第27錠 誕生日


(あー、ムカつく…)


 彩葉の部屋から出た誠司は、むしゃくしゃする気持ちを押さえながら、隣の自分の部屋に戻った。


 これから一緒に暮らすのだから、仲良くしようとしてるのに、明らかに性格がひねくれているであろう彩葉。


 はっきり言って、仲良くなれる自信が無い!


(はぁ……ホントに上手くやっていけんのかな?)


 これから彩葉と顔を合わせるたびに、喧嘩けんかになったりするんだろうか?


 先が思いやられる。


 ──ピコン!


 すると、そのタイミングでスマホが小さく音をたてた。


 部屋の机の上に、置いていたスマホを手に取ると、LIMEの相手は彼女のセイラからだったようで、さっきまでとは一変、誠司の心は一気に明るくなる。


 昨夜も、日付が変わってすぐに『お誕生日おめでとう』のメッセージを届けてくれたセイラ。そして、新しくきたメッセージには


《誠司、今から家に行ってもいい?》


 と、書かれていた。


「……」


 だが、そのメッセージを見て、誠司は考える。


 家にセイラが来るということは、今、彩葉がいる、このタイミングで、セイラがたずねてくるということ。


 ということは、セイラに彩葉を紹介しなくてならなくなるわけで……


(いやいやいや、ちょっとまて!)


 ──まずい!


 セイラには、いつか紹介すると言ったが、まだ彩葉を会わせる勇気がない!


 だって、なんか危ないことしてそうな奴だ!


 しかも、真昼間から名前も知らないお姉さんとホテルに行くようなやつだ!!


 もし、セイラに目をつけられでもしたら、とんでもないことになる!


 なにより、彩葉がなにやってんのかよくわからない今の段階では、まだ紹介すべきではない!!


 そう思った誠司は、セイラに慌てて返信をかえす。


《ごめん!いま家の中、引越しの荷物で溢れてるから、家でまってて!すぐ行くから!》


 すると、それから暫くして


《わかったー!待ってるね~♡♡》


 と、可愛いネコのスタンプが返ってきた。


「よし…」


 誠司は、ホッとしつつも、引越し作業で汗をかいたTシャツを着替えると、スマホと財布、あと鍵を手にし、そそくさと一階におりる。


 脱衣所のカゴに脱いだ服を投げ入れ、廊下の奥の部屋まで行くと、中で荷解きをする優子に声をかけた。


「母さん、俺、出かけてくる!」


「え?どこいくの?」


「セイラのとこ」


「あ~、わかった。夕方までには帰ってきてね!」


 すると、誠司は玄関を出て、セイラの家に向かった。


 誠司の家からは、歩いて10分ほど。スマホを取り出し時間を見れば、時刻は14時40分──


 夕方までに帰るとなれば、少しはセイラと、ゆっくり話しをする時間がもてそうだ。


 せっかくの誕生日。

 やはり、引越しだけで終わるなんて嫌だ。



 ***



 ピンポーン…


 その後、セイラの家に着くと、誠司はインターフォンを鳴らした。


(そういえば、セイラ…クッキー作ったのかな?)


 セイラを待つ間、先週、約束したことを思い出し、誠司は、微かな期待きたいを寄せる。


 やはり、プレゼントは彼女から貰うものが一番嬉しい!


「誠司!」


 その後、玄関の扉が開くと、中からセイラが顔を出した。シフォンのブラウスに、スカートをはいたセイラは、今日も実に女の子らしく可愛いかった。


 誠司は、若干照れつつも、ぶっきらぼうに返事を返す。


「おぅ、待ったか?」


「うんん。誠司、今日は時間ある?」


「あぁ、夕方までなら」


「ほんと! じゃぁ、あがって!」


 セイラがにっこり笑って、誠司を家の中に招き入れると、誠司は靴を脱ぎ、玄関を上がった。


 洋風のオシャレな内装をした一軒家。


 だが、廊下からリビングを見回し、誰もいないことに気づいた誠司は、ふと気になったことを問いかける。


「今日、奈々ななさんは?」


「仕事。夕方まで帰って来ないよ」


 奈々さん──とは、セイラの母親のことだ。


 近所の花屋でパートとして働いていて、誠司も何かと良くしてもらっていた。


(そっか、じゃぁ今は、誰もいないのか…)


「あ。私、紅茶いれてくるから。誠司は、先に部屋にいってまってて」


「え? あぁ…」


 そう言って、セイラにリビングに向かうと、誠司はセイラと別れ、そのまま、2階にあるセイラの部屋に向かった。


 もう、何度と訪れたことがある、セイラの部屋。


 壁際にそって置かれたベッドの前には、薄いピンク色のカーペットが敷かれていて、楕円形のローテーブルが一台おかれていた。


 窓の前には白いデスクと、低めの家具。


 白とピンクを基調にした明るい内装は、とても女性らしく、それでいて、どこか甘い香りが漂っていた。


 誠司は、部屋に入りると、ローテーブルの前に、ベッドを、背もたれにして座り込んだ。


 チェストの上を見れば、先日遊園地で買ったラビリオくんのぬいぐるみが置かれていた。


 見回せば見回すほど、女の子らしい部屋。


 初めて入った時は、すごくドキドキして緊張したが、何度と来るうちに、緊張感は薄れ、今ではひどく落ち着く空間になっていた。


「お待たせ~」


 すると、さして時間もおかず、セイラが紅茶を手に部屋にやってきた。


 テーブルの上にお盆を置くと、セイラは誠司の隣に座り、改めて誠司を見つめた。


 そしつ、二人目が合うと、セイラが少しだけ、もじもじしながら


「せ、誠司、今日は17歳の誕生日おめでとう!」


 セイラと過ごす2回目の誕生日。去年は確か、デートした時に、近くの公園でいってもらった。


「あ、ありがとう…っ」


「あと、約束してたクッキー、愛情たくさんこめて作ったの!」


 そう言うと、セイラがラッピングされたプレゼントボックスを指し出てきた。


 『クッキー焼いて』なんて自分からいっておきながら『愛情こめて』なんてわざわざいわれると、それだけで胸が熱くなってくる。


「これ、食っていいのか?」


 そして、そのクッキーを受け取ると、誠司は、セイラに問いかけた。セイラは「もちろん!」と返事し、誠司はその箱を、なぜかセイラに手渡すと


「じゃぁ、セイラが、食べさせて」


「──え?」


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