第66錠 失敗作


「ただいまー」


 セイラとのデートを終えた誠司は、その後、自宅へと帰宅した。


 一緒にクレープを食べて、他愛もない話をして、恋人との時間は、とても満ち足りたものだった。


 しかも、テストから開放された!

 だからか、誠司は清々しい表情で帰宅した。


 「あぁぁぁ、今日はもう、勉強しなくていいー!」


 玄関にはいるなり、自由を噛み締める。

 だが、帰宅して、ふと気づた。

 

 なぜか、先に帰ったはずの彩葉が、まだ戻っできていないのだ。


「あれ? アイツ、今日は、すぐ帰るっていってたよな?」


 彩葉の靴がないのに気づいて、誠司は首を傾げた。


 帰ってから、また出かけた?

 それとも、また何かあったのか?


 この前は、オッサンに襲われてた彩葉。


 もしかして、また妙な騒動な巻き込まれているのでは?!


(どうしよう……探しに行った方がいいかな?)


 いや、でも、もう高校生だぞ!

 子供じゃあるまいし、そこまで心配する必要は!

 

 あー、でも、この前は、マジでヤバそうだったし! あの時は、俺がいたから助かったわけだし!!


「はぁ、仕方ない。探しに行ってやるか」


 すると、何かあってからでは遅いと、誠司はくるりときびすを返し、玄関から飛び出した。


 というか、なぜこういう時のために、連絡先を交換してなかったのか!?


(母さんに聞けばわかるけど、家に帰ってないなんて言ったら、心配かけるしなぁ……彩葉が帰ってきたら、LINEのIDとか、色々聞いとこう)


 だが、その後、家を出てすぐの所で、目的の人物と出くわした。


「あ!」


 ばったり出くわしたのは、制服姿の彩葉。

 すると、誠司は


「お前、遅せーよ!? なんで、デートして帰ってきた俺より遅いんだよ!?」


「うるせーな。何時に帰ってこようが、俺の勝手だろ」


 相変わらず、口の悪い彩葉が、ツンとした言葉を放つ。


 だが、何事もないようで、誠司はホッとしていた。


「どっか、いってたのか?」


「ちょっとな。それと俺、今夜、友達の家に泊まりにいくから、優子ちゃんに、そう言っといて」


「は??」


 だが、その後告げられた言葉は、あまりにも予想外の言葉で、誠司は面食ってしまった。


 というか、今、なんて!?

 あの彩葉に、友達!?


「お前、友達いたのか?」


「…………」


 そして、信じられないとでも言いたそうな誠司を見て、彩葉は、心なしか苛立つ。


「……一応」


「なんだよ、いるのかよ~! 俺は、てっきり、友達いないんだと思っててさー。なんだ、そっか~! いるなら、良かったわ!」


「…………」


 バンバンと背中を叩く誠司に、彩葉は、無意識に眉をひそめた。


 明るい声が、酷く耳障りだ。


 なにより友達なんて、組織に入ってから、一切、作ってない。


(脳天気な奴だな。あんな組織と関わっていて、友達なんて作れるわけないってのに……)


 危険と隣り合わせの仕事だ。

 下手に仲良くなって、巻き込む訳にはいかない。


 まぁ、目の前のコイツは、例外だけど……


(純粋に喜んでるようでるんだろうな。俺に友達がいるって聞いて)


 誠司は、学校でも、よく話しかけてくる。

 俺が、一人孤立しないように。


 本当に、お節介で生ぬるい。

 その上、正義感が異常に強いのだ。


が変わってても、これなら……変わる前は、もっと……だったのかもな?)


 誠司を見つめながら、彩葉は、セイラのことを思い出した。

 

 あの日、二人に何があったのかは、知らない。


 でも、あの時、彼女が誠司を止めるためにできたことは、これしかなかったのだろう。



「つーか、今から行くのか?」


 すると、また誠司が話しかけてきた。


 彩葉は、気持ちを切り替え、家に入ると、階段を登りながら話す。


「あぁ、日曜まで。だから、二日間は不在にする」


「そっか! 楽しんでこいよ!」


「…………」


 楽しむ?

 確実に、楽しめる外泊ではない。


 遊びではないのだ。


 自分たちは、これから黒と、つまり、犯罪者と対峙しなければならないのだから。


(全く……葵って子も、暴走しそうだし……っ)


 考えれば考えるほど、問題が山積で、吐きそうだ。


 それに、一番の不安要素は──


「誠司。連絡先、交換して」


「え?」


 すると、彩葉は、スマホを取り出しながら、そう言って、誠司は瞠目する。


(れ、連絡先? 確かに、交換しようとは思ってたけど、まさか彩葉の方から言ってくるなんて……)


 驚いた。すごく驚いた!

 

 だが、これも、少しずつ家族になっている証なのだろうか?


「おぉ、俺も聞こうと思ってたんだ!」


 すると、誠司は嬉しそうに答え、二人は、手早くIDの交換をする。


 それぞれのトーク画面に、お互いの名前が表示されれば、電話番号も交換し、一通りの作業を終えた後、彩葉が、意味深なことを言い出した。


「……俺がいない間」


「え?」


と思ったら、すぐに連絡して」


「え? 葉一さん?」


 彩葉の口から、葉一の話が出るのは、初めてのことだった。


 だからか、彩葉が、父親を気遣うような言葉をかけてきたことに、誠司は拍子抜けする。


「葉一さん、どっか悪いのか?」


「いや、どこも」


「なんだよ。驚かすなよ!」


 てっきり、体調が悪いのかと心配したが、どこも悪くはないらしい。


 だが、ほっとする誠司とは裏腹に、彩葉は大きな不安を抱えていた。


 どこも悪くはない、に関しては。だが、それ以上に、心配なことがある。


梁沼はりぬまに打ったcolorfulが、たった二年で切れた。なら、colorfulも、いつかは……切れる)


 組織の薬は、また失敗に終わったらしい。

 

 そして、最近、打たれた梁沼の薬が切れたということは、その前に作られた薬も、十中八九、失敗作だということ。


 そして、失敗作なら、父の色も、いつかはしまう。

 


《お前か……! お前が、やったのか!!》

 

 

 すると、ふいに幼い日の光景が蘇ってきた。


 怒鳴り散らす、父の声。


 そして、あの日は、母を亡くした日でもあって──

 

「彩葉?」

「……っ」


 瞬間、誠司に声をかけられ、彩葉はハッとする。


「……ぁ」


「大丈夫か? 顔色、悪くね?」


「いや、なんともない。とにかく、気をつけろよ」


 すると彩葉は、足早に、自分の部屋へと入ってしまい、誠司は、一人、立ち尽くしたまま


「気をつけろ……って何に?」


 意味が分からず、誠司は、さらに首を傾げる。


 だが『気をつけろ』ということは、心配しているということ。


(アイツ、なんだかんだ、俺たちのこと大事に思ってるんかな?)


 そしてそれは、少しづつでも家族になれている気がして、ほんの少しだけ嬉しくなったのだった。





*あとがき*

https://kakuyomu.jp/works/16816927861981951061/episodes/16817330665427843750

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