第4話 君と僕は

気が付くと僕は病院のベッドで寝ていた。

何故だろう妙に暑さを感じる…。


「あ、直人が起きた!」


身体が重い、吐き気もする…暑い。

僕はさっき死んだはずじゃ?


「もう、熱中症で倒れたって聞いてびっくりしたわよ!」


ベッドの横には母さんと父さんがいた。

そして何より驚いたのは、余命宣告されたあの日に僕は戻っていた。


「熱中症?」


「ああ、それ以外に異常は無いって」


「そっか…」


ボクは激しく混乱していたが、父さんと母さんが部屋から出た後、状況を整理していた。


「んー、パラレルワールド?」


僕の身体には異常が無い、つまり病気も無い。

それ以外に無いな。

僕は割とあっさり受け入れた。


「ジュースでも買いに行こ」


とりあえず気持ちを落ち着かせるために自販機にジュースを買いに行った。

ん?でも待てよ、ここは同じ病院だよな?って事は…。

僕は走った、あの日あの人と出会ったあの場所へ。

身体のだるさはあったがそんなのは関係がない、僕は必死にあの場所向かった。

そこには、彼女はいなかった。


「そうだよね…」


僕は大人しくジュースを買い、戻ろうとすると、見覚えのある後ろ姿があった。

間違いなく彼女だ…。


「あ、あ…」


声をかけようと思ったが一瞬だけ躊躇ってしまった。

もし彼女がパラレルワールドで、前の僕との関係と同じだったら?

もし彼女の病気がこちらでも出ていたら?

そう考えると怖かった…でもそんな気持ちとは裏腹に、僕は彼女の手を掴んでいた。


「あっ…」


つい咄嗟の事とは言え、さすがにマズいと思って手を離そうとした瞬間、彼女が僕に抱きついてくれた。


「良かった…君から来てくれて…」


「やっぱり…記憶があるんだね…」


「うん…病気は無いけど」


「良かった…本当に…」


僕達は精一杯の力で抱き合った。

もう二度と離れないのではないかと言うくらいに力強く。

そして少しだけ、泪が涙が出てきた。


「やり直し…思ったより早かったね…」


「本当だよ、僕が言った《逝った》途端だよ…」


「上手くないよ!?」


冗談交じりに彼女にそう言うと、強めのツッコミを返された。

それにしても何故こんな事が起きたのだろうか?


「不思議なこともあるもんだね…私も気が付いたら病院でさ…夏風邪だって」


「僕は熱中症…」


「ねぇ…君はどこまで覚えてる?」


そう聞かれて、さっきの事を思い出すと顔に血が上り、咄嗟に唇を抑えてしまう。


「え!?そこまで!?」


「感覚だけ…一応…」


お互いに微妙な空気になってしまった。

しかしそれが逆に雰囲気を作り、お互いの顔がゆっくりと近付いて…そのまま僕は彼女と唇を合わせた。


「もう一度だけ言うね…僕は佐倉奏さんのことが大好きです…僕と付き合ってください」


「…はい…!」


こうして僕達は結ばれた。


そして10年後。


「あ!そろそろミルクの時間か!」


彼女はそう言うと哺乳瓶を取り出し子供にミルクを飲ませていた。


「お?今日は一段といい飲みっぷりだねぇ」


「でももうそろそろ離乳食の時期じゃない?」


僕は佐倉奏さん、もとい山口奏となった彼女と1人の子供を授かり、現在育児の真っ最中です。


「ふふっ、まさかこんなことになるなんてね」


「そうだね、余命宣告されたのが嘘みたい」


「こっちではされてないけどね」


彼女は微笑みながら、子供を寝かしつけて僕の隣に座った。

そしてあのクリスマスの時とは逆の立ち位置になった。


「本当に不思議だよね…あの半年が夢見たいで…いやぁ、あの時は正直青春を謳歌してたねぇ僕達」


「そうだね、でも直人君から誘ってくれたのクリスマスの時だけじゃん」


「ははっ、人を振り回してたクセによく言うよ」


「でも楽しかったでしょ?」


「それはもちろん」


僕達は、あの後も同じことをして、クリスマスも同じプレゼントを渡して、その後も健康に生き続け、そして大学を卒業と共に入籍した。

僕はプログラマーとして会社を設立し、ほぼ在宅ワークをし、彼女は育児をしながら僕の仕事を少し手伝ってくれている。


僕達はあの半年を決して忘れる事は無いだろう。

僕たちがした経験、出会いは全てが楽しくて、新しくて、不思議だった。

結局あの不思議な出来事の謎は分かっておらず、今でも謎のままである。

けど僕が思うに、多分彼女の思いなんだと思う。

彼女は不思議だ、底なしに明るくて、綺麗で、そして人一倍思いが強いのかもしれない。

僕はそんな彼女を愛おしく思い、その魅力から目が話せなくなった。

これは偶然なのか、それとも運命なのかは分からない。

人生分からないことだらけだ。


ただひとつ、僕が言えることがあるなら。


「ねえ?私の事好き?」


「愛してるよ」


人生には、悪い事もあればいい事もある。それがいつ来るかは分からないけど、必ず今しか出来ないこと、今しか経験できないことがある。

だからいつ死んでもいいように、辛くても今精一杯、自分の人生をどれだけ楽しむ事ができるのかが大事なのかもしれない。


余命宣告半年の君と僕は


[完]

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余命宣告半年の君と僕は Morua @Morua

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