第58錠 二つのアザ


「ただいまー」


 その後、彩葉と別れた誠司は、一足先に、自宅へと帰りついていた。


 テスト期間中とあり、早めの帰宅。

 だが、テストは、まだ2日間続く。


 つまり、明日もテストなので、誠司は、これから部屋にこもって、テスト勉強だ。


(んーと……明日は、英語と社会だったけ?)


 靴を脱ぐと、誠司は、そのまま二階にある自分の部屋に向かった。


 部屋に入り、バッグを置き、制服から私服へと着替える。すると、制服を脱衣所に持っていこうと、再び一階に下りた。


 静かな廊下を歩き、誠司は風呂場へ向かう。


(そういえば……母さんは、まだ仕事か)


 すると、ふと、母の優子が、仕事だったことと思いだす。


 じゃぁ、今は、誰もいないのか?


 ──ガラッ


「あ!」


 だが、脱衣所の扉を開けた瞬間、誠司は、はっと息を呑んだ。


 誰もいないと思っていたのに、誰かいた。

 しかも、風呂に入っていたらしい。


 脱衣所で出くわした人物は、母の再婚相手である、葉一だった。


「あ、ごめんなさい、葉一さん!」


 着替えをしている最中に、扉を開けてしまい、誠司は、申し訳なさそうに謝った。


 まさか、お風呂でばったり、義父と遭遇してしまうなんて?!


「いや、いいんだよ。おかえり、誠司君」


 だが、葉一は、特に気にしない様子で、優しく笑いかけてきた。


 しかし、ズボンは履いているが、上半身は裸。

 といっでも、男同士だし、特に問題は無いのだが……


「すみません、本当に」


「いやいや、気にしなくていい。むしろ、オッサンの裸なんて見せて、すまなかった」


 確かに見たくはなかったが、誠司が確認しなかったのが悪いわけで


「いや、謝んなくていいですよ。それより、こんな時間に風呂ですか?」


 今の時刻は、2時過ぎだった。

 風呂に入るには、まだ早い時間。

 すると、葉一は


「あぁ、庭の草むしりをしていたら、汗をかいてね。早めにシャワーを浴びたんだよ」


「あー、そうだったんですね」


 多分、母に頼まれたのだろう。


 誠司の家は、一軒家。そして、庭の草というものは、あっという間にボーボーになるのだ。


 だから、母が再婚する前は、誠司もよく、庭の草むしりをしていた。


 しかし、これからは、葉一が手伝ってくれるのだろう。


「あの、本当にありがとうございます。大変でしたよね?」


「いやいや、いい運動になった。それに、優子ちゃんに頼られるのは嬉しいものだしね」


「…………」


 新しく父になった葉一は、とても朗らかで、落ち着いた人で、母との仲も睦まじい。


 しかも、義理の息子である誠司にも優しいのだ。

 まさに、理想のお父さんと言ったところ。

 

(ほんと、いい人、捕まえたよなー、母さん)


 しみじみとそんなことを思う。


 だが、その瞬間、着替えをする葉一の胸元に目がいった。


 引っ越しの時にも、ちらりと見えた胸元。

 そして、そこには、があった。


「葉一さん、変わったアザがありますよね?」


「え? あぁ、これのことかい? 綺麗なだろう。いつの間にか、できててなー」


「へー。実は、俺にも同じようなアザがあるんですよ!」


「同じような?」


「はい。ここに!」


 すると、誠司は、Tシャツをまくりあげ、自分の脇腹を見せた。そこには、葉一と全く同じ形をした、菱形のアザがあった。


「おー、本当だ。珍しい形なのに」


「はい。俺も、びっくりして」


 同じ形のアザを見て、二人は、会話に弾ませる。

 すると、それを見て葉一が


「同じ形のアザがあるなんて、まるで、本当の親子みたいだな」


 そんなことを言われると、なんだか、少しくすぐったかった。だが、こんな些細なことでも、共通点があるのは嬉しいものだ。


 この先は、葉一は、誠司の父になっていくのだから。


「そうですね、俺も嬉しいです」


 照れたように笑えば、その後、葉一は着替えを終えたあと、脱衣所から出ていって、誠司は、カゴの中に制服を投げ込んだ。


 だが、その瞬間、ふと思い出す。


(あ、そういえば……葉一さんは、彩葉が、あんな仕事してるって、知らないんだよな?)


 葉一さんは、何も知らない。


 彩葉が、怪しい組織の一員だということも。

 借金があるということも。


(彩葉のやつ、なんで話さないんだろう? やっぱり、心配かけたくないのか?)


 そういえば、葉一さんと彩葉が話してる姿は、ほとんど見ない気がする。


 まるで、避けてるみたいに──…


「あー、どうすりゃいいんだよ」


 わしゃわしゃと髪をかき乱し、頭を抱えた。


 だが、親にも恋人にも、組織のことは話すなといわれた。なにより、話して、巻き込みたくはない。


(……難しい問題だな。でも、今は俺が知ってるわけだし)


 できるなら、誰にも知られないうちに、彩葉を、あの組織から抜けさせたい。


 国家機関といわれても、あまりにも胡散臭いから──


(しかし、性格を変える薬かぁ……飲んだら、どうなるんだろ?)


 よくわからない、未知の薬。


 だが、その未知の薬を、まさか、自分が投与されているなんて、誠司は、夢にも思っていなかった。






✣あとがき✣

https://kakuyomu.jp/works/16816927861981951061/episodes/16817330660985966493

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