いつからか忘れた想い出の音

闇野ゆかい

第1話プロローグ

展望台の海を見渡せる白を基調としたガゼボにぽつんと置かれた真っ白なピアノを幼い少女が弾いていた。

少女は楽しそうにゆらゆらと左右に身体を揺らしながら、思いのままに鍵盤の上で指先が

躍るかのような弾き方をしていた。


いつ見ても楽しそうだ、ピアノを弾く彼女──笹宮美郷は。


楽譜通りに弾いていないのは僕にもわかる。ピアノを弾かない僕でも──だ。

デタラメだけど、綺麗な音色とは言えないけれど──何故だか、彼女が弾く一曲一曲には形容出来ない魅力を感じ、聴き入ってしまう。


滅入った精神に陽だまりのような温かさを感じさせる──のように干渉してくる音色に聴こえるのだ。


彼女が弾くピアノの音色は。


いつまででも聴いていたい......けれど、


そのことを彼女に告げる決心が未だに整わず、彼女のピアノの音色を隣で聴くだけだ。


彼女を遺して、さきに逝く僕のことを許してくれるかな......許してくれることを祈りたいが、みっちゃんなら──。


彼女に近付いた僕に気付いて、浮かべた笑顔をこちらに向けるみっちゃん。


彼女がピアノで弾く一曲を思いのまま、歌い出した僕──嘉条灯哉かじょうとうや





※※※※


年月が経ち、高校生になった私──笹宮美郷は、クラスメイトと馴染めず独りで高校生活を送っていた。


なんで......なんで、私をおいて──。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いつからか忘れた想い出の音 闇野ゆかい @kouyann

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