第61錠 仲良し義兄弟
「終わったー!」
期末考査、最終日。
最後に行われた現代文のテストを終えた誠司は、机にうなだれながら、背伸びをした。
長かったテスト期間。
それが、やっと終わり、今は自由だ!
結果はどうであれ、やりきったからか清々しいものだった。
その後、ホームルームを迎え、帰り支度を整えた誠司は、セイラのクラスに向かった。
「セイラ~! 帰るぞー!」
明るく声をかければ、教室の奥にいた、セイラが振り向く。
制服姿のセイラは、今日も抜群に可愛い!
そして、ちょうど帰り支度を終えたところらしい。
セイラは、バッグを手にすると、すぐに駆け寄ってきた。
「テスト、お疲れ」
「おぉ! セイラと一緒に勉強したところが、まんま出たな。おかげで赤点は、まのがれそうだ」
「そっか、良かった」
セイラが、嬉しそうに微笑む。
一緒に勉強をしたからこそ、成果が出たのが嬉しいのだろう。
だが、その瞬間、二人の横を、彩葉がとおりすぎた。
今日もすました彩葉は、変わらずにイケメンだ。
そして、その美形ぶりは、すでに学年中の噂になるほど。
まぁ、転校初日から、ラブレターなんてもらうほどなのだ。噂が広まるのは、あっという間だろうと、誠司も思っていた。
しかも、最近は彩葉のことを、誠司に聞いてくる女子たちもいるくらいだ。
しかし、その噂の中心である彩葉は、さして関心がないばかりか、全く興味がなさそうで。
オマケに、その感じが、男子たちから反感を食らいそうで、誠司としては、気が気じゃなかった。
「彩葉ー、お前、これからどうすんの?」
すれ違いざまに、何気なく問いかる。
すると、彩葉は足を止め
「なんだよ、いきなり」
「いや……今日は短縮授業で、昼過ぎには帰れるし。どっか出かけたりとか?」
「しないよ。家に帰ってゆっくりする」
「そっか」
どうやら、今日は仕事はないらしい。
すると、誠司は
「じゃぁさ。俺、寄り道して帰るから、遅くなるって、お袋にいっとてくれよ」
「寄り道? どっかいくの?」
「ど、どこでもいいだろ……っ///」
だが、そういった誠司は、ほんのり頬を染めていて、彩葉ななんとなく、事態を察した。
テストも終わったし、二人でデートでもしてくるのだろう。実に学生らしい生活だ。
すると、そんな誠司に彩葉は
「自分で伝えろよ。LIMEするだけだろ」
「え!? いいじゃーねーか、別に」
「じゃぁ、覚えてたら」
(っ……こいつ、伝える気ねーな!?)
そっけなく返した彩葉は、その後、スタスタと立ち去っていって、誠司は、彩葉の背を見つめながら、眉をひそめる。
もうすこし、兄弟らしくできないか?と、色々模索しているが、どうにもうまくいかない。
まぁ、あんな得体の知れない組織に関わってる男だ。
兄弟らしくなんて、初めから無理だったのかもしれない。
だが、そう悩む誠司とは裏腹に、セイラは
(誠司、黒崎くんと仲良いんだ……)
と、複雑な心境に陥っていた。
兄弟になった二人は、案外、仲が良さそうで、お互い気をつかうことなく、言いたいことを言い合えている。
だが、仲が良ければ、良いほど、セイラの心には、深い罪悪感と不安が渦巻く。
(黒崎くんには口止めしたけど、もし、誠司に知られたら、やっぱり嫌われちゃうよね)
勝手に薬を打つなんて、人として最低な行為だ。
どんな理由があったとしても、許されることではない。
だからこそ、先になんて進めない。
キスも、その先も、こんな最低な女とは、したくはないかもしれないから……
「なぁ、セイラ。帰りにクレープ、食べにいかないか?」
「え?」
すると、彩葉が立ち去ったあと、誠司が話しかけてきた。
距離が近づけば、いつもと変わらない無邪気な誠司と、視線が絡まる。
「勉強、教えてくれたお礼に、ご馳走する!」
「え、ホント?」
どうやら、デートのお誘いらしい。
そして、その言葉は純粋に嬉しくて、セイラは誠司の手を、そっと握りしめた。
「ありがとう、誠司」
「……っ」
だが、不意打ちで手を握られた誠司の方は、耳まで真っ赤にして、慌てふためく。
なにより、学校では、めったにデレないセイラが、自分から手を握ってきた。
その破壊力は、凄まじいもので──
「セ、セイラ……お前、学校でそんなこと……っ」
「そんなこと?」
「手……握ったりは、よくないぞ!」
「え? 誠司は、抱きしめてくるのに!?」
手を握るくらいで──と、セイラは不思議そうに首をかしげれば、誠司は、また恥ずかしそうにする。
自分からは、イチャついてくるくせに、こちらが攻めたらタジタジになる。
だが、そんな誠司が可愛くて、セイラはふわりと笑みを浮かべた。
「恥ずかしいの?」
「ばっ! んなわけねーだろ!? でも、この前、先生にも注意されたし!」
「あ、そうだった。職員会議にかけるっていわれたんだっけ? じゃぁ、また、あとでね?」
「あとで?」
「うん。学校をでたら、デートするんでしょ?」
小首を傾げつつ、上目遣いで見つめれば、誠司は、また頬を染めながら
「おぉ、あとでな」
そう言って、手を繋いでデートすることを許してくれた。
今の誠司は、colorfulにより性格が変わってる。
だから、これは、本当の誠司じゃないのかもしれない。
でも、どんな誠司でも、セイラは変わらずに、誠司のことが好きだった。
だけど、本当のことを知られたら、幻滅されて、捨てられてしまうだろう。
そう思うと、また胸が苦しくなる。
でも、覚悟はできてる。
自分は、それだけの事をしたのだから──
◇
◇
◇
「………」
一方、二人と別れ校舎から出た彩葉は、スマホを見ながら、眉をひそめていた。
今日は、テスト最終日のため早めに学校が終わった。
今の時刻は、一時半。
しかし、それを見越してなのだろう。帰ろうとしたタイミングで、また組織からメールが来た。
そして、そのメールには
───────────────────────
彩葉~
今すぐ、
待ってるよん♡
山根
───────────────────────
と、山根からのメッセージが添えられていた。
ちなみに、
そして、
(……今日も、仕事かよ)
と、げんなりと肩を落としたのだった。
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