第69錠 幼馴染


「あれ? もしかして、宗太?」


 うつらうつら、昔の夢を見る。

 それは、酷く懐かしい記憶だった。

 

 今から12年前。


 当時、20歳だった俺──山根 宗太は、星ケ峯という小さな町外れで、幼馴染の女と、たまたまでくわした。

 

 秋の風が吹く、穏やかな昼下がり。


 すれ違いざまに声をかけてきたのは、子供の頃、よく一緒に遊んでいた女で、俺の初恋の人でもあった。


「あー、やっぱり、宗太だー。久しぶり。元気だった?」

 

 茶色がかった黒髪と、明るくて優しい笑顔。

 

 おっとりとしつつも、どこが芯のある瞳は、幼い頃から変わってなくて、一目で『五十嵐いがらし ゆり』だと分かった。


 だけど、お互い20歳になり、久しぶりに再会しその初恋の人は、左手の薬指に指輪をし、双子の赤ちゃんを連れていた。


「宗太、私ね。──昨年、結婚したんだ」


 再会と同時に告げられた、結婚報告。


 それに、どれほど度肝を抜かされたかは、言うまでもなかった。








         第69錠『幼馴染』








 ◇◇◇

 

 その後、俺たちは、近くにあった公園のベンチに座った。


 お互いに時間があるということで、少し話をしようと言うことになったから。


「うちの子たち、可愛いでしょ~」

 

 ゆりは、双子用のベビーカーをベンチの前に置いて、中にいる子供たちをあやしなら、俺に話しかけてきた。


 ベビーカーの中には、生後半年くらいの女の子と男の子。


 そして、赤ちゃんをあやすその姿は、若いながらにも、しっかり母親で、目の前にいるのは間違いなく幼馴染なのに、まるで別人のようにもみえた。


「女の子の方がはなで、男の子の方がれん。私が名付けたんだー」


「へー……つーか、19で結婚って、早過ぎねぇ?」


「そう? 別に、いいじゃん。好きな人と一緒になるのに、早いとか遅いとか関係ないし」


「まぁ、そうだけど。つーか、相手の男、どんなやつ?」


「あれー、気になる?」


 にこやかに笑うゆりは、冗談っぽい声をあげながらも、少し恥ずかしそうにしていた。


 でも、ガキの頃、好きだった幼馴染が、どんな男と結婚したのか、気にならないと言えば嘘になる。


「まさか、変な男じゃねーだろうな?」


「変な男って、どんなよ?」


「どんなって……チャラそうだったり、アホそうだったり。ていうか、年は? 同い年?」


「うんん。12歳年上」


「12歳!?」


 それには、ひどく驚いた。


 大体、なんで、こんなに若くて綺麗なゆりが、12歳も年上のオッサンと付き合い、結婚することになったのか!?

 

「お前、それ、ロリコンに騙されてんじゃね!?」


「騙されてないよー。攻めたの、私の方からだもん!」


「お前からかよ!?」


 おちゃめに笑うゆりは、あの頃と変わらなかった。


「でも、なんでまた、そんなオッサンと! あれか? イケメンなのか!?」


「あー、確かにイケメンだなぁ」


「あー、そうですか? いいよなー、イケメンは年を取ってても、こんなに若い女の子と結婚できるんだから!」


「こらこら、僻まないの! まぁ、私も、12歳も年上の人を、好きになるとは思ってなかったけどね」


「つーか、決めては?」


「うーん、そうだなぁ」


 赤ちゃんをあやしていた手を止まると、ゆりは、ほんのり頬を染めながら


「頭を撫でてくれた時に、ふと、お父さんのことを思い出したんだ」


「……お父さん?」


「うん。どことなく、まとってる雰囲気がにてるの、私のお父さんに……だから、侑斗ゆうとさんのそばに居ると、すごく安心する」


 ユウトとは、夫の名前なのか?

 

 そして、お父さん──その言葉をいわれたら、もう何も言えなくなった。


 ゆりは、お父さんのことが大好きだった。

 

 でも、そのお父さんが、亡くなる原因をつくってしまったのは、だったから……


「そ、そうか……ゆりのお父さん、イケメンだったもんな」


「ちょっと、それじゃ、顔で選んだみたいじゃん!? ていうか、宗太の方は、どうなのよ?」


「どうって。俺は今、で働いてるよ」


「製薬会社? 薬を作ってるってこと?」


「あぁ、作ったり、売ったり」


「へー、真面目に働いてるんだー。でも、意外」


「意外?」


「うん。宗太は、になるんだと思ってたから」


「…………」

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