バレンタイン&ホワイトデー(2周目)
1.忍と森のバレンタイン
ホワイトデー。
男が三倍返しを期待された時代もあったそうだが友チョコ自分チョコにシフトしだして幾星霜……
「司さん、何か悩んでませんか」
そこはかとなく沈黙の増えた司さんを前にオレは耐え切れずに声をかけた。
悩みなんて人前で触れ回る人じゃないからちょっと心配だ。
「わかるか」
「わかります」
理由も何となく。
オレもその日が近くなるほど悩むわけだが、どうも今年の司さんの様子は昨年のそれと違っている。だからこそ、聞いたわけで。
「ひょっとして、ホワイトデーのお返しのこととかですか」
「お返しというか、宿題が」
「宿題!?」
予想の斜め上をぶっとんできた。
もっともそれくらいでないと司さんは悩むようなそぶりは見せまい。
忍と司さんの妹、森さんからの友チョコ(?)バレンタイン。
去年はどうしようかと思ったが結局みんなでピクニックに行って楽しく過ごさせてもらった。
それくらいの機動力のある人だから、悩むなんてチョコがいつもと違っていたか程度に思ったのだが……
「宿題」
溜息。
それ以上は何も言う気はなさそうだったので聞くに聞けない。
オレは、それを渡したであろう忍に、次の合流日、話を聞いてみた。
1.忍と森のバレンタイン
忍はバレンタインは気持ちで渡したい人だ。
義理でないならせっかくだから楽しんで見て回りたい。
大体チョコを渡す先がかぶっている森と一緒に、見て回ることになったらしい。
「二人で出かけてくれたんか」
「いや? その日は普通に遊びにでかけて目についた所に寄ってみてね」
秋葉は回想を聞きながら納得する。
都 内はどこ行ってもブースがあるので買いに行かなくてもイベントブースにはほいほいされるものだ。
『森ちゃん。そろそろホワイトデーのも見ておく?』
『何か楽しそうなのがあるね。L〇FTってチョコも置いてたんだっけ?』
そんなわけで特設ブースがエスカレーターの正面だったので惹かれるままに移動を中断した二人。
『何これ! 薬!』
『これ公爵が大阪で買ってきてくれたヨクナオールとかスグナオールとかそういうレベル』
さっそく棚に並ぶ薬やビタミン剤を模したチョコたちを眺めて草が生えるような盛り上がりになる。
「バレンタイン! 司さんのチョコにビタミン材のパロとか要らないだろ!」
「よく聞いて秋葉。まだ話もブースも入口だ。国民的有名黄色い錠剤のパロとか、瓶だけじゃなくて箱形の薬パロもあって面白かったんだ!」
「わかったよ。二人の掴みはばっちりだったってことは」
エスカレーターから通路を挟んでではそんなラインナップとは思わなかった二人。
上の棚はお子様っぽくて趣味に合わなかったのでスルー(くすり系は理系分野である)。
その奥の棚でさらに見たことがないものを発見した。
『レトロ! レトロだ!』
『実物知らない人多いんじゃない? これカセットテープだよね』
『こっちはフロッピー? MD?』
「それオレにくれたやつ! そこで早くもゲットしてたんか!」
「レトロブームだし、まじめな会場では見られなかったからある意味レアだよ」
「まじめな会場って何。結局そこはネタの本拠地だったわけ?」
そうなのだ。
結局そこはネタだらけでこれ、というチョコが見当たらなかったのだ。
司に渡すには物足りなかった。
「オレに渡すには物足りたのが不具合」
「去年のチロルチョコよりいいでしょ。チョコ見ながらこれ秋葉くんにどうかなって話が出るのって幸せなことじゃない?」
「……そう言われるとまぁそうだけどな」
プライベートで話に出してくれると考えるとそれはそれで改めてちょっと嬉しいかもしれないと思う秋葉。ちなみにきちんとしたチョコもあとからもらったので例によってアフターフォローもばっちりだった。
『こっちはラッピングか。全然いいのがなかったね』
『ネタとしては面白いんだけどね』
ラッピングは普通におしゃれ系だった。
さきほどのレトロネタアイテムをこれに入れて渡せということなのだろうか。けっこう酷な売り場である。
「違うよ。普通に商品が並んでただけだよ」
「そこでもラッピング談議になってしまい」
『こっちの白系のラッピング、好きだな』
『配色バランスが絶妙だよねー バレンタインに消耗品として使うのもったいないデザイン』
「消耗品じゃないならラッピングって何なの!? 備品なの!?」
「プレゼントもらうとさ、中身よりラッピングのほうが嬉しかったとかそういうことない?」
「ないよ」
いちいちとっておいたら要らないものがたまっていくフラグだが、カラフルなのでコレクション性はあるのかもしれない。
まじめに語っている忍。哲学にすらなりそうな気配がする。
ちなみに二人が気に入ったラッピングは細いベージュ紙リボンでナチュラル系がヒットしたらしい。
『でも司くんならこっちの青系のほうがいいと思う』
『そうだね、ブラックブルーって落ち着いてていいよね』
『大人を強調しすぎず、こども過ぎない』
『じゃあこっちのめっちゃ大人強調してそうなハードな配色は公爵?』
秋葉はそこは何もつっこむ気になれず、完全に同意する。
どうせがちがちに黒系の見るからにブラックコーヒーしか飲みそうもない大人っぽいやつだろう。
どうでもいい。
「そんなこんなで私たちはとんでもないものを発見してしまい」
「え。ここでまさかの司さんへのバレンタインにつながるの? ネタばっかりだったんだろ?」
「ある意味、ネタだった」
そんな話をしていると、司さんが合流してきた。今日もこれから魔界の大使公館へ訪問予定だった。
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