第64錠 芸術品


「あら、可愛い~♡」


 そして、その写真をみて、梓が頬を緩めた。

 確かに、抜群に整った容姿をしている子だ。


 西洋の顔立ちで、金の髪も青い瞳も、宝石のように輝かしい。


 それは『コレクションにしたい』と言われたら、思わず納得してしまうほどの美しさで、被害者である少年の写真を見た瞬間、一同が、わっと騒ぎ出す。


「うわ……何この子。人形みたいじゃん」


「確かに綺麗な子ですね?小柄だし女の子みたいだ」


「でも、この事件、もう10年も前の話なんだろ?」


 すると、葵、玲に続き、彩葉が口を挟む。

 山根は、何杯目かのカクテルを飲みながら


「そうだぞー」


「じゃぁ、この子も、今は20歳くらいだろ。10歳の子供ならともかく、50代のオッサンが、どうこうできる相手じゃないと思うけど?」


 10年前に10歳なら、今は20歳。

 大学生か、もしくは、社会人だろう。


  そして、相手が青年なら、そう簡単に誘拐できるはずがない。


「確かに、彩葉くんの言う通りですね。大人を誘拐するのは一苦労。それに、この子だって、ずっと綺麗なままとはかぎらないでしょう。子供のころは美少年でも、大人になるにつれて、残念になるパターンだってありますし」


「あっはっは! 確かにそうだなー」


 カウンターから玲が口添えすれば、山根は、豪快に笑いだした。


「確かに、二人の言う通りだ。神木くんは、今19歳。もう立派な青年で、事件後は、護身術をみにつけて、そこそこ強くなってる。だが、残念ながら、綺麗に育っちゃってるんだよなー」


 そういうと、山根は、タブレット端末を操作し、当時の被害者・神木 飛鳥くんの現在の姿を映し出した。


 その姿は、変わらずに美しいままだった。


 10歳の頃と違い、身長が伸び、大人の色気を醸し出す神木くん。


 それは、まさに芸術品のレベルを、維持したまま成長していた。


「やだー、かなりのイケメンに育ってるじゃない!?」


「本当ですね。まるで、どっかの国の王子様みたいだ。これは彩葉くん、負けちゃいましたね?」


「別に、競ってねーよ」


 玲の言葉に、彩葉が不機嫌そうに答える。


 彩葉だって、かなりのイケメンだが、その彩葉ですら、負けたと思うほどだ。


「でも、現在の写真なんてどうやって?」


「まさか、隠し撮りしたんじゃないでしょうね?」


「いやいや。当時、神木くんと一緒に巻き込まれた少年がいるだろ。橘 隆臣くん。彼のお父さんが、ちょうど警察関係者でね。組織の話をしたら、色々協力してくれた。守るにしても、今現在の彼らのことを知っておく必要があったしな」


 すると、タブレットを操作し、山根は、全員にパスワードを送信した。


 組織のデータベースを閲覧するためのセキュリティコードだ。そして、それを入力すれば、現在、彼らの状況が載っていた。


 神木 飛鳥。現在、大学二年生。

 親は海外赴任中で、下の妹弟と3人で暮らしている。


 そして、その情報と共に、数枚の写真が添付されていた。もちろん、この資料は、流出を防ぐため、この5人しか閲覧できない。


「梁沼が、神木くんが住む桜聖市で目撃された。これは、また神木くんを狙ってるとみて間違いない」


「なんで、そう言いきれるんだよ」


「10年前、梁沼は逮捕された。だが、その後、刑務所の中で、梁沼は神木くんのことを、ひたすら語りつくしていたそうだ。『あの子は、神が私に与えた芸術品だ』と『私にこそ相応しいモノだ』と、朝から晩まで、飽きることなくな」


「…………」


「そして、その執着心は、常軌を逸したレベルのもので、梁沼は、出所時にcolorfulを打たれた。監獄の中のやつは、まさに模範囚だったが、危うい所もあったからな。そして、この神木くんは、梁沼が唯一、手に入れられなかったモノ」


「唯一?」


「あぁ、手に入れたいと思ったものは、どんな手を使っても手に入れる。そんな梁沼が、唯一手に出来なかった芸術品……それが、この子だ。だから、この子の美しさがなくならない限り、何年経とうが、梁沼は彼を狙いに来る」


「………」


 まるで、耳を疑いたくなるような話だった。


 美を追求する人間は、世の中にたくさんいる。


 だが『生きた人間』を、コレクションに加えようというのは、明らかにおかしい。

 

 しかし、世界には、そういった『おかしい人間』が、少なからずいるのだ。


 そして、この組織にいるものは、みんな、その常軌を逸して者たちに、様々なものを奪われてきたもの達だった──…


「というわけで、今週中にカタをつけるぞ!」


「今週?」


「あぁ、だから、彩葉と葵ちゃんは、俺と梓と一緒に、で調査だ!」


「「え!?」」

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