節分、鬼払い!(3)

 それは何かはわからずに。

 忍の案は大体妙案だから、ふつうの思考回路では予想がつきづらい。

 提案を聞く姿勢の鬼たちと一緒に、忍の次の言葉を待つ。


 いや、今日は折しも節分だ。

 鬼たちは豆で追い払われる日。

 追い払われて困っている鬼たちが困らないようにする方法は。


 逆手がくるような予感はしつつも、予感だけで何が思い浮かぶというわけでもない。


「今日は鬼遣らいの日です。鬼は外ってやられたんでしょう?」

「そう。どこにいってもそんなことしか書いてないし、なんだか寂しい気分になる」


 気付いてたんか。確かに街角の豆屋さんには鬼は外 福は内の筆字が掲げられたりしてた気もするけど……確かにそれはめちゃくちゃ寂しい。


「それは日本の文化だからこどもに理屈は通じないとして」

「子どもにって大人には通じたの? そういえば大人の対応はどうやって話しつけてきたんだ?」

「そんなの簡単だよ。観光の鬼さんが恵方巻食べたいって来てるんだけど、食べさせてあげてもらえませんか?って」


 直球すぎる。

 直球過ぎて、ふつうの人には逆に思いつかない対応策な件について。


「うん……お前は時々、裏の裏をかいて表だよな……」

「裏はかいてない。むしろなんでまず本人たちに頼まないのかと色々疑問だ」


 偉い人にも疑問は直接聞いて解決するタイプである。恐れ知らずというか、そう、大抵の人間は何もしない内から恐れて「直接聞く」が選択肢から無意識に外れてるんだ。


 オレは今、世界の真理を垣間見た。


「で、豆ギャングの家の人には恵方巻が食べたいだけの善良な観光客なので発砲とかやめてもらいませんかと」

「そうだな、まずはそこだよな」


 話し合いで解決に持って行くのはえらいとおもう。しかし豆ギャングとか。背丈が豆という意味なのか、豆を発砲するからかなのは今は聞かない方がいいだろう。


「それで、俺たちはどうすればいいんだ?」

「もしよければ……」



   ・

   ・

   ・


 忍の提案。それはとても簡単なことだった。

 それを踏まえて一緒に通りに出る、と豆ギャングたちの姿は幸い見当たらず、恵方巻を売っているその店先にすぐに辿り着けた。

 飽きてどこかに行ったのかもしれない。子どもは移り気だ。

 先に話を聞いていたからか、店の人はこころよく迎えてくれた。もともと有名な商店街だ。神魔の接客慣れをしている。異形という意味ではもっとすごいヒトもいるわけで、むしろ鬼の外見は親しみがあるのかもしれない。


「ん?」


 そんな店員が勧める恵方巻の横、豆がビニールに入ってシンプルに売られているそこに。


『鬼も内 福も内』


 そう書かれた紙が貼られていた。


「あれ? これ……」

「あぁ、さっき女の人が来て客が来るのにこれはないって言われてね。急きょ張り替えたんだよ」


 振り返ってみるといつのまにか忍の姿は消えていた。

 なるほど、現代日本には神も悪魔も「客」として溢れている。鬼だけが外というのはまったく根拠もなく、失礼な話だ。悪魔の例はとくにわかりやすいから、忍はそこを引き合いに出したんだろう。


 どの道、店にとっては「客」に違いない。


 ……プロだな。


 初めてのパターンのキャッチコピーを見て青鬼も赤鬼も感激している。この辺の日本人の適応力はいつも半端ないと思う。特に商人系の人たち。


「あー! 鬼だ!!」

「みつけたぞ!!」

「! 豆ギャング来た! 忍ーー!?」


どこ行った! と見回すと案外近くの店から出てきた。子どもたちはそれぞれの豆鉄砲(特大)を手に迫って来るが大人たちがそれを止めてくれた。


「なんだよー! 今日は節分だろー!?」

「豆まきするんだ! せっかくあんなに大きな鬼がいるのに!」


 豆まきって言うか、それ豆鉄砲な。痛いやつ。

 喧騒は収まりそうもないが、近づきたくないのでそこから眺めていると鬼たちが近づいていく。


 そして二人は大人たちのバリケードを隔て、優に頭二つ三つ抜ける高さからゆっくりとこどもたちに迫り……





「鬼はー外 福はー内!」

「鬼は内 福も内だよ」

「違うよ、鬼も内 福も内だよ!」


 こどもたちが小さな、遊具もない空地のような公園で鬼に向かって豆を撒いている。

 その手には、モデルガンなんて物騒な形をしたものはなかった。


 ぱらぱらと。


 落ちる豆をハトが狙って群れ始めている。


「私も豆買ってこようかな」

「お前はハトにエサやりたいだけだろ」


 オレと忍はきゃっきゃと歓声の上がる奥に深い公園の、入り口近くのベンチに腰を下ろしてそれを眺めていた。


「悪い子はいないかーーーー」

「きゃーー!!」

「オレも! オレもやって!」


 鬼と子どもたちは追いかけっこよろしく、今は陽だまりの公園でじゃれ合っていた。

 こどもの手から直接放たれる豆は、強くても鬼たちには何とも感じない。そこにはただ楽しさだけが込められていると知った鬼たちはきっと、豆を込めれた銃を向けられてももう痛いとは思わないだろう。


「豆まきの相手かぁ……確かにものすごいふれ合いだけどな」

「子どもって雑に扱われるの好きだよね。鬼争奪戦になっている」


 赤鬼がわーっと反撃に出ると、追いかけられた子も捕まった子も嬉しそうで。

 高くリフトされた子が羨ましいのか、子どもたちは我先にと逆に群がりだしている。


 本物の鬼との豆まきごっこ。そんなものに子どもたちがくいつかないわけはなく。


「来年から、都内の節分のキャッチフレーズ変わってそうだよな」

「共存社会だもん。いいんじゃない?」


 全くその通りだと思いつつ。



 鬼も内 福も内




 今日も日本は、神魔とのんびり共生している。




あとがき**


突如思いついて、20時くらいから書き始めました。

削られたエピソードですが、この鬼たちはせかぼく本編(EX)「ペーパードライバーの試練(3)」に出てきた鬼と同一です。

と読み直したら緑だったから、赤鬼が同一ということで。



ペーパードライバーの試練

https://kakuyomu.jp/works/1177354054919001024/episodes/16816452219479358422

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