第18錠 迷子


 その後、プリクラを撮り、またいつもの二人に戻った誠司とセイラは、迷路やアトラクションをいくつか周り、その後、ラビリオくん達が踊るパレードを見学していた。


 明るいテーマソングを流しながら、パフォーマンスを披露ひろうするラビリオくんと他のキャラクター達。


 もちろん、見学者が多いその場所は、人であふれているため、二人ははぐれないよう、しっかり手を繋いでいた。


(うーん……やっぱり、さっきのは…)


 だが、誠司は踊るラビリオくんそっちのけで、プリクラをとった時のことを思い出していた。


 あの雰囲気は確実に、キスできる雰囲気だった。

 だが、あの時は、なぜか避けられた気がした。


 いや、あの時だけではないのだ。


 二人きりなんて、この2年、幾度となく経験してきたことだ。


 お互いの部屋を行き来するのは、しょっちゅうだし、デートのあとの別れ際とか、公園でとか、なにかとになったことがあった。


 だが、なぜかいつも、キスはできない。

 それも、必ず、セイラが話をそらすのだ。


(まさか、俺とキスするのが嫌で、避けられてるのか?)


 そう考えると、益々自信がなくなってくる。


(それとも、ムードが無かった? やっぱり特別な場所がいいとか、あったりすんのかな?)


 ひたすら、原因を考える誠司。

 だが、その時──


「え!?」


 突然セイラの手が離れた。

 はぐれないよう、キュッと握りしめていたセイラの手。


 それが、するりと抜け出して、誠司が慌ててセイラに目をむけると、セイラは、誠司から離れ、勝手に移動していた。


(アイツ、なに勝手に!?)


 この人混みだと、セイラじゃなくても、はぐれかねない。だから見失わないように必死に追いかけるが、そこから数メートルほど離れた場所で、セイラは突如、座り込んだ。


「大丈夫?」

「ひっ、ぅ…っ」


 すると、5歳くらいの女の子が、今にも泣き出しそうな顔をしていて、セイラが、心配そうに声をかけたのがわかった。


(あーなるほど……)


 何事かと思えば、どうやら迷子を見つけて、駆け寄っていったらしい。


「セイラ、勝手にはなれるなよ」


「あ、ごめん。この子、リナちゃんっていうんだって。お父さん達とはぐれたみたい」


 このパレードの人混みに紛れたのだろうか?


 ある意味、祭りのように賑わっているのだから、こんな小さな子がはぐれたら、なかなか見つけられない。


「どうするんだ? 迷子センターに連れていくか?」


「うーん。でも、さっきまで、一緒にいたみたいなの。多分、近くにいると思うんだけど」


「そっか。じゃぁ、親も探してるかもしれないな」


 キョロキョロと、辺りを見回すが、パレード中は、大声て呼びかけるのも躊躇ちゅうちょする。すると、親とはぐれて心細い女の子は、ついに泣き出してしまった。


「うぁぁぁんっ、ママー」


「大丈夫だよ。ちゃんと見つかるからね?」


 すると、セイラは自分がつけていたラビーちゃんのカチューシャを女の子につけると、優しくなだめはじめた。


 そのカチューシャは、女の子には少し大きかったが、嬉しかったのか女の子の涙は、少しだけ引っ込む。


「ひぅ……っ」


「大丈夫、大丈夫。うさ耳付けてたら、背が高くなるから、パパとママも、リナちゃんのこと見つけやすくなるからね」


「ほんと?」


「うん。だからもう少し、お姉ちゃん達と一緒にいてね」


 セイラは、昔から困ってる人がいたら、ほっとけないタイプだった。

 それはデート中だろうが、変わらず。だからか、こういったことに付き合わされるのは、ある意味、日常茶飯事で……


「じゃぁ、俺が肩車してやるよ。そうしたら、もっと背高くなるだろ?」


「え?」


 すると、誠司は膝まづき、女の子に声をかけた。


「リナちゃん、肩車するか?」


「う…うん」


 女の子の承諾を得ると、誠司は肩車をして、また立ち上がる。


 すると、大人より頭一つ分高くなった女の子は、キョロキョロと辺りを見回し始めた。


「パパかママ、見えるか?」


「うーん…」


 誠司の頭にしがみつきながら、女の子が首を傾げる。


 すると、両親の方が気づいらしい。若い男女が、こちらに駆け寄ってくるのが見えた。


「リナ!」


「ママー、パパー」


「よかった! ありがとうございました!」


 その後、両親の元に戻った女の子は、セイラがあげたうさ耳カチューシャつけて、手を振りながら離れていって、いつの間にかパレードは、フィナーレに向かっていた。


 すると誠司は、横に立つセイラをみて、なくなったうさ耳の変わりに、自分の猫耳のカチューシャを付ける。


「おー、やっばり猫耳も似合うな。ニャーっていってみ?」


「え? こんな場所で?」


「嫌か? じゃぁ、今度、家でいって」


「え? そんなに聞きたいの?」


「聞きたい」


「なんか、今の誠司、すごく変態ぽい」


「え?」


 変態と言われて、誠司が目を丸くする。

 すると、セイラは、柔らかく微笑みながら


「さっき肩車してる姿は、凄くカッコよかったのになぁ」


「悪かったな。変態で」


「ふふ。でも、ありがとね、誠司。リナちゃん喜んでたし、誠司って、凄くいいお父さんになりそう」


「お父さん?」


 リナちゃんを、肩車していた姿を見て、そうおもったのか?


 笑うセイラの姿を見て、少しだけ、気恥ずかしくなる。


「お父さん、か……じゃぁ、俺がお父さんなら、お母さんは、セイラ?」


「え?」


 すると、今度はセイラが目を丸くし、その後、未来を想像したのか、花のような笑顔を浮かべ、頬を赤らめた。


「うん。そうなれたら、幸せ……っ」


 その言葉は、紛れもない本心な気がした。

 それなのに──


(なんで、キスは避けるんだろう?)


 セイラの気持ちが、よく分からない。


「でも、さすがに、ラビリオ君と握手は出来なかったね」


「え?」


 すると、ラビリオくんたちが居なくなったステージを見て、セイラがボソリと呟いた。


 そういえば、セイラがしたいといっていたワガママは、もう一つあったな。


「そんなに、ラビリオくんと握手したかったのか? あれ、中身オッサンじゃねーか?」


「そんな夢のないこと言わないでよ。子供たち泣いちゃう」


 いきなり夢をぶち壊す発言をする誠司に、セイラは顔を引きつらせた。


「でも、せっかく来たんだし、ラビリオくんと握手出来たらなーって……だけど、パレード以外でラビリオくんに会うのはレアだし、やっぱり、無理かな?」


 その言葉を聞いて、誠司は一瞬考え込む。

 そして、再びセイラの手をとると


「よし! じゃぁ、会わせてやろう」


「え?」


「ほら、行くぞ!」


「え!?」


 セイラの手を引き、歩き始める誠司。

 だが、いきなり手を引かれた、セイラは


「ちょっと待って、本当に会えるの!?」


「あー会えるぞ。ちなみに年齢は35歳。ラビリオくんみたいにクールじゃなくて、どちらかと言えば、アホな感じの、ちょっとM字に禿げ始めたオッサン。会って、理想と違うって、文句言うなよ」


「え?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る