一夜明けて
十二月二十五日土曜日、クリスマス。
昨夜の雪は積もらず、前日とはがらりと変わって気持ちよく晴れた午前。
再び現れた猫怪獣が、暴れることも無く飛んでいき、自衛軍と戦っている最中に消えてしまったと、前回とはまた違った方向性で話題になっていた。
あの後ヒロは行きと同じように自転車、残る三人はなんとか駅まで歩き、電車に乗って帰った。
その道中もアラトは、泥だらけの上着の中にミーを隠しながら、あれだけ騒ぎになってはいよいよまずいと心配していた。
しかし今朝見たところ、自衛軍の新兵器・エコアースがさらに話題になったため、少しは安心できそうである。
世間は消えてしまった怪獣などに興味は無いのだろう。
午前十一時。
煙野家のリビングでは、アラトとジュンキがソファに並んで座っていた。
さっきから何をするでもなくただ黙って座り続けている二人の膝の上を、ミーがチョロチョロと動き回っている。
土日など学校の無い日にジュンキがアラトの家に来ることはあまりなかったのだが、今日は少し事情が違った。
二人は今日、煙野家で飼っている仔猫怪獣・ミーについて事情を話し、改めて飼育の許可を取るためにアラトの両親の帰りを待っていた。
アラトの両親が昼間家に帰って来ることはあまり無いが、今回は長めの出張からの帰りなのと、先日の怪獣災害でのアラトの無事の確認、そして家族でのクリスマスパーティーのために、約二ヵ月ぶりに、日が出ている時間帯に家に帰って来ることになっていた。
今までは両親が帰って来るのはアラトが寝た後だったため、寝る時にミーを部屋に閉じ込めておけば良かった。
しかし、休日に家族全員がそろうような場面では、家族から完全に切り離して部屋に隠しておくことはできない。
いずれそうなったタイミングで、両親にミーを紹介しようと思っていたのだが、両親の仕事の都合などが重なり、ミーを見せないままここまでズルズルと来てしまった。
猫を飼うとは言ってあるものの、その猫が怪獣だということを打ち明けるのは初めてだ。
両親に事情を説明して説得するため、ミーを拾ってきた本人であるジュンキにも来てもらっている。
両親の帰りを待って緊張していたアラトは、突如部屋中に響いた通知音に驚き、慌てて携帯電話を取り出した。
「あと十分で着くってさ。……あー、ダメだ胃が痛い……もう俺は死ぬ」
「大丈夫だって! ほら、昔会ったきりだけど、二人ともすごい優しい人だったじゃん! 今回も大丈夫!!」
「でもさすがに怪獣はなぁ……一応犯罪だからなぁ……」
たとえ小さかろうが力が弱かろうが、怪獣を飼育・保護するのは犯罪である。
ただ、アラトの両親はそれを理由に反対する人たちではない。
それはアラトも分かっているが、ネックとなっているのはそこではない。
「一回巨大化してるし……災害起こした怪獣の子供なんだよな……」
そんな危険な生物を我が子が飼いたがったとして、良い顔をする親はいないだろう。
両親はあまり常識にとらわれるタイプではないが、人並みの心配くらいはするだろうと思う。
ちなみに、アラトが抱えるもう一つの事情については、ジュンキやヒロにも話していないし、両親にも打ち明けるつもりは無い。
ミーが元の大きさに戻ったあの後、アラトとうるちは、お互いの秘密について誰にも話さないことに決めていた。
その方がお互いのためになるだろうという判断である。
変身出来なくなったヒーローと体が丈夫なだけの怪獣では、なるほど確かに正体が知られれば面倒だろうと思う。いや、あれは変身ではなく装着だと言っていたっけ。
腹を抱えて丸まっているアラトの耳に、いつも通り明るくて、やかましいジュンキの声が響く。
「どーにかなるよっ! ……一緒に、お願いしよう?」
「うん……」
ジュンキの根拠の無い前向きさも、今だけは救いになる。
真っ直ぐに向けられる見慣れた笑顔に、アラトは腹痛が少し和らいだ気がした。
思えばアラトの日常は大きく普通から外れてしまった。
怪獣を飼い、宇宙人と知り合い、正体を隠す。
小さなズレなど、今更気にしていられる余裕は無い。
先行きは不透明だが、緊張しながらも隣で笑う彼女となら、本当になんとかなる気がしてくる。根拠も何も無いけれど。
まあここまで来たら痛い腹を括るしかないだろう。
両親はあとどれくらいで帰って来るだろうか。
この長く短い一分一秒が、速く終わってほしいようなまだ終わってほしくないような。
いつもなら少しでも時間があれば本を読みだしているのに、今日ばかりはとても手につかない。
アラトが小さな怪獣を胸に抱いて両親を出迎える準備をしたその時、玄関の扉が開く音が聞こえてきた。
終
怪獣都市 甘木 銭 @chicken_rabbit
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