帰ってきた……
「あなたはもう少し笑った方がいい」
「それはお互いだと思うんだけど」
「それから好意もきちんと伝えた方がいい。スミキが可愛そう」
「……そのうちな」
地上は夜の闇と木々に囲まれて暗く、体の芯から冷えるほどに寒かった。
アストラマンの中だという光の中の空間にいたせいで時間の感覚がフワフワとしていたが、戻って来てみると十分程度しかたっていないようだった。
眠っているジュンキを背負い、うるちの隣に立つアラトは、闇に眼を鳴らしながら状況を確認した。
さっきまでいた地点とはかなり離れたところに降りてきたのだろう。
見上げると、かなり遠い所でエコアースが周囲をきょろきょろと見回しているのが見えた。
瞬時に目の前から消えたアストラマンと怪獣を探している最中だったが、その瞬間を見ていないアラトには何をしているのか分からなかった。
「おー、ここにいたのか!」
「あれ、ヒロ!」
アラトが地上の重力を感じながら、うるちと並んだまましばらくジッとしていると、茂みの向こうからヒロが出てきた。
駆け寄ってきた親友に、さてどこから説明したものかと頭を抱え、アラトの胃がキュッとしめられる。
「なんか戦闘機が飛んでったと思ったらロボットが復活して……ん?」
ヒロは、うるちが腕の中に抱いている体毛の無い猫を見つけ、怪訝そうな顔をした。
「小さくなったのか?」
「というか元に戻っただけだけど……」
細い腕の中で眠っている仔猫は、まぎれもなくミーだった。
「ミーは……多分母親も。自分自身をコアとして、周囲に大怪獣の姿を作り出して操っていた。だから、光に包まれた時に周囲を覆っていた体が崩壊して、本体が出てきたの」
「つまり、あのでっかくなったミーはハリボテだったのか?」
アラトが三度ほど聞いてようやく理解した説明を、ヒロは一言でまとめてしまった。こういう時には頭の回転が速いので助かる。
「まあ、とりあえず一件落着だと思う」
「ええ、よかった」
その瞬間、ジュンキがもぞもぞと動き出した。どうやら目が覚めたらしい。
「あれ……? んー?」
何やら唸りながら、周囲をきょろきょろと見回している。
どうやら状況が分からないらしい。
「目が覚めた? 良かった」
しばらくぼーっとしていたジュンキに顔を寄せ、うるちが静かに微笑んだ。
同時に、ジュンキの小さな体がアラトの背中で暴れ出す。
「どうしたの?」
「キタちゃんが、笑った!! って、あれ!? なんで私背負われてるの!?」
屋や混乱した様子で、ジュンキが一人で喚き出した。
アラトとヒロも、無言で口をパクパクとさせてしまう。
うるちの腕に抱きかかえられていたミーは、それまで疲れたようにぐったりと眠っていたが、すぐそばで大騒ぎが始まったので、逃げるように腕から飛び出すと、ヒロの足元に隠れた。
「お?今まで逃げてたのに、珍しいな」
「笑うのが、そんなに意外?」
目を伏せて戸惑うような表情をするうるちに、また一同は驚き、しばらく空気が固まっていた。
『地球人と接するときは、出来るだけ感情を殺すようにしていた。秘密にしなければならないことも多いから……』
アラトは、地上に戻る直前にうるちが言っていたことを思い出す。
つまり、いつもの無口無表情は素ではなかったということだろう。
しかしまさか、ここまで劇的に変わるとは。
やっぱり宇宙人のことはまだ分からんと思いながら、とりあえず事態が丸く収まったことに安堵した。
その途端、何か冷たいものが鼻をかすめる。
暗くてよくは見えなかったが、何か小さなものが体の周りをフワフワと舞う。
雪だった。
空を見上げると、雲の隙間からぼんやりとした月明かりが漏れ、深々と降りだした冷気の粒をうっすらと照らした。
森の向こうでは、寒さと疲労に耐えかねたスーパーロボットが無念そうに木々の上に倒れこんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます