エコアース(地獄の始まり編)

「いやー、昨日は大変だったねえ。お疲れ様~」

「なんだかご機嫌ですね……」


 対怪獣自衛軍赤糸支部の会議室で、コアスは目の前に座っている太良島を見下ろしながら、怒る元気も無いとばかりに呟いた。

 本来は三十人ほどが入れる会議室だが、今この場にいるのはコアスと太良島だけで、一番奥に設置されたホワイトボードの前に太良島が座り、長机を挟んで正面に、右目をつぶりそうなほど細めて顔を歪めるコアスが、腕を組んで立っていた。


「そりゃあだって、こんな美人とクリスマスの一夜を過ごせたんだからね?」

「セクハラするなら相手を選んでください。それにそんな美人にメカスーツを着せてぶっ倒れさせたのは太良島さんですから」

「自分で美人言っちゃうのか~。だから体がしんどいなら座りなよってさっきから……」

「いえ、こうしていた方が効果的なので」

「え~?何がぁ~?」


 素っ頓狂な声を上げる太良島に、コアスは右目を細めながら淡々と続ける。


「こういうときは大抵面倒なことをやらされますから。今回ばかりは断らせてもらいます」

 基本的に人間嫌いなコアスはクリスマスを誰かと一緒に過ごす予定があった訳では無いが、それでも毎年少し良いケーキを買って自分を一年分労うくらいのことはするのだ。


 魂の浄化作業を邪魔された恨みは深い。単純にいい加減この上司に好き勝手されるのは我慢の限界というのもある。


「さすが~、えぐっちゃんは優秀だもんね、察しがいいなぁ」

 ぺろんと舌を出し、前歯で軽く噛むようにしながらニヤニヤとする太良島。

 彼がこんな態度を取るときには、大抵良いことが無かった。


「という訳で、失礼します」

「でも残念、今回は断れません。本部でも決まってしまったことだからね、僕の権限では動かせないよ」

「は?」


 太良島に背を向けて部屋を出かけたコアスは、その言葉に足を止め、もう一度振り向く。

 さっきよりも右目が細められ、太良島を睨みつけるようなその顔には、明らかな不快の色が浮かんでいた。


「年末年始も返上で特訓ですって。よかったねェ、結構な額の特別手当が出るよ」

「特訓……? まさか……」

「おめでとう、エコアースのパイロットとして正式に採用が決まりました!これから頑張ってね、赤糸市のニューヒーローだよ!」


 その言葉を聞き終えた途端、顔面蒼白になったコアスは思わず叫び出していた。


「い、いやあああぁぁぁぁぁ――――――――!!!」

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