節分、鬼払い!(2)
甘かった。
やっぱり甘かった。
その後、一緒に街に戻って、どうしてもという要望から恵方巻食べたさにとある商店街にやってきた鬼二人。移動の電車は大人だらけで問題なかったが、着くや否や、速攻その辺にいたお子様に指をさされ、豆をモデルガンで乱射された。
「鬼はどっちに!?」
「あっちに行ったよ。回り込め!」
「鬼狩りだー!!」
ナニソレ怖い。最近の小学生ってこんななの?
青鬼は路地の奥で膝を抱えてうっうっと嗚咽を漏らして泣いている。
その背中をなでる赤鬼。
オレごと有無を言わさず無差別に攻撃されたわけだが、善良な観光客である二人の精神的苦痛は計り知れない。
「すまんな、兄さん。兄さんまで巻き込んで」
「いえ。オレこそお力になれずに……」
「悪い鬼(こ)はいねがーーー!!」
ていうかこの路地から出たら狩られる……!
なまはげのくだりでマシンガン片手にのし歩いている子どもを路地の向こうに見ながらガクブルなオレ。
なまはげも鬼じゃないのか。
どうでもいい疑問が脳裏をよぎる。
「どうしよう……出られない。司さん……は、一緒に豆くらってどうしようもなさそうだから駄目だな」
今日は休日。レスキューしてくれそうな司さんは対神魔特化の特殊部隊であって、きっと対がきんちょは遠慮したいだろう。
あいつら遠慮はなさそうだ。
「あ、そうだ」
この商店街は、忍の家から遠くない。なんとか知恵を借りようと思いたったオレは連絡をしてみる。
『はい。……どうしたの?』
忍は電話が基本、好きではないのでそれを知っている知人からのコールは緊急と判断して逆に出てくれる。
「今、戸越銀座なんだけどさ。観光神魔の……鬼のヒトがあちこちで狙われててどうしようもないんだよ。なんとかならない?」
『なんで戸越銀座。なんで割とご近所。秋葉がこっち来るとか珍しくない?』
「ここ有名だろ。もはや観光地だろ。恵方巻食べたかったんだって」
鬼?という追加疑問と一緒に答えると、逆にその飾り気のない理由が忍の疑問をすべて解消したのか、すぐに通常テンションで言葉が返ってきた。
『恵方巻か~私、食べたことない』
「そうなんか。じゃあ一緒に食べる? 鬼のヒトと」
『そうだね。じゃ、行くから。着く前に連絡する』
忍は観光神魔に対して一切、恐怖心というものを抱かない。異形すぎるヒトたちにびっくりするオレと違ってむしろ概ね好意的だ。
そしてオレは、付き合いが長くなってきたので、少し誘い方がうまくなってきたように思う。
しかし。
「こどもがマシンガン持ってあちこち走り回っている。聞いていない」
路地に逃げ込んでいるオレたちの元にたどり着いた忍の表情は、決して楽しそうではない。
「うん、お前子ども相手とか言ったら絶対来てくれないだろ」
「来ないね。これは思ったより危機的状況だ」
その言葉に、青鬼はびくっとなってまた泣きそうになるが、忍は切り替えも早い。来たからにはしょうがないとばかりに路地から通りを肩越しに振り返った。
「恵方巻はなんとかなるとして……」
「なるの?」
「たぶん」
移動中に考えながら来てくれたらしい。子どもの悪意なき暴力(とても厄介)には別の対策を講じなければならないが、その辺は得意なので何とかしてくれると信じたい。
ちなみに鬼たちは恵方巻・なんとかなる、の発言だけでものすごく明るい顔になっている。
「ちょっと待っててくれる?」
そう言って忍は一人で出て行って、五分もしない内に戻って来た。
「お店はOKだよ。あとはちっさい悪魔か」
忍はうるさいのが苦手なので、たぶん本物の悪魔よりあの手合いは悪魔にみえるんだろう。悪気がないところはまぁ、間違ってはいない。
「そもそもあれ、この商店街の子たち?」
「遊びに来てるようには見えなかったな。店から出てきた子もいたし」
この辺りは子ども多く、子どもだけのコミュニティが出来ているようなので自転車移動の子はたぶん、少し遠めの家の子だと忍はいう。何その洞察力、半端ない。
「ちょっと待ってて」
忍は再び出て行った。すぐ帰って来る。
「何人かの家族と話が出来た。恵方巻のお店と近いから、ストッパーになってくれる」
「忍……! お前、何の仕事してる人なの?」
「帰るけど、いいかな」
「ダメ! 最後まで面倒見て! オレともども!」
手際が良すぎて謎になる適性。ちなみに忍はオレと同じ神魔対応「護所局」の情報部に所属している。
「ところで鬼さんたちは、街に来るのは初めてですか?」
「いや? 前にも来たことあるけど」
「……」
ふたりをじっと見てから忍はオレの方を見て、また二人に視線を戻した。
「ひとつ提案なんですが、地元民とふれあいしてみる気はないですか?」
「地元民とふれあい?」
「忍、お前まさか……」
忍はおもいっきり共生型だ。随分前も神魔に不慣れなご近所さんと、なかなか日本に溶け込めない女神さまを繋いだことがある。
ただ恵方巻食べさせて終わり、にはならない何かが待ち受けているのだろうということだけは、理解できた。が。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます