第7話 鬼泪山

 渋谷、濱野、水上の3人を死に追いやったのは咲だった。全ては謙吾に会うためだ。

 数日前に佐貫城で死神に会った。   

 佐貫城真里谷氏(真里谷武田氏)によって築かれた平山城。古文書から永正年間から天文6年(1537年)にかけて真里谷全芳(武田信秋)が城主を務め、加藤氏が城代を務めたと推測されている。加藤氏は『鎌倉大草紙』に登場する武田信長の家臣・加藤入道梵玄の末裔と推定され、真里谷氏の没落後も佐貫の有力者として時々の支配者に従った。


 天文6年(1537年)以降のある時期に安房里見氏の支配下に入ると、里見義弘が拠り、久留里城と共に真里谷氏及び後北条氏への最前線として重要な役割を果たした(ただし、近年の古文書研究により、後北条氏が同城を占拠して城代を置いていた時期も存在していたことが判明している)。里見氏安房移封以降も城郭として維持され、17世紀末から18世紀初頭の一時期を除き、明治維新まで維持された。

 

 死神は、『魔法を覚えたくはないか?パイロキネシスや回復の魔法の他に、亡くなった人を蘇生させるって魔法もある』と言っていた。

 咲は不意に謙吾の笑顔を思い出した。

『僕、おっきくなったらママと結婚する』

 たくさんの夢や希望があっただろうに、無惨に奪われた。

『魔法を覚えるには5つの魂を集めることだ』

 咲は囚人の家族とグルになって護送車を襲撃した。殺されるとも知らずに、渋谷は『それにしても美人だな?一発やらせてくれよ』と木陰で襲ってきた。ベルトを外して身動きが取れなくなった渋谷にロープを巻きつけてあの世に送った。

 濱野は以前勤務していた店の上司だ。

 女の咲にも仕事が遅いとラリアットを喰らわせてきた。彼のシゴキがあったからこそ、安藤に重傷を食らわすことが出来た。

 咲は子供から昆虫が大好きだった。

 昆虫の乾燥標本を集める趣味は、歴史が長い。研究者であっても、趣味として昆虫のコレクションを行っているものも珍しくない。ヨーロッパでは貴族的な趣味の一つと見なされる。そのための専用の昆虫採集人という職業があるほどである。そのようなコレクションが、博物学やその系譜を引く分類学を支えてきた面もある。イギリスの富豪ロスチャイルド家のナサニエル・チャールズ・ロスチャイルドとミリアム・ロスチャイルド父娘は、ノミのコレクションをしていたことで有名で、そのために北極へ採集船を仕立てたこともあったと言われている。世界のノミの分類学研究は、世界中のノミの標本を網羅したナサニエルと、父のコレクションを整理研究したミリアムの功績によって大成されたのである。


 昆虫は圧倒的に種類数が多く、多様であるので、すべてを集め尽くすのはほぼ不可能である。また、地方変異や個体変異など、並べて比べる楽しみもある。宝石並みの美しさを持つものや、奇妙な姿のものもある。虫を追っかける狩猟的行為そのものを目的とする原始的な楽しみ、という面もあろう。 何でも集める人もいるが、多くの人は特定の分類群に情熱を集中する。特にチョウは古今東西、一番の人気を誇り、その知識の集積はすさまじいものがある。これまで蓄積された学術情報の密度が極めて高く、たとえば蝶の標本1つから、それが世界中のどの島のものか、どの季節に取れたのかがわかる場合があるほどである。対照的に、ガは人気が低く、ごく一部の根強いコレクターがいるばかりであった。最近ではチョウの学術的解明が進んだため、研究志向の愛好家は対象をガに移行させる傾向が見られる。ガは基本的に夜間に採集が行われるため、(昼間に採集が行われるチョウと違い)会社勤めをしている愛好家でも、休日をあまり考慮しなくても良い点も、大きな魅力となっている。それでも標本づくりに特殊なテクニックを要する小蛾類の愛好家はあまり増えていない。


