第20錠 ヒーローと王子様


「実は、数年前、うちに、金髪碧眼の王子様がまぎれ込んだことがあったんだ」


「いや、何言ってんの?」


 腕を組み、気難しい顔をする隼人に、誠司がツッコむ。

 金髪碧眼の王子様??


「王子様が、紛れ込むわけねーだろ」


「いや、これマジだから! すっごい綺麗な子がさ、うちの遊園地にきたんだよ! 小学校くらいの妹弟きょうだいを二人連れて! 金髪だよ! 碧眼そうがんだよ! しかも美少女、じゃない…美少年だよ! 長年やってて、あんな綺麗な子見たことないし、マジでお客さんたち、ラビリオ君そっちのけで、あっち追いかけるんだもん。俺もびっくりだよ!?」


 なんでも数年前、このラビットランドに金髪碧眼の美少年が迷い込んだらしい?


「でも、これがなかなか不思議な話でさ。お客様は、口をそろえて、アイドルが、お忍びでうちの遊園地に遊びき来たー!って言うんだけど、どんなに調べても、そんなアイドルはヒットしなくて」


「じゃぁ、普通に一般人だったんじゃないですか?」


「いや、セイラちゃん! あれは一般人じゃない! そんなオーラしてた!!」


「でも、アイドルでもなかったんだろ?」


「そうだよ! だから俺は、確信したんだ! きっとあの子は、窮屈きゅうくつな城の生活に嫌気いやけがさして、このラビットランドに羽を伸ばしに来た、なんだって!!」


「ねーよ。それは」


 ヒーローに憧れすぎて、どうやら頭がヒーロー脳になっているらしい。


 大体、どっかの国の王子様が、お供の変わりに、小学生の妹弟をつれて羽を伸ばしにくるはずがない。


 だが、そんな誠司に、隼人は


「ないとは限らないだろ。たまに、お姫様が庶民の格好して城下町に繰り出すみたいな話あるじゃねーか」


「漫画でな! 二次元の話な、それ!! てか、どんだけ綺麗だったのか知らないけど、それ一般人をアイドルと勘違いして、騒ぎになっただけだろ?」


「えー、あんな美人なのに、一般人とかありえる!?」


「知るか」


「それで、その人どうなったんですか?」


 すると、今度はセイラが疑問を投げかけ、隼人は真面目な顔をして答える。


「それが、ファンに追いかけられて、本当に大変そうだったからさ。しばらく事務所でかくまったあと、裏口からこっそり逃がしてあげようって思ったんだけど……なぜか、ラビリオ君の姿で追いかけたら、めちゃくちゃ逃げられた」


「そりゃ、逃げるだろ!!」


 どうやら隼人は、ラビリオ君の姿のまま、全力疾走で一般客を追いかけ回したらしい。


 もはやホラーだ。


「え? なんで逃げるの!? ラビリオ君、こんなに可愛いのに! このつぶらな瞳、見てみろ、キュート過ぎんだろ!?」


「いや、ラビリオ君が問題じゃねーんだよ!! 中身がおっさんなのが問題なんだろ!! 怖えーよ! 逃げるわ、普通!!」


 中身オッサンの着ぐるみが全力疾走して追いかけてくる。なぜ、この恐ろしさが分からないのか?


 素っ頓狂な声を上げる隼人に、誠司は顔をしかめる。


「マジで怖いから、追いかけるのは」


「えー! でも俺は人助けを!……あー、でも、ラビリオくん、しゃべれないしなぁ。やっぱり話せないのは致命的だよな。今から、ふなっ〇ーみたいに話せるようにならないかなー?」


「いや、ショーの時は、めちゃくちゃイケボで話してるだろ? てか一般客、着ぐるみで追いかけた時点で、兄ちゃんは、もうヒーローではねーよ」


 人助けするために、逆に怖がらせてどうするんだ。


 誠司は、自分の叔父のあまりの失態に、その美少年たちに、酷く申し訳ない気持ちになった。


「澤口くん、そろそろ準備始めといてね~」


 すると、もうすぐ休憩時間が終わるようで、事務のお姉さんに声をかけられた。


「はーい。わかってますよー。セイラちゃん、他に聞きたいこととかある?」


「あぁ、そうですね。それじゃぁ…」


 セイラは顎に手を当て考え込む。

 すると…


「誠司は、将来ハゲますか?」


「ハゲるよ」


「ハゲねーよ!? てか、何聞いてんだ!?」


 セイラのまさかの質問に、誠司は少しだけ、自分の(頭髪の)将来が心配になったとか?

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