HIROSIMA~後編~
あれから俺達は放心状態でご飯を待っていた
「それじゃぁ、頂こうか」
俺達はボーッとしたまま手を合わせる
「「「「「「いただきます」」」」」」
全員が一斉にいただきますというと晩ご飯が始まった
「そいえば、あなたにお客さんが来てたようだけど何の用だったの?」
そう聞くのはキヌちゃんのお母さんだ
キヌちゃんのお母さんはいろんな人の畑の手伝いをよくしているらしい
「あぁ、凶作でそこまでのお金が無いからお金貸してほしいらしい・・・」
「そう・・・どこも徴兵の影響で人手が足りなくてそこまで育てられないらしいわ・・・・」
「そうか・・・」
キヌちゃんのお父さんが渋い顔をする
「明後日、市内にいる知り合いに会うからその時にでも話してみる・・・あいつはいろんな所に顔が利くからな・・・」
「えぇ・・・私からもお願い・・・・・」
「そういえば、長島君と大吹君だったかしら?」
「「はい」」
俺達は自分の名前を呼ばれて答える
「あなた達の話は大体聞いたわ、良ければ今日は泊まっていって」
「「ありがとうございます!!」」
「そうなればご両親に連絡しなければいけないわね」
そう言ってキヌちゃんのお母さんが席を立つ
「俺達の両親は(この時代に)いません」
「えっ・・・」
俺がそう言った瞬間、場の空気が凍り付く―――――――俺何か言ったか?
「そう・・・悪い事聞いたわね・・・良ければこれからずっと家にいてくれて良いわ」
「本当ですか!?」
「えぇ・・・何だったら私の事をお母さんだと思ってくれていいからね・・・」
「僕の事はお父さんと思ってくれていいからな・・・!」
「「ありがとうございます」」
俺達は2人にお礼を言って晩御飯を平らげた
それから俺達はお風呂に入らせてもらった上に自分達の部屋まで用意してもらった
「なぁ、かっずー」
「ん?」
来客用の布団を貰って眠りに着こうとした時、大ちゃんが俺に話しかけてくる
「俺達これからどうする?」
「どうするって・・・・」
これから俺達はこの家で住む事になる
お父さんの計らいで1週間後にキヌちゃんと同じ学校に通わせくれるようにはなったけどそれ以外にはこれといった進展はない
「とりあえず、学校に行けるようになるまでは近所の人の農作業を手伝うしかないだろ・・・・」
「でも、2日後に広島は――――」
「大ちゃん・・・・」
俺は大ちゃんのいう事を遮る
「もう、寝よう・・・」
「・・・・・・・おやすみ」
「おやすみ」
大ちゃんはまだ何か言いたそうだったが俺は気にせず眠りについた
翌朝
俺達は部屋を出て居間で朝食を済ませると外に出る
「お母さんから聞いたけど――――2人共、今日から私と同じところで畑の手伝いをするんだってね」
「うん」
そう俺が答えると
「じゃぁ、案内するから私についてきて!」
そう言われてキヌちゃんに連れてかれたのは年を取ったおじいさんとおばさんがやっている小さな畑だった
「いつもありがとうねぇ」
「ほんと、坂田さんは良い娘さんを持ったなぁー」
「そんな事無いよー」
キヌちゃんはおじいさん達と楽しそうに話している
「2人も今日からよろしくねぇ」
「「よろしくお願いします!!」」
俺達は元気良くおばさんに答える
「ふぉ・・・ふぉ・・・元気でよろしい」
おじいさんが歯の無い口で笑う
「それで、今日は何を手伝えばいいの?」
キヌちゃんがそう聞くと
「キヌちゃんは私と一緒に収穫の手伝いをしてくれないかい?」
「うん分かった!」
そう答えるとキヌちゃんはおばあちゃんと一緒に向こうの畑に歩いて行った
俺達は向こうの畑に行くキヌちゃんを見送ると
「俺達は何を・・・・?」
俺がそう聞くと
「長島君達はわしと一緒にこの畑を耕してくれないかい?」
「「分かりました!」」
そして俺達はおじいさんと一緒に畑を耕すことになった
