第94錠 黒と色彩のアーティスト⑮ ~集合~
「おーい、みんな集まってるかー!」
夏休み、一日目。俺たちは、公園に集まって、例のお化け屋敷まで行くことになった。
最後にやってきた樋口は、ぶんぶんと手を振りながらやってきて、俺たちは、各々、持ってきたものを報告しあう。
「黒崎は、何持ってきた?」
「何って、何か必要だった?」
「必要だろ! お化け屋敷に行くんだぞ!」
「私は、お菓子持ってきたよー!」
「いや、お菓子いらねーだろ!? お化け屋敷に行くって言ってんじゃん!」
「えー、でも、どっかにでかけるなら、お菓子はいるじゃん!」
集まったのは、六人。
同じ学年の男子が三人と、女子が二人。
そして、その中の誰かの妹なのか、三年生の女子が一人。
樋口は、肝試し感覚だったけど、他のメンバーは、ピクニックにでも行くかのような軽さだった。
「全く、危機感ねーな。これから、四丁目の屋敷に忍び込むってのに!」
「そういう樋口は、何を持ってきたの?」
そして、樋口は、情けないとばかりに溜息をつき、さぞかし、しっかりとした準備としてきたのだろうと、俺は問いかけた。すると樋口は
「俺は、懐中電灯を持ってきた!」
「え……いる? 懐中電灯?」
今の時刻は、午後二時。
太陽は燦々と降り注いでいて、眩しいくらいだった。
「今、昼間だし。多分、屋敷の中も明るい」
「いやいや、いるだろ! あんなに広い屋敷なんだぞ! 絶対、秘密の地下室とかあるって! そして、真っ暗な階段を進んだ先には、あるんだよ! 殺されたお嬢様の死体が!!」
「お嬢様、神隠しにあったんじゃなかった?」
いわくつきの屋敷には、様々な噂が飛び交っていた。
神隠しにあったとか、駆け落ちしたとか、殺されたとか?
もちろん、それが本当かはわからないし、真実は闇の中。
でも、闇の中にあるからこそ、子供の好奇心をくすぐる。
だけど、俺の好奇心は、屋敷の真実ではなく──
「黒崎君のいってた絵って、まだあるのかな?」
すると、隣にいた女子が話しかけてきた。
俺が知っている屋敷の話は、母が言っていた昔話だ。
あの屋敷の中には、それはそれは、美しい絵が飾ってあるらしい。
だけど、それが、今もあるかはわからない。
「どうだろう? 俺の母さんが見たものも、20年くらい昔の話らしいし」
「でも、あるなら見てみたいよね~」
「おいおい、絵よりもお化けだろ、見たいのは!」
「えー。見たくないよ、お化けなんて!」
一言にお化け屋敷に行くと言っても、興味を抱くものは、ひとそれぞれ。
ノリノリで死体を探しに行くやつもいれば、みんなが行くから、ついていくというやつもいる。
そして、俺だって屋敷の秘密には興味がなく、母が言っていた絵を見たいがために、今日の、この集まりに参加した。
「よーし! とにかく行くぞー!」
すると、リーダーの樋口が先導を切って、公園から駆け出した。
目指すは、四丁目。
誰も住んではいない、広大なお屋敷の中――
*
*
*
「うわー、高いねー」
その後、四丁目の辺りにつくと、青い屋根の広大なお屋敷が見えてきた。
そして、その屋敷は、高い塀に頑丈に取り囲まれていた。
「どうやって入るの?」
「入口、封鎖されてるよ?」
その屋敷は、正門も裏口も、しっかり施錠されていた。
まるで、入るなとでも言われてるみたいに。
でも、前に樋口は言っていた。
秘密の入り口を見つけたと。
「みんな、こっちに来い! 入れる場所、見つけといたんだ!」
樋口が自慢げにそう言って、言われるままついていくと、頑丈な塀の一部が、劣化により崩れているところがあった。
壁に空いた穴の大きさは、子供が通れるくらいの小さなもの。きっと、小学生でもギリギリだ。
(お母さんも、この穴を通って中に入ったのかな?)
母も、子供の頃に、この屋敷の中に入ったことがるらしい。
そして、この屋敷で絵を見たのをきっかけに、母は絵を描くようになった。
「よし、入るぞ!」
樋口の言葉を合図に、俺たちは、屋敷の中に忍び込んだ。
子供が6人。順番に中に入る。そして、不思議なことに、入った瞬間、心なしが温度が下がった気がした。
真夏の高い時間帯。体感的に二度くらい下がって、涼しさを感じるくらいだった。
「ねぇ、あれ何かな?」
すると、傍にいた女子が、カラス張りの建物を指さした。
「なんだろう? 温室かな、多分?」
「あっちには、噴水もあるよ!」
「スゲー、なんか外国に来たみたい!」
レンガでできた高い塀に、ロココ調の噴水。
そして、ドーム型の温室に、西洋の立派な建物。
屋敷の中は、あまりお目にかかれないものばかりで、お化け屋敷というよりは、テーマパークに来たみたいだった。
でも、長年手入れをされたいないからか、屋敷には、草木が生い茂っていた。
噴水に水は張ってないし、屋敷には蔦が絡んでる。
だけど、人が住んでいたころは、きっと素敵なお庭だったんだなってことは、見ただけで分かった。
「やっぱり、金持ちの家って感じだなー?」
「外で、こんなに凄いなら、中はもっと凄いかもね!」
屋敷に庭を見て、期待値がどんどん上がっていく。
胸躍るような、わくわくとした感情が、子供たちの中に湧き起こる。
そして、俺たちは、ついに屋敷の玄関までやってきた。
重厚な両開きの扉。もしかしたら、ここにも鍵がかかっているかもしれない。
そう思いつつも、俺たちはドアノブに手をかけた。
――ガチャ
「ぁ……開いてる」
そこには鍵がかかっていなかった。
そして、樋口が、零すようにそう言うと、まるで招かれるように、俺たちは、お化け屋敷の中へと入っていった。
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