第33錠 放課後
「誠司~今から、お前のウチいっていい?」
放課後、教室で帰り支度をしていた誠司を、安西を始めとした数人の友人達が取り囲んだ。
誠司の家で、なにをしようというのか?
その、まさかの提案に、誠司はピクリと眉をひくつかせながら
「なんでうち?」
「そりゃ~、イロハちゃんを、一目見るために決まってんじゃん!」
そう言って目を輝かせる友人達を見て、誠司は絶句する。
イロハちゃんが、まさか「彩葉」という名の「男」だとは夢にも思っていない友人達。
元はと言えば、妹だと勘違いしていた自分のせいなのだが、さすがに引越しを終えた翌々日に、こんな提案をされるとは思ってもいなかった。
「バカ言うな。見世物じゃねーんだぞ」
「いいじゃん。挨拶くらいさー」
「つーか、今後うちをたまり場にすんのナシな。もうお袋と二人だけの家じゃねーし」
そう言って、鞄に教科書を詰め終わると、その話を一緒に聞いていた翔真が
「まー、男子高校生が部屋に4.5人でたむろってたら、イロハちゃんも怖がってでてこねーだろな」
と、どこか呆れたような声を発して、誠司に加担した。
正直、翔真の言う通りだと思う。隣の部屋で、男が数人たむろしていたら嫌だし怖いに決まってる。
まぁ、それも彩葉が女の子だとしたらの話だが…
「そっか~。そうだよな~。でもイロハちゃんに会いたかったなー」
「そういえば、イロハちゃんて、どこの高校通ってんの?」
「えーと、たしか、星ケ峯高校」
「マジ?それ遠くね?イロハちゃんうちに転校してくればいいのにー」
(いやいやいや、一緒の高校通うとかありえねー!!?)
予想だにしない言葉が耳に入り、誠司は心の中で悪態づく。
あんな危ないことしてそうなヤツと、家も一緒で学校でも一緒になるとか、最悪じゃなーか!
しかも、彩葉が転校してきたらイロハちゃんが「男」だったと、皆にバレる!!
絶対、勝手に妹だと勘違いしたバカだと思われる!!
「それより、この後どうする~?」
すると、どうやら誠司の家は諦めたらしい。
安西達は口々に言葉をはっすると…
「あ、じゃぁカラオケ行こうぜ、カラオケ!女子も誘ってさ~」
「誠司、お前もこいよ! どうせ響は今日も塾なんだろ?」
「……!」
そういって、肩を組まれる。
なにより、あっさりカラオケに決まったらしく、ついでにセイラの話題をふられ、誠司は黙り込む。
セイラは週に4日は習い事やら塾などにかよっていて、誠司と一緒に帰れるのは週に1~2日だけ。
そのため、一緒に帰れない日も多いからか、放課後は何かとほかの男子達に誘われ、遊び歩くことも多かった。
(まー…付き合い大事だけど)
断る理由も用事もないだけに、あからさまにNOとは言えないが、あまりカラオケは得意ではない誠司としては、どうも気が進まなかった。
しかも、女子も一緒となると彼女であるセイラに少し申し訳なくもなるわけで……
(まぁ、セイラは、一切、嫉妬してくれねーけどな!)
だが、そんなことをおもっているのも誠司だけなのか、セイラは誠司が女子も含めた数人のグループでカラオケにいくなどと言っても
「うん、わかった。楽しんできてね!」
なんて言って、なんの疑いも持たず、ヤキモチ一つ妬かず、ニッコリ笑顔で送り出してくれる。
別に束縛されたいわけではないが、もう少しこう、彼氏が浮気したらどうしようとか、とられちゃったら嫌だなーとか、そんな、危機感みたいなものはないのだろうか?
(……もしかして、嫉妬する必要がないくらい俺、男として魅力がないとか?)
だから、ヤキモチひとつ妬かないのか?
「はぁ…」
「誠司、行くぞー」
誠司が深く深く溜息をつくと、その瞬間、安西に声をかけられた。
「はいはい」と返事をし、席から立ち上がると、ふと視線を移した窓の外で、ちょうど他の女子生徒と一緒に校庭を歩いている、セイラの姿が目に入った。
今から塾に向かうのだろう。
その姿を見て、誠司は目を細める。
(ホント嫉妬の一つでも、してくれたらいいのに…)
誰かに嫉妬するとか、そんな醜い感情とは無縁そうなセイラ。
時折、その純粋さが、とても、眩しく感じてしまうことがある。
*
*
*
昼休み、若月に呼び出された彩葉は、あの後、授業をサボり、一人街の中を歩いていた。
飲食店やホテルが立ち並ぶ、賑やかな街の中は、夕方になり、仕事を終えた社会人や学校帰りの学生など、そこそこの人でごった返していた。
そんな中、ボルドーのブレザーに身を包んだ彩葉は、その雑踏をすり抜けながら目的地を目指す。
学校を出たあと、一人だけ客に会い仕事をすませた。
今日は珍しく一人だけで終わったが、そのあと報告も兼ねて、彩葉はとある場所に呼び出された。
(……しかし、さすがにキツイな)
軽くネクタイを緩めながら、ため息をつく。
少しばかり身体がダルいのは、疲れているからか?
客に会うのは何かと神経を使うが、最近は仕事だけじゃなく、プライベートの方も忙しかったため、さすがにその疲れもピークに達していた。
(報告すませたら、今日はもう帰って…)
──休もう。
再度深く息をついて、肩にかけたバッグをかけ直す。だがその時…
ガッ──!!
「!?」
突然、背後から腕を掴まれた。
空いたもう片方の腕を取られ、一気に警戒心が高まる。
「本田君!!」
「──ッ」
すると振り向いた瞬間、仕事で使う"本田姓"で呼ばれ、彩葉は目を見開く。
そこにいたのは、40代中盤くらいの男。
そして、その男は、彩葉の腕を強く掴み、息を弾ませていた。
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