 他にコウチュウ目(甲虫目)のオサムシ・ゴミムシ類、カブトムシ類、クワガタムシ科も人気が高い。コガネムシ類、カミキリムシ科などもなかなかの人気である。コガネムシ目のそれ以外の昆虫をまとめて雑甲虫と言ったりもする。ほかにトンボなども地道な人気があり、愛好家に占めるハイレベルの研究家の率が高い。不人気な分類群はプロの研究者と相互補完的関係にあるアマチュア研究家のマンパワーが不足するので、研究がなかなか進まない傾向がある。ハエ目がその代表であるが、近年美麗な種の多いハナアブ科は採集者が増えつつあり、日本のハナアブ相がそれに比例して詳細に解明されつつある。また、やはり通常の昆虫標本の製作法(後述)が適さず、煩雑な方法でプレパラートなどにしなければならないアブラムシやトビムシ、アザミウマなどの採集者は、プロの研究者以外にはほとんどいないのが現状である。


 アリの食性の基本は肉食だが、種類によって草食、菌食、雑食が分化している。生きた動物を襲う種類から自ら栽培した菌類を主食にする種類まで、多種多様な食性が知られているが、エネルギー源として植物の蜜やアブラムシの甘露、タンパク質源として肉食をする種が多い。肉食の種では、特に土壌性の小型種で、トビムシ、ムカデ、ササラダニなど、ほぼ特定の生物のみを襲って獲物にしている種が多く知られている。


 巣の外で餌を見つけると、その場で摂食して素嚢に納めて巣に持ち帰る場合もあるが、丸ごと、あるいは刻んで運ぶ行動がよく知られている。中には、砂粒に蜜をまぶして持ち帰るような、道具を使うアリもいる。その際、アリ達が列をなして行き来するのが見られるが、これは同じ家族の働き蟻によって通り道に残された足跡フェロモンをたどって行くことによるもの。古くはアリは道を覚えて歩くと考えられており、ファーブルの存命時にはこれが解明されていなかった。ちなみにアリ達がなんらかの原因で円を描くように列をなすと、足跡フェロモンをたどる習性が仇となり、延々と渦を巻くように力尽きるまで回り続けることがある。

 

 濱野はハニートラップを仕掛けると興奮してきた。「私、野外ですると濡れちゃうの」と、黄金の井戸近くの雑木林に誘い込み、ハチミツを全身に塗りたくった。睡眠薬を飲ませたこともあり、手錠やロープで固定するのは簡単だった。

 カミアリの入った瓶の蓋を開けて、奴の体に群がらせた。命乞いをしたが咲は無視してその場から去った。その際、ネンブタールを盗んだ。


『エデンの園』は本来、NPO法人だったがその中のある人間が、法人を語って裏の仕事を始めた。

 そのある人間ってのは咲だ。

 息子を失って気力を失って仲間が欲しくて千葉市内にある『エデンの園』に通っていた。水上のことはそのときに知った。

栃内とちないさん、世の中不公平だと思いませんか?』と、水上はうわ言みたいに常に言っていた。

 水上はコテージ内で自殺していたという。

 あと2人で謙吾と会える。

 相良と安藤を葬ることにしよう。

 

 鬼泪山きなだやまに咲はやって来た。マザー牧場にその大部分がある、標高309.3メートルの山。山の上ゲート付近を山頂とする。古くは日本武尊がこの山に住んでいた鬼を退治した時に、鬼が泪をこぼしたことが名前の由来とされている。ちなみにこの時に鬼が流した血で赤く染まったのが、鬼泪山から佐貫を通り新舞子海岸へと注ぐ「染川」の名前の由来との説がある。

 

 相良を倒すにはもってこいの場所だ。

 相良は目と鼻の先にいた。

 咲はナイフを握りしめ、相良ににじり寄った。

 本当に殺すべき人間が近くにいる。

 銃声が響いた。

 安藤が咲を狙撃したのだった。

 咲の眉間に穴が穿たれた。

 安藤は思い出していた。死神の言葉を。

『2020年になるまでに妖怪を15匹倒せ。そうしないと世界が滅ぶ』

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富津殺人事件 鷹山トシキ @1982

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