最初はおじいさんが耕すのを間近で見てから次におじいさんに手取り足取り教えてもらった
何度か失敗しながらもなんとか2人でおじいさんに頼まれた分の範囲を耕し終わった
「ふぅー、おわったー」
「やったな!!」
「あぁ・・・」
「2人共お疲れ様・・・水でも飲みなさい」
「「ありがとうございます!!」」
俺達はありがたくおじいさんに差し出された水を飲む
「今日の分の作業はこれで終わりだから――――2人共、ゆっくりしていいよ」
「「はい!!!」」
おじいさんの言葉に甘え俺達がしばらくゆっくりしていると
「あれ2人共もう作業終わってたの?」
向こうで作業していたキヌちゃんが戻ってきた
「あぁ、ちょっと前にね」
キヌちゃんが戻ってからしばらく俺達はおじいさん達と世間話をしてから帰ることになった
「3人共、今日はありがとうねぇ」
「また、頼むよ」
「「「はい!!」」」
俺達は元気に答えるとおじいさん達に別れを告げ家路につく
「2人のおかげで今日はかなり早く終わっちゃた!!」
「いつもはそんなに時間かかるの?」
大ちゃんが質問すると
「うん、いつもはおばあさんの手伝いが終ってからおじいさんを手伝ってたから」
「へぇ、そうなんだ」
「ねぇ、結構時間あるし―――――いいとこ行かない?」
「「いいとこ?」」
「うん!!」
キヌちゃんに手を引かれ連れてかれたのは1つの川だった
「いいとこって、この川・・・?」
「そう!」
「この川のどこが―――――」
そう言いかけた俺はキヌちゃんに手を引かれ大ちゃんと一緒に川に入る
「キヌちゃん!?」
「何をす―――うわっ!!」
キヌちゃんが戸惑う俺達にバシャバシャと水をかける
「ハハハッ、そーれ!」
キヌちゃんはビショビショの俺達を見て笑いながらさらに水をかける
「やったなーそれ!」
「うぉりゃ!!」
俺達は仕返しにキヌちゃんに水をかける
「キャッキャッ」
キヌちゃんはびしょびょになりながらはしゃぐ
それから俺達は日が暮れるギリギリまで水をかけ合い家に帰った
「まぁ!皆さんどうしたんですか!?ビショビショじゃないですか!!風邪をひいたらどうするんです!!」
家に帰った俺達はたえさんにこっぴどく叱られた後、お風呂に入り晩御飯を食べ眠りについた
(ウォォォォォォォォ・・・・・!!!!)
「なんだ!なんだ!」
俺達は大きなサイレンの音にたたき起こされる――――――時刻を見ると午前0時25分
俺達が部屋を出ると
「お2人共、何を突っ立てるんですか!?早く防空壕へ!!」
たえさんにそう言われ俺達は防空壕に押し込められる
暑くて狭い防空壕の中で6人が寿司詰めにされる事2時間近く・・・やっとサイレンの音が鳴りやみ俺達は外に出た
「はぁ、やっと解放された・・・」
俺がそう呟いていると
「旦那様!!お嬢様が・・・!!」
防空壕から出た後、キヌちゃんが高熱を出して倒れ近所のお医者さんを呼んで見てもらう事になった
「ただの風邪ですね・・・2~3日寝てれば直るでしょう」
「ありがとうございます」
「お薬出しておきますので、飲ましてあげて下さいね」
「はい」
「それでは私はこれで・・・」
「本当に今日はありがとうございました」
お医者さんはお父さん達に見送られながら帰っていった
お医者さんが帰る頃には夜が明け、外が明るくなっていた
「そろそろ、僕は市内に行かなければいけない・・・母さんにたえさん――それと、長島君達もキヌヱの事・・・頼んだよ」
「「「はい」」」
お父さんを見送った後、俺達は交代でキヌちゃんの看病をした
お父さんが行ってしばらくして薬が効いたのかキヌちゃんの様子はだいぶ落ち着いていた
(すぅーすぅー・・・)
「よかった・・・・」
気持ちよさそうに寝るキヌちゃんを見て気が抜けた俺は思わずうとうと
していると
(ウォォォォォォ・・・・!!!!)
