に困っているうちに"篠原さん待っててくれるよね!?"とさらに追い討ちをかけられ、行っておいでと紏柚を見送ってしまった。

これは確実に告白されるんだろうなぁ。

よく知らぬ女の子たちを応援するようなことしてどうするんだ。バカにも程があるだろ私。


「はぁ…」


とにかく紏柚が帰ってきたらもう誰かに捕まる前に一緒に帰ろう。

自分の帰り支度を早々に終わらせて、彼の整えられた教科書類をカバンにしまう。

その時ふと、例の桜色のノートが目に止まる。

手に取ると桜のような香りがふんわり香った。

女性ものの香水だろうか。

中を見たい気持ちと、中を見たらまたモヤモヤするだろうなという気持ちが同時に沸きあがる。

いやいやさすがに二度も他人様のものを勝手に見るわけにはいかない。

私は、何も見なかったことにして、それらをかのカバンに押し込めた。

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