本日2回目の空襲警報にたたき起こされる
「かっずー!!」
大ちゃんが部屋の障子を開けて飛び込んでくる
「あぁ、分かってる」
俺は火事場の馬鹿力でキヌちゃんをおぶり防空壕に駆け込む
少しすると警報が鳴り止み俺達は外へ出る
「今回は短かったわね」
「はい」
俺はそう答えるとキヌちゃんをおぶり部屋に向かう
大ちゃんとたえさんと一緒にキヌちゃんを布団に寝かせ俺は一息つく
「私はキヌヱにおかゆを作ってくるから—――――キヌヱの事お願いね」
「はい」
「奥様、私も手伝います」
そう言ってたえさんとお母さんは部屋を後にし――――部屋には俺と大ちゃんそしてキヌちゃんが残された
「なぁ・・・かっずー・・・・」
「わかってる・・・・」
今日は8月6日もうすぐ広島に原爆が落とされる
「俺達、死ぬのかな・・・・」
「さぁな・・・」
「怖くないのか」
「そりゃぁ怖いよ・・・」
「じゃぁ何でそんなに落ち着いてるんだ?」
「さぁな・・・・でも今は自分が死ぬより好きな子が死ぬ事の方が怖いよ」
「そうか・・・・・・」
そんな事を話しながら俺達は運命の時を待つ
昭和20年8月6日月曜日、午前8時15分47秒――――――米軍の戦闘機によって原子爆弾『リトルボーイ』投下
再び強い光が俺達を包み込んだ
目を開けると俺達は白い空間に立っていた
「かっずー・・・」
「あぁ・・・・」
白い空間には一つの映写機とスクリーンがありそこには原爆が落とされた後の事が映し出されていた
皮膚が溶けて性別すら分からない人、熱いと叫びながら川に飛び込み亡くなる人、家を失い行く当てなくさまよう子供、がりがりにやせ細りながら死んでいく子供―――――――俺達はあまりの酷さに言葉を失う
「なぁ、これって人がやった事なのか・・・・・・?」
「あぁ、紛れもなく人がやった事だ・・・・・・」
最後に1人の子供が映し出され俺達をまっすぐ見ながら口を開く
「君達からしたら戦争の事は昔の事過ぎてよく分からないし、興味が無いかも知れない・・・・でも、これは紛れもない僕たち人間がやったことなんだ人間が引き起こして、人間が人間を殺して、人間が終わらせた戦争だ・・・・君達には同じ人間としてこんな悲劇を繰り返して欲しく無い・・・・だから知って欲しいこの人類が引き起こした史上最悪の悲劇を・・・・・・最後に僕から1つだけ叶う事の無い願いを―――――――」
そう言うと映像の男の子は涙を流し笑いながら
「もう少し、生きたかった」
そこで映写機は止まって映像が終わり俺達の意識が途切れる
目を開けると目の前には原爆ドームがあった
「戻ってこれたのか?俺達・・・現代に・・・」
「あぁ・・・どうやら・・・・・」
俺達は放心状態のまま立ち続ける
「たえさん・・・・今年もこの日が来ましたね・・・・」
「そうですね・・・・お嬢様・・・・」
俺は聞き覚えのある名前がした方向に首を向ける―――――――そこには車椅子に乗ったおばあさんとそれを押す女の人が立っていた
「キヌちゃん・・・?」
「へ・・・?」
俺は思わずその人達に声を掛ける
「もしかして・・・・長島君?それに矢吹君も・・・・どうしてこの時代に・・・」
「お2人はあの時、行方不明になられたはずでは・・・・?」
「あの――――」
俺達は今まで起きたことををありのまま話す
「なるほど・・・・不思議な事もあるものですね・・・」
「えぇ・・・」
「あれからキヌちゃん――――キヌヱさん達はどうなったんですか?」
「ふふっ、キヌちゃんでいいですよ」
キヌちゃんはあの頃と変わらないヒマワリのような笑顔で答える
「あれから・・・・私達は父を失い、GHQの政策によって収入源も失いました・・・・・」
キヌちゃんは遠い目をして語る
「それでも周りの方も支えもあり―――――――何とか、ここまで生きて来れました・・・・それに孫やひ孫達に囲まれ今はとっても幸せです」
「良かった・・・・」
本当に良かった・・・・
「あっ!!」
俺達が話していると遠くから先生が俺達を見つけ走ってくる
「2人共どこ行ってたの!」
「この子達の先生ですか?」
「はい、うちの生徒がご迷惑をおかけしたようですみません・・・」
「いえいえ、話しを聞いてもらって楽しかったです―――――あまりこの子達を怒らないであげてくださいね」
「はい、分かりました・・・・それでは私達は失礼します」
そう言うと先生は俺達を連れて歩き出す
「またね!!2人共!!」
キヌちゃんが車椅子から立ち上がり大きな声で叫ぶ
「「またね!!!!キヌちゃん!!!!!!!」」
俺達は大きな声で答える
夏のくそ暑い日俺は不思議な体験をした
それはとても楽しく
でも凄惨な体験だった
~終わり~
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